表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

166/320

166 ローズマリーおばあ様のとくいわざ 1

誤字脱字報告ありがとうございます!

結構あって毎回助かっています。

これからもよろしくお願いします!



 リンクさんが出征して2ヶ月経った夏、王都にやってきた。


 この頃は王都のバーティア子爵家別邸とデイン伯爵家別邸に数日ずつ滞在することにしていた。

 それがディークひいおじい様やデイン伯爵たちのお願いでもあったからだ。

 屋敷の皆にも楽しみにしていると言われて、素直に嬉しい。


 そして今日はデイン伯爵家に。先日久遠大陸から戻って来たローランドおじい様のお土産を開けるのが楽しみだ。


 王都に着いて、真っ先に行ったのはバーティア商会の王都支店。

 今日はデイン伯爵家に行く前に立ち寄るところがあったので、お土産を用意しに来たのだ。

 王都支店で人気のフィッシュフライサンドやアメリカンドッグ、不動の人気のフライドポテト。

 そしてお隣のツリービーンズ菓子店でケーキの詰め合わせを用意してもらっていた。

 

 ツリービーンズ菓子店から出た所に、通りに馬車が停まり、ローランドおじい様が降りて来た。


「アーシェラ!!」

「おじいしゃま!!」

 いつものように手を伸ばして抱っこしてもらう。


 ローランドおじい様は元辺境伯。引退する前は軍部に所属し、今も船を操船している。

 60代だとは言うが、50歳そこそこにしか見えない。魔力が強い人は老化が遅いからだ。


 がっしりしているので、ホールド感はばっちり。背も高いので、抱っこしてもらうことで高いところを見れるのがいい。

 ―――それに、大事にしてもらっていることを感じることができて、素直に抱っこしてもらうのが好きなのだ。


「今日はデイン家に泊まるんだろう? これから行く場所が同じだから、一緒に行こうと思って迎えに来たのだ。用事が済んだら一緒に帰ろう」

「あい!」

 今日はドレンさんの薬屋さんに行く予定だった。

 ドレンさんは優秀な魔術師であり薬師であり、王都一の薬屋さんの店主でもある。

 バーティア領で今年初めて作付けした山芋栽培が順調で、ドレンさんは薬の材料の予約をしに先日山芋畑を見に来ていた。そこで奥さんのテルルさんが数ヶ月前に無事に女の子を出産したことを聞いた。

 

 なので、今日はドレンさんの奥さんのテルルさんに出産祝いを持って行くことにしていたのだ。


 たっぷりとお土産を用意して、馬車に乗り込む。


 薬屋と医院を併設するドレンさんのお店は、少し外れにあるのだ。

 

 けれど、数分も走らぬうちに馬車が停まった。

「アーシェ。ここで乳児用の服を用意しておいてもらっているんだよ」

 ローディン叔父様に抱かれて降りた場所は、バーティア商会の王都支店からあまり離れていないところ。

 目的地らしい場所は商店街の中にあった。


 ショウウィンドウがある店構えから、服屋さんのように見えるけど、カーテンがひかれていて中は見えないし、看板もない。


 まわりを見渡してみたら、右隣は、ショウウィンドウから綺麗なドレスが見えたことから、洋服屋さんらしい。その隣は本屋さん。

 反対側のお隣のお店は結晶石を取り扱うお店、その隣はリカーショップ、またその隣は小さな診療所。

 道路を挟んだ向かい側には町の食堂があるらしく、町の人たちが出入りしているのが見えた。

 武具を扱うお店やお肉屋さん、宝飾店にカフェらしきお店が立ち並んでいる。


「おみせがいっぱい」

「ああ。王都はメインストリート沿いにたくさんの店が立ち並ぶ。王都支店がある区画も、ここも身分問わず皆が利用する区画だから様々な店が立ち並んで人通りも多いんだ」


 王都は王城を中心として、その外側に貴族のお屋敷が立ち並ぶ区画、その外側に貴族御用達のお店や貴族ではないが富裕層のお屋敷が立ち並ぶ区画、そしてその外側は、誰もが身分問わずに商売したり居住できる区画に分かれている。

 バーティア商会の王都支店は、王城から見て一番外側の区画。つまり誰もが商売したり出来る区画の一角に店を構えている。

「王都は広いからな。うちの王都支店は商店街の区画のほぼ真ん中あたりなんだ。ここは少し貴族街寄りだから、宝飾店に、ドレスショップ、大きな本屋もあるし、貴族や騎士が使う武具屋がある。あと、武器を扱う店や魔道具店は貴族御用達の区画にはないから必ずこっちの区画にこなければならない」

 なるほど。こちらの区画は貴族や騎士、富裕層の人たちが利用するお店と、その他の人たちが利用するお店が混在して立ち並んでいて、バーティア商会の王都支店のあるあたりはその比率が半々くらいだけど、こっちの方はどちらかというと貴族寄りの店の比率が高いらしい。


「で、ここ。先日手に入れたばかりの店舗なんだよ」

 手に入れた? ということはこっちもバーティア商会のお店になるということ?


「まだまだ準備中なんだよ」

 そう言って、ローディン叔父様が合鍵で扉を開けて入っていく。

 その後をローランドおじい様とローズ母様が入って来た。

「うむ。オープンはまだまだだな」

「そのようですわね」

 がらんどうの店内を見渡して、ふむ、とローランドおじい様が頷く。


「―――あら、お義父様。いらっしゃいませ」

 奥からマリアおば様が出て来た。

「まりあおばしゃま?」

「来ていたのか」

「ええ。布の打ち合わせで来ていましたの」

 案内されて、店舗の奥へと入っていくと。

 銀の髪を結い上げた綺麗な女性が、一人がけのソファーにもたれて寝入っていた。

 ―――誰かな?


「ああ、起こさなくてもよい。疲れているようだしな」

 ふと、ローランドおじい様の表情が柔らかくなった。女性は寝入ったばかりらしく、お付きの者らしき人がショールを女性の肩にかけていた。

「今日はいろいろと打ち合わせがありましたからね。やっと終わって休憩していたところですのよ。お義父様たちが来ることが分かっておりましたので、雇い入れた者たちは全員帰しましたわ。ごゆっくりなさってください」

 お付きの人たちが、女性を起こさぬように静かに飲み物やお茶菓子を用意している中、ローズ母様が自分の腕にかけていた薄いショールをそっと女性の膝にかけた。


 あれ? よく見ると、眠っている銀髪の女性とローズ母様の顔立ちがよく似ている。

「……ろーずまりーおばあしゃま?」

「ええ、そうよ。アーシェのおばあ様よ」

 ローズ母様は私に微笑んでそう言うと、ローズマリー夫人のすぐ隣のソファーに私を抱いて座った。


 ローズ母様のお母様、ローズマリー夫人は、いつも私に服を贈ってくれる。

 それはみんな可愛くてお気に入りのものばかりだ。


「それで? 布とは、フラウリン領の紡績の物か?」

「ええ。うちは綿花も栽培していますから。乳幼児の肌着には綿がいいですからね。いくつか織り方を変えて提案してみましたのよ」

 どうやらそのうちのいくつかは採用となったらしい。マリアおば様がホクホクしていた。

「それにしても、子供服とはな。このご時世ではまだまだ需要がないだろう?」

「否定はできませんわ。でも、ジェンド国も事実上の属国宣言を先日したことですし、灯りが見えてきましたのよ」

 ―――そう。リンクさんが出征して2ヶ月。

 先日ジェンド国のイブリン王女様が弟王を倒して、女王即位を宣言した。


 そして、イブシラ様がセーリア神の神殿で言っていたように、国としての誓約をしたのだ。


 これで、ウルド国に続きジェンド国との戦いも終結した。

 リンクさんが無事だという連絡も受けた。本当によかった。

 数ヶ月復興支援をしたのちにリンクさんが帰ってくる。

 ―――本当に、本当によかった。


 まだまだ安心はできないけれど、二つの国との戦争終結により、やっと明るい兆しが見えてきたことで、王都にも少しずつ活気が戻ってきているのだそうだ。


 お隣のドレスメーカーの店主がローズマリー夫人の友人で、私の普段着やドレスを作るローズマリー夫人の腕前を見て、惚れ込んだとのことだ。

 独立した店を出さないかと言って、自分が持っていた隣の店舗を売ってくれたらしい。

 ローズマリー夫人には秘かにお得意様がついているそうで、乳幼児の肌着にかわいい服、そして小物を販売のメインにするそうだ。

 なんと。私が今まで着ていた普段着だけでなく、ドレスもローズマリー夫人の手作り(デザイン)だったとは。


 マリアおば様が広げて見せてくれたデザイン画をみてびっくりした。

 どれもこれも私が身に着けたことのあるものばかりだったからだ。

 ―――そして、寸法が書き入れられていたのを見て思う所があった。


 時折、ローズ母様が私の寸法を計ってくれていたが、それはローズマリー夫人に渡っていたらしい。

 半年前の寸法と一年前の寸法がほぼ変わらずだった。


 私は成長が遅い。

 それを数値で確認してしまった。―――なんだかな。



「とりあえずは隣の店舗で、これまで通りスペースを貰って試し販売することにしましたの。ここはちょっと広すぎますし。需要が出たらこちらをオープンさせようと思うのです」

「なるほどな。だが綿製品は貴族にはあまり需要がないだろう?」

「お隣は肌着とドレスを販売してもらい、こちらは誰もが使える物を。ツリービーンズ菓子店と、お隣のパン屋さんのようにですわ」


「なるほどな。ここが誰もが行き交う商店街だから出来ることか」

 納得してローランドおじい様が頷いた。


 王族や貴族御用達の高級ブランド街もあるが、この商店街は身分にかかわらず誰もが行き交うところだ。

 食堂や魔導具店、お菓子屋にパン屋、服屋に生活雑貨や食料品店などあらゆる店が混在している。


 お隣では主に貴族や裕福な家の御用達。

 こちらは、私が商会の家で着ているようなかわいい普段着を商品としておくらしい。

 普段着はシルクではなく、吸湿性や機能性を備えた綿で作られているものが多い。


 つまり、ターゲットは貴族以外の人たちだ。


 けれど、今はまだ戦争が終結していない。

 食品ならば集客をある程度望めるけれど、買い手側に余裕がなければ服で収益は望めないだろうと思う。


「まあ、まだ準備中ですわ。どのように店舗を作っていくか、考える時間はたくさんあります」

 そうマリアおば様は言うけど、人を雇っているのだ。店がオープンしていなくても、人件費は否応なくかかるだろう。建物の維持費もかかるだろうし。


 貴族ならそのくらいの出費は平気なのか?

 うーむ。それでも腑に落ちない。去年までダリウス・バーティア元子爵の作った借金をずっと返済してきていたのだ。バーティア商会にそんな余裕があるのだろうか?


 そんな会話をしていたら、ローズマリー夫人が目を覚ましたようだ。


 ローズマリー夫人の目線の先に座っていたので、青い目がうっすらと開いたのが見えた。

 リンクさんやホークさんと同じ色。

 そういえば、ローズマリー夫人はローランドおじい様の一人娘で、ロザリオ・デイン伯爵の妹だった。


「……ローズ? ……アーシェラ?」

 寝起きでかすれた声がローズ母様と私の名を呼んだ。

「ええ、お母様」

「あい。そうでしゅ」

 すっと、白い手が伸びてきて私の頬を撫でた。

 とても温かい手。なんだかローズ母様に触れられているように優しい。

 それに大好きなローズ母様によく似ている。


「ああ、やっと会えたわ。ずっと会いたかったのよ」

 青い瞳を細めて、微笑んでくれた。


 ローズマリー夫人は夫であるダリウス・バーティア元子爵といることが多い。

 ローズ母様は父親に会わないように避けているし、母親であるローズマリー夫人も娘のことを気遣って父親に会わせないように協力していた為、そのせいでなかなか会えなかったのだ。


「ダリウスはどうした?」

「キャンベル子爵領でワイナリー巡りしておりますわ。おかげで10日間ほど自由な時間が出来ましたの」

「なるほどな。うちの家門のワイナリーだから下手に売りつけられる心配もないしな」

 ダリウス・バーティア元子爵には彼の暴走を止める者たちがついているから安心だということだ。


 しっかりと目覚めたローズマリー夫人は、私に向かってにっこりと微笑んだ。

「大きくなってからは初めて会うのね。アーシェラ、あなたのおばあ様よ」

「あい! おばあしゃま!!」

「ふふ。ローズにそっくりね。―――いらっしゃい、アーシェラ」

 素直に抱っこしてもらった。

 ふわあ、いい香りがする。やっぱりローズ母様のお母様だ。なんだかすごく安心する。

 気持ちよくて頭をぐりぐりすると、ふふ、と笑う声がして、さらに強く抱きしめられた。

 ああ、気持ちいい。

 すごく、すごく安心する。

 ―――ずっと抱いていてもらいたいくらいだ。


 なんだか何かの糸で繋がれているかのように、しっくりくる。


 ローズマリー……おばあ様。好き。


 根拠は何もないけれど、そう思った。



 

お読みいただきありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
所々で裕福層とありますが、富裕層の方が良いのではないでしょうか? アーシェラの感想として裕福層の方が文章構成に違和感がないようでしたら、出過ぎた真似をして申し訳なく思います
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ