17 デイン伯爵家のシンクロ率
◇◇◇
「こちらは、お酒のおつまみにどうぞ」
と、デザートの後、クラン料理長は米のお酒を入れたグラスと共におつまみを出した。
「乾燥したコンブを醤油と砂糖と酒で調味した後、水分が飛ぶまで炒めて再度乾かしたものです。仕上げに唐辛子を少々入れました」
そしてもうひとつは、と続ける。
「こちらの方は乾燥コンブそのままカットしたものです。味の違いをお確かめください」
「へえ。面白い。シンプルだが自然の旨味があるのがわかる。おつまみ用はピリ辛で酒が進むな」
「コンブは水で戻しますと数倍に膨れます。ですので、お腹の中でも膨れますので、少量でどうぞ」
クラン料理長のその言葉にふむ、と前伯爵様が頷いた。
「軽いし保存性もいいから、携帯食のひとつとしても使えるんじゃないか?」
そうですね。とホークさんもデイン伯爵様も頷いた。
「「「おもしろい」」」
デイン家の男性たちが声をそろえる中、ひいおじい様は小さく『うむ』と頷いていた。
ひいおじい様は、これが通常運転みたい。
でも目が合うと、目が優しくなって笑ってくれた。
うれしい。
「―――こちらは本日の最後のお料理。コンブのサラダとなります」
「まあ! サラダ?」
「え? 今からサラダ?」
「はい。実は今日届いた魚介の中に、コンブが少しだけ紛れておりました。乾燥したコンブが食材として使えるのであれば、と思いまして。―――コンブは想像以上に食材として優秀です」
にっこりとクラン料理長が笑った。
クラン料理長はもう20年近くデイン伯爵家で料理人をしている。
デイン伯爵家のみんなから絶対的な信頼を寄せられている。
そのクラン料理長から食材としてのコンブに太鼓判が出た。
「コンブを食べるのは本日が初めてでしたので、みなさまの抵抗感がなくなってからと思い、順番は最後になってしまいましたが、お出しさせていただきました」
そうなのだ。
乾燥したコンブで料理を作っていたら、料理長のクランさんが『これも使えないか』と持ってきたのだ。
せっかくだから、使わせてもらうことにした。
リンクさんに鑑定してもらったらデイン領のコンブも食べられると分かったので。
お湯を沸かして、生のコンブをさっと湯がくと。
褐色だったコンブが鮮やかな緑色に変わったのを見て、みんながビックリしていた。
湯がくと赤い色素が抜けるとかだったような気がするけど、色が変わる瞬間は見ていて面白い。
湯がくとぬめりが大分取れるので、鮮やかな緑色になったコンブを出来るだけ細く刻んでもらって。
オイル漬けされていた魚(ツナと同じ味がした!)とキュウリとニンジンを入れて、マヨネーズと塩胡椒で和えて簡単なサラダにした。
マヨネーズがこっちの世界にあってよかった。
ストックされていたので簡単にできた。
「「「「「―――これも美味しい······」」」」」
みなさん声が重なってるよ。
「生でも乾燥しても使えるんだねぇ······もったいないことしてたな」
ホークさんの言葉に、デイン家の人たちが頷いている。
すべての皿が下げられた後、給仕が食後の紅茶を出したところで、クラン料理長が三つの瓶をテーブルに置いた。
「―――それでは最後に。どうぞ、こちらをご覧ください」
「?? ビン??」
「こちらの瓶にはいっているものは、干したコンブの欠片を粉末まで砕いたもの、隣は塩を加えたコンブ塩。その隣はエビの殻を乾燥させて粉末にしたもので作ったエビ塩でございます」
どちらも料理に使える調味料です、とクラン料理長が話す。
「エビ塩は美味いから、明日にでも料理に使ってくれ」
リンクさんがクラン料理長にそう言うと。
「え? 今ないの?」
え? ホークさん。
米料理のほかにクラン料理長が作った海鮮のメインディッシュまでたいらげたのにまだ食べるの?
「もう米料理で腹いっぱいだろう? 明日でいいじゃないか」
リンクさんもあきれ顔だ。
今日の料理は、コース料理としては順番が狂っちゃたけど。
旬のコンブを使ったサラダ
アサリのお味噌汁
白ごはん
ガーリックバターライス
炊き込みごはん
きんぴらごぼう
カブとキュウリの漬物
数種類の海鮮のグリル(料理人さん作)
コンブの柔らか煮
アイスクリームの塩コンブ添え
の計10品。
あと、おつまみコンブ二品
ごはんものが多かったから、お腹いっぱいだと思うんだけど。
「こんなの見せられたら、今すぐ食べたいにきまってるじゃないか!!」
まあ、そうだよね。
えさを目の前にした子犬のように、ホークさんが目で訴えてくる。
それなら。
「かあしゃま。しろいごはんおにぎりにしゅる」
「アーシェ?」
炊き込みご飯はもうすべてなくなっていたけど、白いご飯は少し残っていた。
少しだけ時間をもらって、ローズ母様とクラン料理長と一緒に小さなおにぎりを二種類作った。
「お待たせいたしました。コンブ塩とエビ塩のおにぎりです」
ほんのりピンク色のエビ塩のおにぎりと、コンブ塩のおにぎりだ。
ただの塩むすびが美味しいのだから、旨味の入ったエビ塩とコンブ塩のおにぎりは絶対に美味しい。
それに小さめにしているから、みんな食べられると思う。
「まあ、かわいい! ピンク色ね!!」
「うま!! エビ塩うっま!!」
ホークさんは各個人に出した他に、別皿に用意しておいた、おかわり用のおにぎりも全部たいらげた。すごい。
「コンブ塩のおにぎりもうまいな」
カトラリーを用意していたけど、リンクさんが手で食べたので、ホークさんも伯爵様たちも手でつまんで食べていた。
マリアおば様だけはフォークとナイフで上品に食べたけどね。
「―――ホーク、コンブ漁の船の手配を」
「コンブを乾燥させる場所と―――加工品もできるから、加工場の確保もな」
前伯爵様とデイン伯爵様が言うと、ホークさんも頷きながら。
「エビの加工場でエビ塩も作れるね」
と言うと。
私を見て、おもいっきり噴き出した。
どうやら、おにぎりを作りに厨房に行っている間に、リンクさんやローディン叔父様から、エビ塩の経緯を聞いたらしい。
「これ以上捨て続けてたら、『もったいないオバケが出る!』ってアーシェラが怒るからね!」
とホークさんがひーひー笑いながら言うと、デイン家のみんなも、ひいおじい様も声をあげて笑った。
ううう。
ホークさんが笑い転げながら、ローディン叔父様の背をバンバンと叩いた。
「じゃあ、ローディン! 米と蜂蜜を融通してくれ! ウチも来年から米作りを始めるよ!」
「「養蜂もな」」
デイン伯爵様と前伯爵様の声が重なった。
―――デイン家のみなさん、シンクロ率が高いよね。
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