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180/310

180 底なしを検証してみました

コメントありがとうございます。

なかなか返信出来ませんが楽しく読ませていただいています。

これからもよろしくお願いします。


お肉の焼き具合、しっかり焼いたステーキも好きですよ~♪



「あーちぇ。ぎゅうかちゅとか、ちきんかちゅもしゅき」

 と言ったら思った通り、すかさず料理人さん達が動き、牛カツとチキンカツも揚げられた。

 うん、言ってみるものだ。皆でやってくれるので楽だ。


 牛カツはミディアムに仕上げて、わさび醤油を別に添えて。

 チキンカツはもも肉を使ってジューシーに。そしてやっぱり濃厚ソースで。

 ふわあ。久しぶりだけどやっぱり美味しい~~


「牛カツも美味いな! 火を通しすぎないのがやはりうまい!」

「ソースもいいが、このわさび醤油で食べるのもいい。さっぱりしていて美味しい」

「チキンカツは牛や豚と比べると淡白だけど、美味しいわ」

 クリスウィン公爵親子は三種類のカツを食べ比べてどれも美味しいと目を輝かせている。


「チキンカツは豚や牛に比べると少し味が薄く感じますが、十分に美味しいし、食べ応えがありますね」

「チキンは庶民でも比較的手に入りやすいので、チキンカツなら家でも再現できそうです」

 ストーンズ料理長とブロン副料理長がそう頷きあっている。


 一般的に牛肉や豚肉は鶏よりも高価格で取引されている。

 そして、ウルド国やジェンド国へ母牛や母豚などを支援の品としたため、今は少し肉不足気味らしい。

 ウルド国やジェンド国の食事情の現状があまりにひどかった為、予定よりも少し多めの頭数を支援に回した結果だ。なので、しばらく牛肉や豚肉が高価格の取引になるのは仕方がない。


「デイン商会の魚のフライや魚の加工品が比較的安価で出回っているのが有難いですね。民たちの肉不足を魚で補ってもらえて助かっています」


 リュードベリー侯爵がそうローランドおじい様に言うと、ローランドおじい様はにっこりと笑って私の頭を撫でた。


 私はデイン商会から魚のフライやさつま揚げをはじめとする冷凍加工食品の利益の一部を受け取っている。売れ行きは順調なので受け取る金額も結構な額だ。バター餅のロイヤリティも合わせるとちょっとした小金持ちさんである。


 実はデイン商会で冷凍加工食品部門を立ち上げる時、デイン伯爵やローランドおじい様がバーティア子爵家に訪れ、ローディン叔父様やリンクさんとローズ母様、そしてディークひいおじい様と、みんな揃ったところである提案をされた。


 冷凍加工食品をアースクリス国全体に行きわたらせるにあたって、新しい商品が私の提案であることを表に出さない。つまり隠した方がいい、ということだった。


 これまでこの国になかったものが次々と普及することで、自然と『誰がそれを広めたか』ということに目が行くだろうと。


 そのまま本当のことを言ったとしたら、私の加護を悪い人に嗅ぎつけられ、私自身の安全を脅かす事態を招いてしまう危険性がある。だからそれを隠すために『対外的にはデイン商会で発案した』とした方がいいと説明された。


 デイン伯爵は、『アーシェラの提案をすべてデイン商会のものにしてしまうようで心が痛い』と言っていたけれど、私はそんなことは思っていない。逆に私のことを心配してくれるその気持ちの方がとても嬉しかった。

 それにレシピに対して、しっかりと見合った対価もいただいている。何の問題もない。


 だから私は提案に素直に頷いた。

 私は前世の記憶で料理をしているので、そもそも自分が発案したものだとは思っていない。

 ただ自分が食べたいものを作っているだけだ。それがデイン商会やバーティア商会で新たな商品につながっているだけで。


 表向き『新しい料理は他国との取引が多いデイン商会が広めた』とするとのことだ。

 確かに、バター餅やドーナツも最初はデイン伯爵家がオーナーのツリービーンズ菓子店から発売されたから、敵(?)に対していい目くらましになるだろう。


 豆腐の原料のひとつである『にがり』も、アースクリス国で唯一海に面しているデイン伯爵領にしかないものだし。

 それをもとにデイン伯爵家の親戚である、バーティア子爵家の商会で商売につなげたのも不自然ではないとのことだ。

 なるほど。いい具合に隠されている。


 ローランドおじい様もロザリオ・デイン伯爵も、私を悪い人たちから隠して守ろうとしてくれているのだ。嬉しいし有難い。

 


 そしてその話は四公爵や王妃様たちにも伝えられ、話を合わせるとのことで了承されている。


 なので、王妃様や四公爵家のひとつであるクリスウィン公爵や後継者のリュードベリー侯爵はこの話を知っている。

 そして、私が厨房に入る屋敷の料理人さん達には、屋敷の中であったことを口外しないという守秘義務を課している。『それぞれの家で徹底して監督するから、いつものように自由に動いていい』と話がついているのだそうだ。



「先ほどお渡しした食材の中に、タラコを唐辛子などで味付けをした、辛子明太子が入っておりますよ」

 ローランドおじい様は、保存魔法をかけた大きな箱をお土産に渡していた。

 言わずと知れた、海産物がたっぷりと入った箱。

 その中に、試行錯誤して出来上がった新商品の辛子明太子が入っていたのだ。

 久遠大陸でたらこは明太子と言われていた。そして唐辛子などで味付けしたものは辛子明太子だ。


「おお! たらこスパゲッティが絶品だったからな! それもスパゲッティにすると美味いのか?」

「ピリ辛でさらに美味しいですよ。たらこの塩漬けもお持ちしましたので食べ比べしてはいかがでしょう?」

 以前王宮に行った時、海鮮丼や手こね寿司と一緒にたらこスパゲッティを披露したら、大好物になったらしい。

 定期的にかなりの量のたらこの塩漬けをクリスウィン公爵家に納品していると聞いている。

「ピリ辛! それはいいですね」

「まあ! 二種類を食べ比べするなんて楽しみだわ。ねえ、ストーンズ料理長―――」


「スパゲッティはこれから麺を作りますので、晩餐のお楽しみにいたしましょう」

 ストーンズ料理長がスパゲッティの試食をやんわりと断った。

 にこやかにそう言うストーンズ料理長だけど、実は厨房の隅に箱に入った生パスタがあるのを私は知っていた。


 それでもストーンズ料理長がそう言ったのは、たぶんここで辛子明太子スパゲッティを出すと、晩餐の際にはもうパスタも辛子明太子も無くなってしまうだろうからだ。


 それだけ、クリスウィン公爵家の皆さんの胃袋は底なしなのだ。


 実はどれだけクリスウィン公爵たちが食べることができるのかと、どうしても一度試して見たくて、たらこスパゲッティを山ほど作ってもらい、保存魔法をかけた箱に入れて王宮に持って行ったことがあった。

 ちゃんと事前に王妃様たちにお伺いはしたよ?


 ともすれば不敬罪に問われそうな私の好奇心を、アーネストおじい様とレイチェルおばあ様は笑って許してくれた。

 そして、王妃様やクリスウィン公爵、リュードベリー侯爵も。

 気分を損ねるどころか、逆に『たくさん食べられるのか!』とウキウキしていた。


 事前にレイチェルおばあ様にお願いして、王妃様が王宮に輿入れされた時にクリスウィン公爵家からついてきたという王妃様付きの女官に、クリスウィン公爵家の皆さんがどのくらい食べるのか聞いたところ、即答で『底なしですよ』という答えが返って来てびっくりした。


 その女官さんにたらこスパゲッティの給仕をお願いしたところ、皿が空になると同時に新しい大盛りのたらこスパゲッティの入った皿が手際よく次々と三人に給仕され。―――前世でよく観た大食い番組をリアルタイムで見ているようだった。

 綺麗な所作で次々と皿から無くなっていくたらこスパゲッティ。お替りの皿がワゴンに瞬く間に積みあがっていく。見ていて気持ちいいくらいの食べっぷりだった。

 結局、一人十皿分用意したたらこスパゲッティは苦も無くクリスウィン公爵家の皆さんのお腹におさまった。はあ、すごい。大盛りが10皿なので4kgはあったはずだ。その前に手こね寿司や海鮮丼も食べていたのに。

 たらこスパゲッティを食べ終わった後、余裕の表情でデザートに菜の花ドーナツを食べているのを、一緒に食事を楽しんでいたはずのアーネストおじい様とレイチェルおばあ様が、唖然として見ていたのも面白かった。


 女官さんの言っていた『底なし』の意味が分かった。

 

 クリスウィン公爵やリュードベリー侯爵が満面の笑みで『次はいつにする?』と言っていたので、楽しかったみたい。


 面白い。またいつかやってみよう。王妃様も楽しみにしているようだし。



 そんなことがあったので、クリスウィン公爵家のストーンズ料理長の普段の苦労(?)が分かる。ここでは料理の大量生産が基本なんだね。

 

 ストーンズ料理長に『後で』と言われた、クリスウィン公爵やリュードベリー侯爵、そして王妃様の残念そうな顔がそっくりで、面白かった。




お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
「俺の胃袋は宇宙だ!」だなw
クリスウィン おそろしい子・・・ フードファイターかなw
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