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186 おなじ色のひとみ

コメントありがとうございます。

なかなか返信できませんが楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いします。


ここから数話ローディン叔父様視点になります。




「クリステーア公爵、少しお話をしたいのですが、よろしいでしょうか」

 衝撃の話を聞いた後、夕方には帰るというクリステーア公爵の客間へと足を運んだ。

 アーシェは泣いて疲れてしまったのか、眠ってしまったので姉と祖父に預けて来た。


「ああ、もちろん」

 クリステーア公爵はそれを予想していたかのように頷き、私を部屋に招き入れた。

 クリステーア公爵夫人は王妃様に呼ばれて行ったとのことで、部屋には二人きりだ。

 私の様子を見たクリステーア公爵は部屋に防音の結界をかけ、私に話を促した。


 ―――心を決めて、これまで疑問に思っていたことを切り出した。


「―――私がウルド国から帰ってきた際に、アーシェが意識(こころ)を飛ばしたことを聞きました」

 アーシェの魔力鑑定に立ち会う前に国王陛下に呼ばれ、クリスフィア公爵と共に冬にあった事件の顛末を聞いた。

 その上で王家と四公爵家の者が意識を飛ばすことが出来ること、そしてそれが極秘事項であることも知らされた。

 アーシェが意識を飛ばすことが出来たのは、女神様の加護を持っていたからなのだと、その時は納得した。


 けれど。暫くしてから姉にその時の話を詳しく聞いた時に、驚くべきことに気が付いた。


「アーシェは魔力切れを起こして倒れた時、頭を上げることも腕を上げることも辛そうだったと姉から聞きました」

「ああ、その通りだ。感応はさほど魔力を使わぬが、意識を飛ばすのは相当魔力を使う。王妃様が先ほどおっしゃったとおり、あれは本来成人近くからでなくては出来ぬことなのだ」


「……そしてその時駆け付けてくださったクリステーア公爵が、アーシェに『魔力を分け与えた』のだと聞きました」


 その話を聞いた時に『まさか』という思いが駆け巡った。


 魔力の弱い者は、そもそも強い魔法を使えない。身体が身の丈に合わない言霊をはじき返すからだ。


 だが、訓練を重ね、強い魔力を持つに至った高位の魔術師は、強い言霊で魔力を行使し、魔力の限界を感じても魔力を無理やり絞り出してしまえるのだ。

 魔力は生命力と密接に絡み合い、つながっている。

 ゆえに魔力を使い果たすと、身体を動かすこともきつくなるのだ。


 魔法学院での、私とリンクの実践訓練の教師はクリスフィア公爵だった。

 私とリンクは、幼い頃からバーティアの祖父に魔力操作や魔道具の扱い方を仕込まれてきたので、魔法学院に入学した時点で、魔力操作などの実践部分については、すでに卒業資格を貰えるほどだったらしい。


 私とリンクは子爵家の後継者であり、魔法を扱う職業に就くわけでもないので、そこそこに魔法を使える程度でいいはずだが、クリスフィア公爵はバーティアの祖父から伝言をされていたらしい。

 ふたりの力を最大限に引き出して欲しい、と。

 どうやら祖父は私たちの身体の成長具合をみながら教えていたので、自分が目指していた高位の魔力操作の領域まで出来ていなかったとのことだった。

 祖父はとことん『魔法学院の教師』だな、と思ったものだ。


 おかげで高位の魔力操作をクリスフィア公爵から仕込まれた。

 魔法学院が入学資格を14歳からとしていたのは、一般的に魔力を扱う為の身体の準備が整う時期がそれくらいだからだ。

 身体が成長し、魔力が十分に使える身体に整ったことで、クリスフィア公爵が教えてくれる高位の魔術が身について行くのは、単純に楽しかった。


 そして、ある日、クリスフィア公爵と高位の魔術訓練をしていて、限界まで魔力を使い果たした時に、初めて魔力切れを起こした。

 得も言われぬ脱力感。倒れたまま、腕一本いや指一本動かすのも辛い。

 その時、クリスフィア公爵が、私やリンクにいくつもの結晶石を手に握らせた。

 結晶石から魔力が入ってきて、身体に力が戻って来た。

 その結晶石は授業の一環で魔道具の動力源として私の魔力を込めて作ったものだった。


 力の込められた結晶石を魔法を使う時の増幅剤にすることは常識だが、身体の魔力補充も出来るのだなと納得した。これは高位の魔術師が魔力切れを起こした時の対策としてよく使っているとのことだ。

 そして、その時に教えられたのは。

 魔力が『一致』しないと、身体に取り込まれないということ。

 だから、私とリンクの結晶石を入れ替えても身体に取り込まれないということ。

 試しにひとつ交換してみたが、結晶石に込められたリンクの魔力は私の中には取り込まれなかった。


 そして魔力切れを体験させたのは、そもそも魔力切れを起こさないように調整することが大事だということを覚えさせるためだったという。

 確かに、この状態はきつい。

 自分の力が入った結晶石を使って力を戻しているが、すぐに回復というわけではなく、時間がかかっている。もし、結晶石が無い場合は、魔力の回復を促進する薬を服用して自らの身体の治癒に任せるしかないという。


 そして、『裏技があるがこれは極秘情報だぞ』と他言無用を約束したうえで教えてくれたことがあった。

『魔力はそもそも血で受け継がれる。だから直系であれば魔力を分け与えることが出来る。リンクならデイン伯爵や前伯爵。ローディンであればバーティア先生か。―――ローディンの父であるダリウスはそもそも高位の魔力を覚醒させなかったから対象外だな』と。

 そもそも魔力を渡せる程の能力者は高位の能力者だけで数えるほどしかいない。


 辺境伯家であるデイン伯爵家も、魔力に造詣が深いバーティア子爵家も高位の魔力を持つ家系だ。

 私やリンクに何かあった場合、もしくは祖父たちに何かあった時は助け合えるということだ。


 だがなぜ、人同士の魔力のやり取りが秘匿されているのか。


 その理由は大きく分けて二つあると教えられた。


 ひとつは、魔力は自分の生命力に結びついている為、多量に相手に渡すと自らの身体を損ねることがある、ということ。


 そして、ふたつめの理由にして、一番重要である理由は、無理やり合わない魔力を相手に送り込んで()()()()()()危険性があることだ。


 ―――昔、強い魔力を持って生まれた子供が、虐待をしていた親戚に殺されそうになった。

 命の危険により突然覚醒した子供の強い魔力が、掴まれていた腕から親族に流れ込んでしまい―――その親族は、身体が強い魔力を受け付けず、のたうちまわって苦しんだ、という事故があった。


 その際、その事故の事実を安易に公表することは危険であると判断された。

 高い魔力保持者を利用し、悪しきことにその手口を使う者が出るだろうと、容易に予測がついたからだ。


 ふたつの危険性から、当時の国王陛下はその事件の事実を伏せて、人同士で魔力をやり取りする方法の一切を秘匿することに決めたのだそうだ。


 そしてそれは、代々強い魔力を持つ王家と公爵家のみに伝えられている事柄であるとのことだった。


 ―――そうクリスフィア公爵に教えてもらったことが記憶に残っていた。



 ―――だから、姉からアーシェが倒れた時の顛末を聞いて驚いたのだ。


 クリステーア公爵が、魔力切れで倒れたアーシェに迷わず魔力を分けた。

 ―――それも、アースクリス国でも最高位に位置する強い魔力を。

 そして、アーシェはその魔力で回復したのだという。



 ―――その事実が示すものは、一つしかない。


 それは、アーシェが、その強い魔力を受け取ることが出来る者であること。


 ―――つまりは、クリステーア公爵家の直系の血を受け継いでいるということだ。



 そして、その事実を、クリステーア公爵が知っている故の行動であったということだ。



「私は魔法学院時代に魔力切れを経験しています。その時クリスフィア公爵から聞いたのです。―――姉は、魔力のやり取りが秘匿されていることを知りません」

 だから姉は、クリステーア公爵がアーシェに魔力を分けてくれたその行動が、重要な事実を示していたことに気づかなかったのだ。


「―――なるほどな」

 私の言葉を聞いて、クリステーア公爵が頷き、顔を上げた。


「―――そなたの想像した通りだ。アーシェラはローズが生んだアーシュの娘。私の大事な孫娘だ」


「――――――!!」

 予想通りの言葉がクリステーア公爵の口から出たことに、言葉を失くした。


 アーシェは姉の産んだ娘。そして、本当の私の姪だということだ。


 クリステーア公爵は真っすぐに私の瞳を見た。

 そして気付いた。

 クリステーア公爵の瞳の色が、先ほどまでの緑色とは違った『薄緑色』―――


 ―――アーシェと同じ色の瞳であることを。




お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
学院時代のそこそこ付き合いのあった先生の目の色を知らないということはないのでは。 公爵の弟だってそうですし。 公爵はアーシェラの目の色を変えた方がよかったのではないでしょうか。
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