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194 お手伝いのはんちゅう?

誤字脱字報告ありがとうございます。

いつも本当に助かっています。

これからもよろしくお願いします。



 さて、今回はデイン領からのお土産と、バーティア領とフラウリン領のお土産、そしてこのルードルフ侯爵領の実りをふんだんに使った『お弁当』にすることにした。


 醤油や味噌のある久遠大陸の神社に持って行くので、醤油や出汁を使ったものにする。

 ちょうどよく金時豆が水戻しされていたから、それを使わせてもらうようにお願いした。


「んーと、かぼちゃのにもにょ。きんぴらごぼう。きくのはにゃのしゅのもにょ。きんときまめがあったからあまに」

 一段目はルードルフ侯爵領で収穫された野菜でおかずを作る。

 四つに仕切られていたので、指を指して料理名を言うと、ローズ母様やローディン叔父様、リンクさんは『よし、それにしよう』とコクリと頷いた。

 全部作ったことがあるものばかりだからだ。


「にだんめはおにしめ」

 それにもローディン叔父様やリンクさんはコクリと頷いた。

 ローランドおじい様は、好物なので満面の笑顔になった。


 お煮しめは、塩漬けしたわらびの調理例として何品か作ったうちのひとつだった。


 ワラビを美味しく食べれるし、昆布やかつお節の出汁の旨味、そしてさつま揚げやちくわもどきから出る魚の旨味、それに根菜の旨味がプラスされているのだ。美味しくないわけがない。


 こっちにはコンニャクもタケノコもない。前世でよく入れていたフキもない。

 無いものは仕方ないので、手に入るもので作った。


 昆布とかつお節、干し椎茸の出し汁を入れた鍋に、酒、醤油、砂糖、味醂を入れ、人参とゴボウを乱切りに、ジャガイモ、椎茸を入れ、根菜に火が通ったら、春に収穫して塩蔵しておいたワラビを塩抜きをしてたっぷり入れる。次に厚揚げと油揚げ、さつま揚げやちくわもどきを食べやすい大きさにして入れて煮込む。

 十種以上の具材から出る旨味が渾然一体となってとっても美味しい。


 豆腐と油揚げが出来るようになってから、厚揚げ豆腐と油揚げを入れたら記憶に残っているお煮しめに近くなって嬉しくなったものだ。

 油揚げが出来た時に、煮しめと一緒にわらびと油揚げの煮物も作った。

 そっちも簡単に出来て美味しいと好評だったけど、わらび料理の一番人気はお煮しめだったのだ。


「たくさんの具材から出る旨味が出たスープが絶品なのだ」

 ローランドおじい様はスープ多めがお好みだった。

 ―――お弁当は、つゆ入れないけど。


 ルードルフ侯爵家でも、わらびはすっかり食材として定着しているようで、スープの材料として塩抜きされていたのでお煮しめに使わせてもらうことにした。



「さんだんめは、でいんりょうのおみやげで、かつおのちらしずしにしゅる」

「おお! なるほどな! じゃあ次はバーティア領のお土産か!」

「あい。おしぇきはんにしゅる!」

 せっかくもち米と小豆を持ってきたのだ。

 それにお赤飯は前世でも神様へのお供えとされていたのだ。作るならそれが一番いい。

「そういえば、重箱の入って来た箱に『お赤飯』も描かれてあったわね」

 そう。代表的な使用例として、おはぎの他に、おせち料理の絵もお赤飯の絵も料理名と共に描かれていた。

「あい」


 お米を炊くのも小豆を煮るのもローズ母様が得意なので、お赤飯はローズ母様が担当だ。

 赤飯は蒸すと時間がかかってしまうので、今回は時間が短縮できる鍋で炊くことにする。

 

 主な材料は全部バーティア領産だ。

 小豆を一度茹でこぼしして渋抜きをして、硬めに茹でておく。

 もち米をとぎ水気を切った後、小豆、酒、塩、小豆のゆで汁を入れる。

 そして、少しだけお砂糖を入れた。

 甘くない赤飯も好きだったが、前世で母が作ってくれたものはほんのりと甘いものだったから、その味でいくことにした。

 炊きあがったら、赤飯をよそい、栗の甘露煮を綺麗に盛り付け、黒ゴマと塩を合わせたゴマ塩をかけて完成だ。

 うん、うっすらと小豆色の赤飯に、栗の甘露煮の黄色が映えてとっても見栄えがいい。


「まあ! お米がほんのりと色づいているのね。栗の甘煮の黄色も映えてとても綺麗だわ」

「これがゴマなのね。お土産でいただいたゴマのおはぎと少し違うのね」

 少し前にお茶をしながら、お土産のおはぎ三種をいただいたメイリーヌ様とリーナ様。

「ゴマのおはぎの衣は、炒ったゴマをすり鉢で擂ったものにお砂糖やお塩を加えたものでしたのよ」

「「そうなのね」」


 お赤飯と同時進行で、きんぴらごぼうや菊の花の酢の物を手際よく作って行くローズ母様を見て、メイリーヌ様とリーナ様は、すぐ近くのカウンターから身を乗り出して絶賛していた。

「すごいわ! ローズ!」

「本当ね。三品も出来るなんて」

 メイリーヌ様やリーナ様が目をキラキラさせて感動している。

 リーナ様に至っては厨房に入りたいのを我慢しているようだ。


 ―――やがて、時間のかかるお煮しめやお赤飯が出来上がる頃には、他の料理が勢揃いした。


 ローディン叔父様やリンクさんも手分けしながら、カツオの漬けのちらし寿司や、かぼちゃの煮物、金時豆の甘煮、そしてお煮しめと次々と作っていたから、指示を受けて動く料理人さん達は必死に手を動かしていた。

 去年王宮での試食会に出た料理に関しては、試食会に参加した貴族から要望があって後日他の料理を含むレシピを渡したので、ルードルフ侯爵家の料理人さん達は、ローズ母様が今回担当した、きんぴらごぼうや菊の花の酢の物を作れるとのことだ。


 対して、ローディン叔父様やリンクさんが作っているものは、ルードルフ侯爵家の料理人にとって初めての料理ばかり。

 レシピを持ってきていないので、彼らはこの場で覚えるしかないのだ。

 必死に複数のレシピのメモを取り、調理手順や、初めて使う素材やごま油などの説明を聞き逃さないようにと表情は真剣そのもの。

 新しい料理を覚えようと、ローディン叔父様やリンクさんの周りは料理人さん達が鈴なりだ。


 おかげで、初めてお赤飯を作るローズ母様と私の会話や行動に怪しむ人はいなかったように思える。



 ―――実はルードルフ侯爵家に来る前、ローディン叔父様達と約束をしたことがあった。

 これから先、リヒャルトやリヒャルトと同じような考えの者たちが近くをうろつくだろうから、気を付けよう、と。 


 リヒャルトは横領事件の罰としてアンベール国側の国境側での一年間の従軍を命じられていた。

 そしてその期間を終えて、先日王都に帰って来た。

 リヒャルトはクリステーア公爵家の後継者の地位も、貴族としての地位も剥奪され、平民となった。

 しかし平民となってもその服装は以前と変わらず、豪華な邸宅に住んでいるのだという。

 王都に戻ってきて迷いなくその邸宅へ向かったというから、従軍中も仲間と連絡を取っていたことが容易に推測できた。


 クリステーア公爵家の一族であるルードルフ侯爵家の主人、アーレン・ルードルフ侯爵や母君のメイリーヌ様、侯爵の姉君であるリーナ様は、私がいつかクリステーア公爵家に行くということと、私が女神様の加護をもらっていて、知識(記憶)の引き出しを貰っていることをアーネストおじい様から聞いている。


 だけど、ルードルフ侯爵家の使用人の中にリヒャルトと多少なりとも繋がる者がいるかもしれない。

 そして口の軽いような人間はどこにでもいるから、ルードルフ侯爵家にいる時は気を抜かないで加護を持つ者特有の、知識(記憶)の引き出しを疑わせるようなことを極力控えるように、とのことだった。



 私とは違い、幼い頃でも魔法が使えた王妃様でさえ、加護がバレて攫われたことがあったのだ。

 まだ何の魔法も使えず、身を守る術のない私が抵抗できるはずもない。

 人を利用しようとする人間に攫われて利用されるなんて絶対にイヤだ。

 だから、気を付けることを約束した。


 なので、外での料理はローディン叔父様たちにお願いすることになった。

 と言っても、いつも実際に手を動かして作っているのはローディン叔父様やリンクさんなので、何ら普段と変わらないのだが。

 こうやって、ルードルフ侯爵家の料理人の意識を誰に怪しまれることなく自然に逸らしてくれている。それがすごく嬉しい。


 私は、『いつもお手伝いしている』という()()でローズ母様の傍で怪しまれることなく栗入りのお赤飯を作ることが出来た。有難い限りだ。


 それでもかぼちゃの煮物の時は、リンクさんが半年以上ぶりに作るので、調味料の分量を忘れたらしくて呼ばれた。まあこれくらいなら大丈夫だよね。『お手伝い』の範疇だし(?)

「ん~。おしゃけとみりん、おしゃとう、おしょうゆを、おにゃじりょういれりゅ」

「そういえばそうだった。水に調味料を入れて沸騰したら大きめに切ったかぼちゃの皮の面を下にして煮汁が少なくなるまで煮詰める、と」

「あい。そうでしゅ」

 いい感じに煮詰まったところで火を止めた。

 かぼちゃは火を止めて自然に冷ましていくと、醤油や調味料の旨味が奥まで染み込んで美味しくなるのだ。

 時間をおいて試食した料理人さん達が、最初の試食との違いに驚いていた。 

「あ。さっき火を止めた時と全然違う。味が全体にしみ込んでて美味い!」

「ほっくりしたかぼちゃが絶品です! 調味料が染み込んで溶けた感じのところがまた美味しいです~」

「大陸の調味料とかぼちゃって相性が抜群ですね!」

 うん。かぼちゃの煮物って美味しいよね。

 

「アーシェ。ほら美味しいとこ」

 リンクさんは私がかぼちゃの煮物のとろっと溶けた所が好きなのを知っているので、スプーンですくって口に運んでくれた。

 ああ、調味料の旨味が染み込んだかぼちゃの少し溶けたところが、甘じょっぱくてとっても美味しい。

「おいち~い!」

「ほら、もう一口」

 そう言ってリンクさんがもう一匙口に運んでくれた。


 そんな私とリンクさんのやりとりを料理人さん達が『ふふ』と微笑んで見ていた。

 



お読みいただきありがとうございます。

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