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174 ローズマリー 2

ローズマリーおばあ様視点です。


誤字脱字報告ありがとうございます。

たくさんあって驚いています。(;'∀')

これからもよろしくお願いします。




「―――ローズ……」


 再会は実に1年と7ヶ月ぶりだった。


 バーティア商会の二階。

 ローズの為に作った部屋に足を踏み入れると、ベッドに腰かけていたローズが顔を上げた。


「お母様……」

 見るからにやつれた娘。

 結婚式では幸せそうに美しく輝いていたのに。


 数歩近づいた時、ローズの腕の中に驚くべきものを見た。


「赤ちゃん……?」

 ローズの腕の中に金色の髪の赤ちゃんがいて、一生懸命にお乳を吸っていたのだ。


「昨日、バーティアの女神様の小神殿で見つけたんです」

「……そう」

「この子の泣き声が―――私を呼んだんです」

 そう言って授乳を終えた赤子の背中をさする。すると、けふっと可愛い口から音がした。

 赤子はお乳をのみながらすでに半分眠っていたが、うとうとしていたその瞳は緑色だった。


 ローズが赤子を抱いて、愛おしそうに揺らす。


 私は、その赤子から目が離せなかった。



 何故なら―――その子は、赤子の時のローズと瓜二つだったのだ。


 それは、ローズを産んだ母である私だからわかることだ。


 金色の髪と緑色の瞳は別として、目や鼻の形、唇。顔の輪郭、耳の形まで。

 愛おしくて記憶に刻んだ、ローズが赤ちゃんの頃と瓜二つの顔。


 ふと、家を出てくる時にかけられた、義父の言葉が頭をよぎった。


『いろいろと準備をしておいた。運び込むタイミングはローズマリーに任せる』―――と。


 出がけに言われて何のことか分からなかったが、もしかしたら義父は、このことを知っていたからこその言葉だったのかも知れない。


 ―――それは、何を意味するのか。


 胸が、どくん、と高鳴った。


 ローズと瓜二つの顔。

 金色の髪に薄い緑色の瞳は―――クリステーア公爵家の血を受け継いだゆえではないか。


 赤子はとても小さい。ローズの子が生きているならば7ヶ月になっているはず。

 この子はまだ4、5ヶ月くらいに見える。ローズの子ならこんなに小さいはずはない。


 ―――けれど、魔力の強い女子は、成長が遅いのだ。


 クリステーア公爵家は王家の血筋で、遺伝的に魔力が強い。


 ―――もしかしたら。


 どくんどくん、と心臓がうるさいくらいに響く。



「―――優しい顔をしているわ……この子は女の子ね。とっても可愛いわ」

「はい。女の子です。―――アーシェラと名付けました」


 ローズは赤子をしっかりと抱きしめて私を見上げた。

「私は、この子を育てます」


「女神様は必然をお与えになる。私がこの子を見つけたのは、必然なのです。私が育てます」

 赤子を奪われまいと瞳に強い光をたたえてローズが訴える。


「ローズ、そう身構えなくてもいいの。私はあなたからこの子を奪ったりはしないわ」


「お母様……」


「さあ、私にも抱かせてちょうだい」


 ローズがためらいながらも私に赤子を渡してくれた。


 立ち上がり、抱きなおす。

 そして、ローズに分からないように、『鑑定』と小さく呟いた。


 デイン伯爵家は遺伝的に『鑑定』の力を持つ。


 そして私には、デイン家の鑑定の他に、亡き母から受け継いだ『触れること』で『ヒト』を視る力があった。


 その力は触れることで対象者の病気やけがの状態を視る。だから、それを生かして辺境伯軍の治療をしてきた。

 そして、母から私に受け継がれた特殊な鑑定能力は、触れることで『血のつながり』を―――視ることができるのだ。


 鑑定の力を行使すると同時に、アーシェラの背にあてた手のひらが、 磁石のようにひっぱられて、ぴったりとくっついた。

 鑑定の結果である『つながりの糸』が私とアーシェラをつなげたのが分かった。


 ―――ああ。この子は、私の孫娘。


 私にしか見えない『鑑定』による光を帯びたオーラは、アーシェラからローズへ、そしてローズから私へと繋がっていた。


 アーシェラは、ローズが生んだ娘。

 そして、私の孫娘。


 ―――そう、確信した。


 

 ―――何故無事に生まれたアーシェラを死産と偽り、ローズから離さなければならなかったのか。

 アーシェラは今までどこにいて、なぜ今ここにいるのか。


 次々と疑問が浮かび上がったが、―――すぐに、頭の中でさまざまなピースがはまっていった。


 クリステーア公爵家の今の不安定な内情。

 ローズの立場。

 ―――アーシェラを死産だと偽らなくてはならなかった状況―――


 ―――それはすぐに、ある人物と結びついた。

 金と権力に執着し、人を陥れることに全く躊躇しない―――

 甘いマスクとは裏腹に、裏で爪を研いでいるような―――男。


 その人物からアーシェラを守るために、死産だと偽り、隠して育てていたのだろう。と。


 そして守っていたのは、おそらくクリステーア公爵やレイチェル公爵夫人、そして義父ディーク・バーティア前子爵なのだ―――と。


 ―――では、私も。この子を守り抜こう。


「アーシェラちゃん。はじめまして。あなたのおばあさまよ」


 金色の髪にキスを落とし、可愛い孫娘を強く抱きしめた。



 ◇◇◇



「お義父様。ご用意いただいたものは商会の家に運び込ませましたわ」

 バーティア子爵家の執務室に赴くと、そこには義父だけがいた。

 

 義父ディーク・バーティア前子爵が用意していたものは、おむつやベビー服、ベビーベッドなど。

 私が箱の中身を確認した後、義父の執事のビトーは私の指示を聞くと微笑んで頷き、商会の家へと出向いて行った。

 彼も秘密を知る者なのだと確信した。

 

「―――お人が悪いですわ。一言教えてくださればよかったのに」

 義父は執務室に防音魔法をかけた。

 やはり、義父はすべてを知っていたのだ。


「真実を知る者は危険にさらされるからな」

あの子(アーシェラ)のための危険ならば甘んじて受けますわよ」


 ローズがクリステーア公爵家のリヒャルトに命を狙われているのだと、改めて教えられた。

 そしてアーシェラがローズのお腹にいた頃から命を狙われていたこと、そして産室にまでもアーシェラの命を狙い、暗殺者を送り込まれていたことを。


 それ故に死産と見せかけ、クリステーア公爵夫妻と王家で、クリステーア公爵家の後継者と定められたアーシェラを守り、隠して育てていたのだと。


「バーティア子爵邸で育てるのであれば、ローズにもアーシェラが実子であると伝えるつもりだったのだが」

 かつて、幼い頃のアーシュさんはバーティア子爵邸で一年ほど暮らしていたことがある。

 暗殺者に狙われていた彼は、バーティア子爵邸にいる時は一度もその脅威に晒されることはなかった。

 それは義父であるディーク・バーティア前子爵が、暗殺者を返り討ちにし続けていたからだ。

 ここであれば義父がしっかりと守ってくださっただろうに。


 ダリウスの勝手な思惑のせいで、バーティア子爵邸でアーシェラを育てることは不可能になってしまったのだ。



「―――ええ。商会の家では危険ですわ。―――それは私にもわかります」

 アーシェラを拾い子としていたならば、暗殺者の目はローズだけに向く。

 ―――それだけでも、ローズの母としては許せないことだが。


 もし、アーシェラがクリステーア公爵家の後継者であることが敵に知れたら、守りが完璧ではない商会の家では危険すぎる。

 そして何よりもローズがアーシェラが実子であることを知ったなら、我が子を守るためにローズは自らの命をも差し出してしまうだろう。

 ローズとアーシェラ。二人の命を確実に守るために、今はこの秘密は漏らしてはいけないのだ。

 そしてそれは、『二人の命を最優先に』との、クリステーア公爵夫妻からの願いでもあったという。


 ―――生まれたばかりの一番大変な時期のアーシェラを育てたクリステーア公爵夫妻。


 お二人とも孫娘のアーシェラが可愛くてしょうがなかっただろう。

 ましてその手で育てたならば尚更だ。

 そのアーシェラを守るために身を切る思いで手放したのだ。


 ―――どんなに辛かっただろうか。


 そんな思いを知ったら、アーシェラの近くにいるからといって、私だけが会うのは申し訳なさすぎる。


「わたくし……アーシェラには会わないようにしますわ」

「ローズマリー―――」

「本当は毎日でも会いたいですわ。―――けれど……あんなに可愛い子を、護りきるために手放したクリステーア公爵様とレイチェル公爵夫人のことを思ったら―――私だけ会うわけにはいきませんわ」


「いつか、クリステーア公爵夫妻とアーシェラが会えるようになったら、その時は堂々と私も会いに行きますわ」


「―――わかった。では私もそうすることにしよう」

 どうやら義父も同じ気持ちのようだ。


「―――お義父様、これからアーシェラに着せる服は私が用意しますわ。それくらいはかの御方たちもお許しくださるでしょう?」


「ああ、そうだな」


 ―――その後、私は友人のドレスメーカーと一緒にアーシェラに着せる服を作り始めた。


 いつか私の作った服を着た、アーシェラに会えることを楽しみに。


 


お読みいただきありがとうございます。

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