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193/313

193 つかんだのはどれ?

誤字脱字報告ありがとうございます!

これからもよろしくお願いします!



 リンクさんが帰って来た数日後、ローズ母様とローディン叔父様、リンクさん、ローランドおじい様と一緒にルードルフ侯爵家を訪問する日となった。


 ―――私はルードルフ侯爵家に向かう馬車の中で眠ってしまったらしい。

 たくさんの人の声で目が覚めたら、ルードルフ侯爵家の玄関ホールで、金髪のとても綺麗な夫人がふたり、私のすぐ近くにいてびっくりした。

「あら、びっくりさせてしまったわね。ごめんなさいね」

「ふふ。寝顔も可愛いけれど、目を開けた方がやっぱり可愛いわね」

 夫人たち二人は、眠ってしまった私を抱っこした状態のローランドおじい様とご挨拶を交わしていたようだ。たくさんの人の声は、ローズ母様たちが挨拶を交わしていた声だったみたい。

「アーシェラ。ルードルフ侯爵の母君であるメイリーヌ様と、侯爵の姉君でケイルネン伯爵夫人のリーナ様だよ。ご挨拶しなさい」


 ん? 抱っこされたまま?

「おりりゅ」

 そう言うと、残念そうにローランドおじい様が降ろしてくれた。

 でも、ご挨拶はちゃんと失礼の無いようにしなきゃいけないよね。

 マリアおば様に教えてもらった通りに、ご挨拶。

「おはちゅにおめにかかりましゅ。あーちぇらでしゅ」

 舌足らずは相変わらずだが、仕方ない。にっこり笑顔でご挨拶するから許して欲しい。


「まあ、なんて可愛いのかしら。ええ、初めましてよね。―――抱っこしてもいいかしら?」

「あい!」

 素直に手を伸ばしてメイリーヌ様に抱っこしてもらったら、とてもいい香りがした。優しくて柔らかい。

 ―――ん? どこか深いところで、何かが『かちり』と繋がった感じがした。

 メイリーヌ様は『あら』と嬉しそうに呟いて、私の髪を撫でて、にこりと微笑んでくれたけど。―――さっきのはなんだろう??

 金色の髪を結い上げた前ルードルフ侯爵夫人のメイリーヌ様はクリステーア公爵家出身でアーネストおじい様の叔母様に当たる方だ。

 クリステーア公爵家直系の血を引くメイリーヌ様は、アーネストおじい様と同じ濃い緑色の瞳をしていた。

 ―――ああ、なんだか妙に安心する。何故か分からないけど。


「お母様ずるいですわ。わたくしにもいらっしゃい、アーシェラちゃん」

 リーナ様はメイリーヌ様から私を受け取ると、きゅうっと力を込めて抱きしめた。

「ああ~。アーシェラちゃん、可愛い~可愛いわ~」

 あうっ。リーナ様、ちょ、ちょっと力が強いです~。



「―――孫は男の子ばかりだから、女の子が家にいるのは久しぶりね」

「うちの子たちは今仕事を覚えるのに忙しくて、一緒に食事するのもままならないのよ」

 リーナ様は成人した子供が二人いるというけれど、とてもそうは見えない程お若い。

 それは母君のメイリーヌ様も同じで、60代と聞いているが見た目は40歳前後くらいだろうか。

 魔力の強い女性は成長が遅い。それは老化が遅いのと同じだと王妃様から聞いていたから、私の将来を見ているような不思議な感覚がある。 


 ―――ん? そういえば、ご当主のルードルフ侯爵様は?

 人を探すような仕草で分かったらしい。メイリーヌ様が教えてくれた。

「アーレンは王都に行っていて、今日戻ってくる予定なの。たぶんもう少しで帰ってくるはずよ」

 アーレン・ルードルフ侯爵は裁判官で、近いうちに裁判長になることが決まっている方だ。

 そちらの仕事で一家そろって王都にいることが多くて、今回久しぶりに領地に戻ってくるのだそうだ。



 ◇◇◇



「このひとが、たいりくのおひめしゃま?」

「ええ、ヒオ様と仰るのよ」

 侯爵家のプライベート空間の一室に、代々の侯爵夫妻の肖像画が飾られている。

 久遠大陸から嫁いできたというお姫様のことや神社の話を聞いていたら、この部屋に案内されたのだ。


 真っすぐな長い黒髪に深い藍色の瞳。

 久遠大陸から嫁いできたというお姫様。

 久遠大陸は前世の日本にとてもよく似ているので、顔立ちもそうかなと思っていたけど、お姫様の肖像画を見る限り少し違うようだ。

 顔立ちは前世のアジア系西洋人という感じで、目鼻立ちがはっきりとしたとても綺麗な人だ。


 そして代々の当主は皆金色の髪をしている。

 瞳の色は、ルードルフ侯爵家初代の当主はクリステーア公爵家の次男だったことから緑色。

 その後、女性が当主となり、夫君となった方の瞳の色を子供が受け継いでいたりするので、瞳の色が違うこともあるが―――多くの方たちは青緑色の瞳を受け継いでいるようだ。


 ルードルフ侯爵家の青緑色の瞳を受け継いだリーナ様が、『そういえば』と気が付いたように言った。

「アーシェラちゃんがお土産に持ってきてくれた重箱だけど、侯爵家(うち)にもあったのよ」

「ええ、リオ料理長がお料理の入った重箱を見て驚いていたわ」

 そうなんだ。ヒオ様は久遠大陸出身だから重箱があってもおかしくはないよね。

「ヒオ様がお亡くなりになってから久遠大陸のお料理を作る人はいなくなってしまったから、自然と使われなくなってしまったのね」

 なるほど。ヒオ様自身はお料理をする方ではなかったらしい。

 ヒオ様に付いてきた久遠大陸出身の料理人さんは、ヒオ様が生涯を閉じた後、生まれ故郷である久遠大陸に戻ったそうだ。

 侯爵家には当時使われていた漆器の器や重箱が残っているが、今では使い方が分からずただ大事にしまい込まれているそうだ。


「アーシェラちゃんがお供えに重箱を持って行くのだから、ルードルフ侯爵家としても重箱に入れた物をお供えに持って行きたいと思っているのよ。何がいいかしら」


 重箱といえば、普通真っ先に脳裏に浮かぶのはおせち料理だ。

 だけど、おせち料理は手間がかかるし、作り方も少々おぼろげだ。


 ―――前世では、重箱はその昔お弁当箱として使われていたということを思い出した。

 そういえば幼い頃、運動会のお弁当は何故か重箱に入っていた。おにぎりとかおかずも。

 そう考えたらハードルは低くなるか。


 ―――よし、決めた。お弁当にしよう。



 ◇◇◇



 ルードルフ侯爵家の厨房に行くと、テーブルの上には、大事にしまい込まれていたという、螺鈿細工が施された重箱やシンプルな重箱など、様々な重箱がいくつも乗っていた。


 別のテーブルにはバーティア領からのお土産と、デイン領、そしてフラウリン領からのお土産の箱が乗っていた。


 まずは料理長のリオさんとご挨拶。

 黒髪にこげ茶色の瞳のリオさんは、ご先祖に神社関係の人がいるらしい。

 神社の責任者である宮司さんと、神にお仕えする人たちは久遠大陸から派遣されて来る。

 そしてその方達が任期を終えてもこちらに根付くこともあり、こちらで生を受けた子孫が久遠大陸に渡って神職の資格を取って戻ってくるということもあるとのことだ。

 小さな神社と聞いていたから神社には数人しかいないのかと思ったら、結構な人数がいるみたい。



 ――さて。デイン伯爵家からのお土産はもちろん海産物だ。唯一海に面しているデイン領からのお土産は珍しいものばかりで、料理人さん達が物珍しさに目をキラキラさせている。

 陶器に綺麗に並べられたタラコや明太子を見て、『たらこスパゲッティが作れます!!』と歓喜していた。おや、王都からこんなに離れたところでもたらこスパゲッティは食べられているんだね。


 バーティア子爵家からのお土産は主に農産物だ。米ともち米、今年初めて作った小豆やゴマなど。

 そして、重箱に詰めて来た米料理となる。


 その他にリンクさんがフラウリン子爵領から取り寄せて持ってきたのは、今年から始めた養蜂で採れた数種類の蜂蜜と、まだ出来たばかりのごま油だ。


 テーブルに広げられた海産物や農産物などの食材を見て、メイリーヌ様やリーナ様は目を輝かせている。

「まあ! 見たことのないものが沢山だわ」

「そうですわね。わたくしたちはお皿にのったお魚やお料理を頂いているだけで、食材を見ることは殆ど無いのですものね」

「ふふ。私も同じようなものでしたわ。魔法学院の実習でも食材はカット済みでしたし何をどうすれば食べられるようになるか分からなくて大変でしたわ」

 貴族の令嬢とは普通そういうものだ。

 ローズ母様は必要に迫られたから、料理が出来るようになったのだ。


 ローズ母様がお土産のかつお節や食材を手に、メイリーヌ様やリーナ様にいろいろと説明をしていた。


 貴族のお屋敷の料理人さん達はそれぞれ腕のいい者たちが揃っている。

 そして料理人としての矜持(プライド)があり、他人に厨房に入られるのをよしとしない風潮があるのが普通だということだ。


 これまで私はデイン家やバーティア家の厨房は家族の家ということで、気軽に出入りしていた。

 クリスウィン公爵家では、主人である公爵様や後継者のリュードベリー侯爵、そして王妃様からの要望があったこともあり、厨房の料理人さん達もすんなりと私たちを受け入れてくれた。


 ルードルフ侯爵家の料理人さん達はどうかな? とちょっと心配したけど、厨房に来てみたら、ちょうどお土産の重箱を広げていたところだった。

 お土産は沢山作って持ってきていたので、もちろん料理人さん達にも振舞われたからだ。


 お土産にはおはぎといなり寿司。炊き込みご飯とおこわが入っていた。


 料理人さん達は新しい料理に貪欲なんだよね。

 彼らは初めて食べた、おはぎやいなり寿司に心を鷲掴みにされたようで、ローディン叔父様やリンクさんにかぶりつきで作り方の教えを乞うていた。


 ふむ。どうやらここで料理をしても大丈夫そうだね。


 美味しいものって、心を掴むのかな。

 というより胃袋をつかんだ感じ……?




お読みいただきありがとうございます。

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[気になる点] 前々から実年齢より若い理由を、魔力の高い「男性」と「女性」と書き分けているようですが、魔力の高い人間は「総じて」ではダメなのでしょうか。 気にし過ぎかもしれませんが…今後の物語のために…
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