182 その笑顔が怖いです
誤字脱字報告ありがとうございます。
たくさんあって毎度驚いています。
これからもよろしくお願いします。
「「「!!」」」
ローズ母様とローディン叔父様、そしてローランドおじい様が驚きのあまりに声を詰まらせた。
「調べているうちに、その計画が進んでいることが明らかになったのだ」
「ああ。三国を属国としたのち、玉座を簒奪するつもりだったらしい」
クリスウィン公爵が苦々しく言った。この話の流れになると同時に、少し離れていた席にいた王妃様達が全員私たちのいる席の方に移って来た。確かに、ちゃんと近くで話した方がいい案件だ。
―――一年と少し前、国王陛下は四公爵と共に、この戦争を本当の意味で終わらせるために、ほとんど休戦状態だった三国にアースクリス国自ら侵攻することを国中に表明した。
「情報によると、陛下が侵攻を決められた際に、リヒャルトは反逆の時期を決めたらしい。戦争は陛下や四公爵にさせ、三国をアースクリス国の属国とした後、その後我々や王家を滅ぼし、王家の血を引くクリステーア公爵家のリヒャルトが玉座に座る。―――そういうシナリオだ」
―――唖然とした。
どこをどうしたらそんなことを思いつくのか。
王家が四公爵がどんなに危険なことを自ら引き受け、民の為に動いてきたか。
そんな人たちを殺して、自分は何も民の為にしてこなかったくせに、のうのうと自分が王になるつもりだというのか。
自分の我欲の為に、アーシュさんに向けて執拗に暗殺者を放ち、立場を利用して巨額の横領で懐を肥やしていた人が?
その仲間も、弱い立場の者たちを虐げてまでも己の欲を優先していたクズたちだ。そんな人間が万が一にでも、上に立ったら民たちはどうなる?
国や民が疲弊し、崩壊していくのは目に見えている。
冗談じゃない!
―――沸々と怒りがわいてきた。
「ひどい! あーちぇ、りひゃると、きりゃい!! だいきりゃい!!」
べしべしと手で膝を叩いた。地団駄踏むのはちょっとお姉さんになった(?)ので自重しているのだ。もちろん心の中では盛大に地面を踏み鳴らしているが。
「まったくだ。随分と身勝手極まりないよな?」
「そしてあいつの仲間を新たに四公爵に据えるつもりだそうだぞ」
「四公爵の役目を知らぬ者が。名目的な地位だけでこの国を支えることが出来ると思っているのか」
クリスフィア公爵やクリスウィン公爵。そしてリュードベリー侯爵が剣呑なオーラを放っている。相当頭にきているのがありありと見える。
それはそうだ。自分たちを殺そうと企てているのだ。怒り心頭なのは当たり前だろう。
「よくもそんな反逆を企てたものよね。それに隠し金で秘かに私兵を集めているのでしょう?」
王妃様が呆れかえってそう言うと、クリスウィン公爵が頷く。
「その金だって真っ当なことで得た金じゃない」
怒りと呆れに満ちた会話を聞いていて、ふと、頭に浮かんできたものがあった。
―――そういえば、あの時。
「かろりーにゅ、『いまじゃなくても』っていってた」
「カロリーヌ?」
「あい。きょねんおうきゅうで、わりゅいことちたりひゃるとが、おしおきで、いちねんかんあんべーりゅのほうにいくっていったとき」
私がカロリーヌを見たのは、初めて王宮に行った時。
王妃様が大きな絵画に魔力でカロリーヌが騒いでいた映像を映して見せてくれた、その時一度だけだ。
あの時にカロリーヌが言ったその一言が、『どうしてだろう』ってずっと気になっていたのだ。
その時のことを思い出した王妃様が。
「そういえばそんなことを言っていたわ。となると、カロリーヌはリヒャルト達の目的を知っていたということかしら。―――『今じゃなくても』ね。確かに、反逆を狙う彼らにとって、公爵達が出征して不在になる時期が暗躍する絶好の機会。その間に色々仕込もうと思っていたということね」
「なるほどな。それが、その準備の為の大事な時期に思いがけず首領であるリヒャルトが捕まり、一年もの間王都から離れざるを得なかった。―――あやつらにとって相当計画が狂ったということだな」
クリスウィン公爵がニヤリと笑む。
「それに、捜査による誓約魔法の行使を恐れ、その計画を知るリヒャルトの側近たちをすぐに殺害した。この謀反計画を側近たちにバラされたくなかった、ということだ。用意周到なことだ」
クリスフィア公爵の吐き捨てるような言葉に、リュードベリー侯爵が『そうだな』と頷いた。
「証拠隠滅の為にリヒャルトの側近たちを殺したことで、リヒャルトの反逆の企みは公的にはバレなかったが、リヒャルトの手足となる者が幾人もいなくなった。それで余計に計画の進みが遅くなったわけだな」
クリスフィア公爵たちの会話に、話が見えない私とローズ母様とローディン叔父様が首を傾げていたら、そのあたりの話を教えてくれた。
昨年発覚したリヒャルトの横領事件の際に、リヒャルトの側近ともいえる者たちが数日のうちに幾人も殺害されたということ。
リヒャルトが捕縛され、数時間後にリヒャルトの家に家宅捜索に入った時には、あちこちに使用人たちの遺体があったそうだ。
不正を犯し、巨額の公金を横領した事件。あきらかに重罪だ。
真実を明らかにするための誓約魔法が行使されることは確定だった。
―――重大事件を暴くための誓約魔法は当然強力なものだ。偽りを述べれば術によって命を失いかねない。
それを行使されることにより、計画中の反逆の企みが暴かれることを恐れて、リヒャルトの仲間がリヒャルトの反逆計画を知っているであろう使用人を口封じしたとのことだった。
あまりの証拠隠滅の速さに、巨額横領の裏で企てているものが相当に危ないものであることを感じずにはいられなかった、と公爵たちは口をそろえた。
「なるほど。カロリーヌもその計画を知っていたから、あれほどしつこく赤子がクリステーア公爵家の血筋だと言い張ったということか。赤子の血統が次代の王として正当なものであるという確証を得たかったのだろうな」
まったく、とアーネストおじい様が額に手をあててため息をついた。
私が思い出した言葉で、カロリーヌも謀反計画を知っていたということがほぼ確定したようだ。
「反逆を企てている者に慈悲など一切必要ないですね。さてどんな方法で処理しましょうか」
穏やかな物言いだけど、目が全然笑っていない。あう。リュードベリー侯爵、その笑顔怖いです。
「ああ。―――どう締め上げようかな」
そしてそんなリュードベリー侯爵の言葉に、クリスフィア公爵がくつくつと笑み、悪そうな顔で応えている。
そんな二人の言葉に、王妃様が『いつでも力を貸しますわ』と言っている。
公爵様たちは規格外に強い。
そして異界の魔術師の力を持つ王妃様の魔力があったら、反逆者たちもたまったものじゃないと思うが。
公爵たちや王妃様が私の味方でよかった。
絶対勝てないもの。
どうして今まで逮捕しなかったの? って聞いたら、陰で処刑するのではなく、言い逃れできない証拠を掴み、公の場で罪を明らかにする必要があったとのことだ。
リヒャルトはアーシュさんやローズ母様の暗殺は失敗してきているけど、かなりの人を殺害してきているらしい。
それには反逆を企てている貴族たちも噛んでいる。
リヒャルトに殺害されながら公的には事故死と処理され、無念の思いを抱いた人が何人もいたのだと聞いて、切なくなった。
リヒャルト、そしてその仲間を捕まえて、犯した罪を白日の下に晒す。
そして『相応しい最期を』というのが国王陛下の意志なのだ。
「大きな捕り物になる。爵位持ちが減るな」
「そうですね。これまで巧みに陰に隠れていた者たちの証拠を見つけることが出来てよかったです。これまでトカゲの尻尾切りで、リヒャルトやその仲間が黒幕だと分かっていても、処刑するだけの証拠を見つけられずに難儀していましたからね」
「??」
爵位持ちが減る? 首を傾げた私に、リュードベリー侯爵が気が付いて。
「アースクリス国の全教会にキクの花を植えたリストから、面白いことが明らかになったのですよ」
キクの花はたしか、カシュクールやヌイエ、ノワールの犯罪を示唆していた。
「『忠臣』という仮面を上手に被った反逆者たちを、女神様の花が教えてくれたのです。反逆罪なので当然極刑です」
剣呑な言葉を口にしながら、にこりとリュードベリー侯爵が微笑んだ。
「あ、あい」
うん。リュードベリー侯爵、怒ってるんだね?
さっきと同じで目が全然笑っていないよ。
その笑顔がとても心情を表していて、怖いです。
お読みいただきありがとうございます。