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195 きれいな名わき役

誤字脱字報告ありがとうございます。

たくさんあっていつも驚いています(;'∀')

これからもよろしくお願いします。



 さて、出来上がった料理を重箱に詰める作業といこう。

 選んだ重箱は、黒塗りに今にも飛び立ちそうな鶴が描かれた、とても美しいもの。

 ふたを開けると内側は朱塗りで、料理を上品に演出してくれるだろう。


 一段目は、きんぴらごぼう、菊の花の酢の物、かぼちゃの煮物、金時豆の甘煮。

 二段目は、根菜と椎茸、わらび、厚揚豆腐や油揚げ、昆布やさつま揚げ、ちくわもどきなど、海と山の素材がたっぷりと入ったお煮しめ。

 彩りに絹さやをのせて。

 三段目は、カツオの漬けで作ったちらし寿司。

 四段目は、栗の甘煮を乗せたお赤飯だ。

 うむ。いい仕上がりだ。

 重箱に詰めた料理を記念に写真に撮って残したいくらいだけど、この世界にカメラはない。残念だ。

 代わりに料理人さん達が仕上がりのイラストを一生懸命レシピに描いている。


「まあ! とっても綺麗だわ!」

「それに重箱に入るととっても上品に見えるわね」

「今までお料理を持って行ったことがないから、絶対驚くわね」

「ええ、楽しみだわ」

 お供え物は、ルードルフ侯爵領で収穫された野菜や果物、そして川魚を中心にしているそうだ。

 そういえば、新鮮で旬の物、そしてその土地で採れたものが基本だと聞いたことがある。

 もちろん私たちも重箱に入ったおはぎや炊き込みご飯の他に、それぞれの領でとれた米や農産物、海産物もお供えする予定だ。

 

 そして、神社に持って行く料理を詰めた重箱を保存魔法をかけた箱に入れた。

 これで神社への供物の準備はオッケーだ。


 さて、ではお待ちかね。

 出来た料理を食べよう!


 お料理はデイン家やバーティア家で作る時と同様に、それぞれ大量に作っていた。

 ここにいる人たちの分の量は余裕である。


 お供え用の重箱が用意できたので、次はもちろん作った料理を試食するのだが。


 ―――いつものお皿でもいいけど、さっき見つけたあれを使って食べたいな。


「―――りーなおばしゃま、こりぇ、ちゅかっていいでしゅか?」

 指差したのは、長方形の小ぶりな二段重ねの重箱。黒塗りの蓋に桜の花が描かれている。

 重箱が並べられていたテーブルの下に、木箱の蓋が開けられた状態で置かれていたものだ。


「どれかしら? あら、これも重箱ね。ずいぶんと小さいサイズだわ」

 入っていた木箱の中を見ると、同じサイズの長方形の重箱が五つずつ、それが三段重なってるから15個かな。

 たぶん、同じ重箱でもそのサイズ感からして神社に持って行く重箱の候補から外されて、箱ごと床に置かれていたようだ。だからこそ私の目に入ったのだが。


 この形とサイズ感。ひとつ手に取って蓋を開けてみたら、中には仕切りも入っていた。

 まごうことなき弁当箱だ。


「あら、これ木箱の蓋に『弁当箱』と久遠大陸の言葉で書かれているわね」

「本当ね」

 リーナ様が木箱の蓋を持ち上げると、メイリーヌ様も近づいてきて漢字で書かれた文字を読んで頷いた。

 本当だ。年季の入った木箱の蓋に、『弁当箱』と達筆な漢字で大きく書かれている。過去にも弁当箱として使われていたのがわかる。

 それなら、これを使いたい!

 重箱は前世でも特別な時にしか使わなかった。

 それに漆塗りのお弁当箱なんてなかったから、ここで見て無性に使いたくなった。

 だって、重箱に入った料理は特別な感じがあるのだ。

 ひとりひとりに綺麗な重箱に詰めたお弁当が渡るなんて、わくわくするよね!


「ちゅくったおかじゅ、こりぇにちゅめたい!」

 期待に目がキラキラしたのが自分でもわかった。気持ちを表現しているように、身体がわくわくしてる。


 お弁当箱を持ってメイリーヌ様とリーナ様を見上げると、とっても優しい顔で微笑んで頷いた。


「ふふ。いいわよ。重箱に入ったお料理、とても素敵だったもの」

「もちろん使ってちょうだい。―――こんな素敵なお弁当箱が長年使われていなかったのね」

 

 お二人に了承を得たので、この重箱を使ってお弁当にすることにした。


 料理は全部ローディン叔父様やリンクさん、そしてローズ母様に作ってもらったので、メイリーヌ様とリーナ様の分を、お弁当箱に詰めさせてもらった。


 重箱用の仕切りや小さな器を使って他の味と混ざらないようにして、上の段におかずを、下の段には赤飯とカツオのちらし寿司を詰める。

 綺麗な弁当箱に、彩を考えながら料理を詰めるのはとても楽しい。

 一度例を見せると、料理人さん達もめいめいに詰め、蓋をして試食用のテーブルに持ってきた。楽しかったのか皆満面の笑顔だ。


 では、みんなで一斉に蓋を開けよう!

 料理人さんたちは使用人なので、普段主人と一緒に食事をとることはない。

 リオ料理長は、侯爵家の食堂に私達のお弁当を運ぼうとしていたけど、せっかくいろんな種類の料理を作ったし、ルードルフ侯爵家の料理人さん達の反応も見たい。


 それは料理を教えたローディン叔父様たちも同じだったらしく、従業員用の食堂で料理人さん達と一緒に食べることを、メイリーヌ様に許してもらった。


 屋敷の主人たちが従業員用の食堂にいるのはものすごく珍しいことだと、リオ料理長たちは緊張しているようだった。


「じゃあ、せっかくのお料理ですもの。さっそくいただくことにするわ」

 メイリーヌ様がそう言い、リーナ様と一緒に重箱の蓋を開けた。

「まあ! これはすごいわね。見たことのないお料理がいっぱいだわ」

「いろんなお料理が一つにまとまって。なんて美味しそうなんでしょう」

「重箱のお弁当箱なんて、初めてね」

「ええ。なんだか特別感があって、とっても楽しいわね」

 メイリーヌ様とリーナ様の声が弾んでいる。

 重箱のお弁当箱は特別感を演出し、いい仕事をしてくれている。


 前世ではお花見によくお弁当を作って持って行った。

 料理が好きな私に、友人が外側が可愛いピンクにウサギ柄がワンポイントについたオーバル型の重箱をプレゼントしてくれた。高級な漆塗りの重箱ではなかったけれど、とても嬉しかったのを憶えている。

 重箱は非日常を演出する名脇役なのだ。

 それにたくさんの料理を詰めて桜の下でお花見をした。懐かしく楽しい思い出だ。

 重箱にいろいろな料理を詰める時も、桜の木の下でゴザを敷いた上で重箱の蓋を開ける時も、とってもわくわくした記憶がある。



 ―――では、私たちも。


「みんないっちょにあけてたべりゅ! ―――いただきましゅ!!」

「「「はい!」」」

「「「いただきます!!」」」

 うん、みんないいお返事だ。

 自分で詰めたから中身を知っているけど、なぜか蓋を開ける時はわくわくするのだ。

 あちらこちらから、『わあ』と歓声が聞こえた。

「お皿に乗せた時と全然違う!」

「作り慣れたきんぴらごぼうや菜の花の酢の物も、特別な料理に見える」

「入れ物でこんなに印象が違うんだ」

 ふふ。そうでしょう? 視覚的にもいい演出だよね。

「さっきは『立派な重箱に入ったお供え物』だったけど、こうして自分が食べられる『弁当箱』になったらすっごく嬉しいものですね」

「わかる。この弁当箱眠らせておくのはもったいないですね」

「うんうん」

 どうやら弁当箱は再度活躍の場を与えられそうだ。



 ―――さて。メイリーヌ様とリーナ様に料理の説明をするのはローズ母様だ。

 ルードルフ侯爵家の料理人さん達は、それをふむふむと聞いている。

 どうやら、めいめいに好きなものを食べるのではなく、まず主人が口に運んでから、同じ料理を食そうとしているようだ。


「これはローズが作ったきんぴらごぼうと、菊の花の酢の物よね。そして、これはお赤飯よね」

 やはりメイリーヌ様とリーナ様はローズ母様が作った物に興味津々だ。

 お二人が一番最初に手を付けたのは、きんぴらごぼう。今までと少し違い仕上げにごま油で香りづけをして、白ゴマを散らした。ごま油はフラウリン領産だ。

「あら、今までいただいたものと違うわね。最後に入れたごま油がとても香りがいいわ。白ゴマも見た目の飾りだけじゃなくて、コクがあっておいしいのね」

 この国にゴマはなかったので、初めて食べた白ゴマやフラウリン領のごま油に感心しきりだ。


「フラウリン領では菜種油を主に作っていますが、以前大陸から購入してきたごま油が美味しかったので、大陸から購入した種で今年初めて作付けし、ごま油を作ったのです。試験的に栽培したので量はあまりないのですが。需要が見込めるようであれば作付けを増やそうと思っているのです」

 ローランドおじい様の言葉に、メイリーヌ様が頷いた。

「是非うちにも購入させてください。それに天ぷらもごま油でいただいてみたいもの」

「ええ。デイン家の料理長が天ぷらを掲げて小躍りした話を聞いたら、ごま油で天ぷらをしてみたくなったもの」

 メイリーヌ様とリーナ様は、料理をしながら会話をしていたローズ母様からその話を聞いて、ごま油に興味津々だった。

 天ぷらはキクの葉や山野草の食べ方として国から国民へと周知されていた。

 ローランドおじい様がごま油を融通することを了承したら、隣のテーブルのリオ料理長が喜色満面になり、コクコクと頷いていた。

 

「キクの花の酢の物はさっぱりしていて美味しいわね。すごいわ、ローズ。料理人が作ったものと同じ味だわ」

 リーナ様はさっきローズ母様が料理している姿を見ていて『私もやれるかしら』と呟いていた。

 どうやら料理に興味が湧いたみたいだ。


 次ははじめて作った栗入りの赤飯。

 ほんのりと甘くした赤飯にぱらりとゴマ塩をかけて。

 最初は赤飯だけで一口。

 もち米のもちもちした食感。赤飯のほんのりとした甘さにゴマ塩の塩味。

 この味の対比が後を引くのだ。ゴマ塩たっぷりめが好き。

 噛んだ時に広がる黒ゴマの香りやコクがまたいい。

「あまくてちょっぱくて、おいちい」

「うん、うまい」

「赤飯はほんのり甘くて美味しいな。それにゴマ塩かけたらなんかさらに美味しくなった」

 赤飯はここで初めて作ったので、リンクさんやローディン叔父様、ローズ母様とローランドおじい様の反応が気になったけど、大丈夫そうだ。

 まあ、ご飯にあんこをたっぷりまぶしたおはぎが好きなくらいなので、大丈夫そうだ。

 デイン家もバーティア家も甘い物好きだよね。

 ディークひいおじい様もあんドーナツ好きだし。


「なんだか、あれよね。アイスクリームに塩コンブ入れた時みたい。ゴマ塩をかけるととてもこの赤飯が美味しくなるわ」

「確かにな。あのアイスクリームの食べ方は美味かった。なるほど、それと同じ感じだな」

 甘いしょっぱいの無限ループ。確かに。


「ゴマ塩追加したいです」

「あ、こっちも下さい」

 と、ゴマ塩の入った皿が料理人さん達で回っていく。お弁当箱のお赤飯が速攻で無くなっていたから美味しかったみたい。


「ゴマいいですね。こんなに小さい粒なのに味にコクがあるし、香りもいい。これを搾ったごま油も風味がとてもよくて仕上げに入れると香りがたっていいですね」

 お。リオ料理長分かってるね。

 今アースクリス国にゴマがあるのはバーティア領とフラウリン領だけだ。

 ごま油はフラウリン領だけだし。いいお客様になってくれそうだ。




お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 続巻が待ちきれず、こちらに読みに来ましたが、書籍とこちらを行き来して読み返していますが、菜の花の酢の物?菊の花の酢の物?どっち?と思っています。 両方あったのなら的外れでゴメンナサイ。…
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