165 かえるばしょ
今回でアーネストおじい様視点は終わります。
次回からアーシェラ視点に戻ります。
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いつも助かっています。
これからもよろしくお願いします!
―――そう。叔母のメイリーヌが言う通り、気配を消してはいるが、こんな地方にいるとは考えられない程の有能な魔術師たちがアーシェラの周りを固めているのだ。
それにクリステーアの瞳を持つ叔母が気づかぬわけがない。
「叔母上にはかないませんね。―――ふた月ほど前、王家と神殿、そして四公爵家の承認のうえでアーシェラの護衛機関が正式に発足しました。―――その責任者にクリスフィア公爵が就いたのです」
私の言葉に、『え?』と叔母と従妹が首を傾げた。
「! アーネスト。―――それってまさか」
思った通り、組織に詳しいアーレンが先に気が付いた。
「それが何か知っているの? アーレン」
「あ、ああ。―――王家と神殿、四公爵家の承認。それが揃い、そして公爵を筆頭に護衛機関が作られる理由はひとつしかないんだ。それは―――アーシェラが、女神様の加護を与えられているということ……だよな?」
確認するようにアーレンが私を見た。
「ええっ!? 本当に!?」
叔母と従妹が思わぬ言葉がアーレンから出たことに、驚愕に目を見開き、次の瞬間絶句した。
―――そうだろう。私もレント前神官長に言われた時に、思考が一時停止したくらい驚いたのだ。
しかも同じ時代に王妃様とアーシェラ。女神様の愛し子が二人も存在することは稀なのだ。
私は答えを求める叔母たちの視線に応えて頷いて言った。
「ああ。そうだ。アーシェラは紛れもなく女神様がたの祝福をもらっている。―――だからこそ、女神様はアーシェラの純粋な願いに応えて、アーシュが閉じ込められていた闇の魔術師の結界を破ってくださったのだから」
「「「!!」」」
その答えを聞いた三人は、これ以上はない程目を見開いた。
部屋の隅で私の側近のルイドが、驚きのあまりに直立不動のまま目を見開いて呆けているのが見えた。
―――そして映像が途切れた為、皆で席に着いてアーシェラの加護が分かった時のことを改めて順を追って話すことにした。
―――昨年の秋、アーシェラが王都の教会でキクの花を見出したこと。
食することが出来、薬にもなること。貧困にあえぐ者たちを飢えから救うことが出来る花。
リンク殿の鑑定から、それが女神様の花であることに気づき、『みんなの為に、キクの花を分けて欲しい』というアーシェラの願いに、レント前神官長に与えた水晶を通し、女神様がアーシェラに『是』と応えを返したこと。
そして、女神様の花を広く普及させるために様々な人が動き―――その結果、思いがけずリヒャルトの罪の動かぬ証拠が手に入り、リヒャルトの逮捕につながった。
そしてその日の夜、レント前神官長からアーシェラが女神様のご加護を授けられていることを告げられたこと。
王宮や神殿でアーシェラを保護すべきという、カレン神官長や三公爵の意見を、女神様が否定したことを。
「―――なんだそれ。驚きすぎて心臓がバクバクしてる」
「キクの花が女神様の教会すべてに配布されたのは―――アーシェラのおかげだったのね」
「それでリヒャルトの罪が明らかに出来たのね。偶然のように見えるけど、これも必然だったのね」
リーナの言葉に皆が頷いた。
―――そう、全てはつながっていたのだろう。あの時、カレン神官長が言ったように。
―――女神様の愛し子は、周りを大きく動かす。と言われているのだ。
アーシェラが自ら行動するようになってから『その時を待っていた』かのように、様々なモノが驚くべき速さで大きく動き出した。
その最たるものが、アンベール国の闇の魔術師の結界を破り、結果的に魔術師の排除につながったことだ。
そして、キクの花を広くもたらしたことで、ジェンド国のイブリン王女の快癒をもたらし、そしてデイン領で襲われたイブシラ様を護ることにつながったこと。
また、ウルド国で『作られた』闇の魔術師の手から、祝福の力で人々を護ったこと。
―――そのどれもが、アーシェラがいなければ出来なかったことばかりだったのだ。
―――私の話の後を、レイチェルが引き継いだ。
「―――その翌日のことですわ。王宮で米料理の試食会があったあの日。王妃様のもとにローズと共にアーシェラも来ましたの。その時、王妃様がアーシェラの瞳の奥に女神様の祝福の印が刻まれていることを確認してくださいました」
「女神様の祝福の印があったのね」
王妃様が女神様の加護を授かっていることを、この部屋にいる人間は全員知っている。
女神様の加護を持つ者の存在はいつの時代でも秘匿されているのだが、感づく者は必ずいる。
その類稀なる力を己がために利用しようとする者がうようよしているのだ。
だから公爵家の直系、そして直系に限りなく近い女性たちは、男性の護衛が入れない場所での護衛を密かに任されるため、知らされることになる。
公爵家の女性たちは、下手な魔術師よりも強い力を持っているからだ。
ゆえに魔力の強い公爵家の女性は総じて成長が遅い傾向にある。叔母のメイリーヌも同様で齢よりも見た目は遥かに若い。
その強い魔力ゆえ叔母のメイリーヌも、王妃様がまだクリスウィン公爵令嬢であった頃、王妃様の側にいて不審者に目を光らせていたことがあるのだ。
公爵家は力の強い家系であり、子どもは一人もしくは二人だけだ。
そのうちの女性は数少ない為、公爵家直系の血を引く叔母の娘であるリーナも、王宮に入られる前の王妃様のために尽力したという経緯がある。
叔母や従妹は王妃様が女神様の加護を持っていると知っていたが、護衛機関が作られる経緯などは知らなかったようだ。
「久しぶりに会ったローズが、アーシュの身を案じて私に聞いてきたのですが、分からないとしか答えることが出来なくて」
―――そこで、アーシュが未だ行方不明になっていることで気落ちしていたレイチェルやローズの為に、王妃様に促されて―――アーシェラはアーシュの無事を女神様に祈った。
無事でありますように。
元気でありますように。
病気やけがをしていませんように。
もししているなら、病気やけがが早く治りますように。
無事でいても未だ囚われているなら。
どうかその鎖を断ち切ってほしいです。
―――と。
その心からの願いが女神様に聞き届けられ―――アンベール国の北の森に、アーシュの無事を願ったアーシェラの祈りから生じた力が女神様に導かれ―――光となって降り注ぎ、闇の魔術師の結界が消滅したのだ。
「―――アーシュは元気ですよ。意識を飛ばしてアーシェラの様子をちょくちょく見に来ています。自分が戻るまでは嫁入りの話は絶対に受け入れるなと念を押されてますよ」
「まあ。そんなことを?」
「アーシェラが可愛くてしょうがないようですわ。―――ただ、アーシェラに触れられないのが悔しいと言ってましたわ」
レイチェルが少し悲し気に言う。
それは、レイチェルもアーシュに触れられないことで同じ思いをしているのだ。
本来、公爵家の直系同志でしか感応しないものだが、レイチェルはアーシュを産み落とした母だ。その切れぬ濃厚な繋がりと、ある事情により、私がレイチェルに触れることで息子であるアーシュを感応することが出来るのだ。
レイチェルもアーシュに生きてまた会えたことに安堵したものの、触れて実感することが出来ないのはやはりさみしいようだ。
「―――そうよね」
事情を知る叔母のメイリーヌがレイチェルを見て、静かに頷いた。
「ふた月前、神殿で魔力の鑑定を行いました。―――その後、加護を確認するために女神様の水晶でアーシェラの魂の輝きを見ました。―――本当に綺麗な魂の輝きでしたよ」
「ええ。―――まるでオパールのようにたくさんの色が輝いていて、鮮やかでしたわ」
そこでレント前神官長とカレン神官長、王妃様、そしてクリスフィア公爵が四公爵家の代表として承認をし、アーシェラの護衛機関の長としてクリスフィア公爵が就いたことを叔母たちに告げた。
―――そして。アーシェラが女神様にこれまでの生の『知識の引き出し』を貰っていることも。
それにより、ラスクが出来、雇用が生み出されたこと。
女神様の花である、キクの花が普及し、貧困が減ったこと。
そのキクの花がカシュクールやヌイエ、ノワールの不正を暴き出したこと。そしてその手掛かりをアーシェラがまだ4歳であるのに意識を飛ばして見つけたこと。
そしてずっと厄介者だった、貧民の草と呼ばれる毒のあるわらびが、食材として食べられるようになった経緯のことも話した。
話は尽きず、次々と可愛いアーシェラのことを話していく度に、三人の表情が驚きに包まれて行ったのが面白かった。
「ちょっと待て! ―――アメリカンドッグとフライドポテト! 何回も買ったぞ!」
『自分で買いに行けばよかった! そうすれば会えたかもしれないのに』とアーレンが残念がっている。
「ドーナツのロイヤリティで教会に寄付をするなんて……なんて可愛いことをするのかしら」
「本当ね。ラスクのレシピの無料公開だってすごいわ」
「ローディン殿がアーシェラを『天使』と言ってるのが分かるわね」
「ええ。女神様の愛し子ですもの。ぴったりだわ」
アーシェラの可愛さが十分に伝わったのだろう。
叔母のメイリーヌや従妹のリーナがアーシェラの可愛さに悶えている。
「王都のお店によく出向いているなら、それに合わせて行けば会えるかしら」
叔母と従妹は、どうやったら自然にアーシェラに会うことが出来るか算段し始めた。
普通に考えたら、アーシェラと接点を持てない二人だ。下手に何度も会えばリヒャルトにアーシェラの出自を勘繰られてしまうだろう。
「王妃様のところで偶然に! ってどうかしら?」
「一度は示し合わせることは出来ますが、何度もは無理ですわ」
申し訳なさそうなレイチェルの言葉に、しゅんとするリーナ。
叔母のメイリーヌや従妹のリーナはアーシェラに会いたくてしょうがないらしい。
ローズのお腹にいたアーシェラをずっと守ってくれた二人だ。私も会わせてあげたいと思う。
アーシェラは時折王宮を訪れる為、王宮で『偶然』二人に会えるようにすると約束した。
◇◇◇
「そういえば、バーティア前子爵のローズマリー夫人がアーシェラの為に服を作っていますわ」
レイチェルが思い出して、叔母たちにそう告げた。
―――そう。
アーシェラの母方の祖母であるローズマリー夫人は、アーシェラが自分の孫娘であることをすぐに見抜いた女性だ。
アーシェラと同じバーティア領に住んでいるローズマリー夫人は、私たちに気を使い、私やレイチェルが自由にアーシェラに会えるようになるまで、自分もアーシェラに会わないと私たちに宣言したのだ。
その代わり、アーシェラが身に着けるものはすべて自分が手掛けるのだと、肌着から普段着、ドレスを作り、靴までデザインするこだわりだ。
アーシェラが王宮に来るたびに身に着けているドレスを見て、その見事な出来栄えに舌を巻いたものだ。
ローズマリー夫人のその見事な腕前に、友人のドレスメーカーから小さな女の子専門の子供服のブランド立ち上げをすすめられ、準備をしているらしい。
先日バーティア先生にお会いした時、ローズマリー夫人は夫であるダリウス・バーティア前子爵がマリウス領にある別邸が気に入ったため、そちらにずっと滞在していると聞いた。
表舞台から去ったとはいえ、何をしでかすか分からないのがダリウス・バーティアだ。
その手綱を握るのがローズマリー夫人であるゆえに、彼女はまだアーシェラに会うことが叶っていないのだ。―――なんだか申し訳ない。
ローズマリー夫人のお店の話をすると、叔母と従妹のふたりが楽しそうに。
「お母様。アーシェラの服に合わせて、うちの結晶石でアクセサリーを作りましょう」
「いいわね。アーシェラの髪に着けるリボンや小さな服飾品を任せてもらえるように、ローズマリー夫人にお願いしましょう」
それくらいはいいわよね、と言う二人に了承を返した。
アーシェラが戻ってくるまではまだまだ時間がかかるだろう。
いつかアーシェラが、クリステーア公爵家に戻ってくる時の為に、私たちは戻る為の場所を用意しよう。
ただ生まれた家に帰ってくるというだけではなく。
―――アーシェラが、クリステーア公爵家が『自分の家』だと思えるように。
お読みいただきありがとうございます。




