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16 おいしいものは人を踊らせる?


 ◇◇◇


 さて、お米の試食も終わったので、料理の説明はローディン叔父様から、クラン料理長に任せることになった。


「んん? これは?」

 みんなの前に出されたのは小さな皿。

 

「水戻ししたコンブの旨味が入った水は、料理の旨味として使いましたが、コンブ自体が結構残りましたので、こちらも作りました」


 そう、乾燥昆布は水戻しすると3倍くらいになるのだ。

 コトコト時間をかけて出汁・酒・醤油・砂糖などで煮ると、柔らかくなってとても美味しい。

 旨味を出した後のコンブの活用の定番だ。

 柔らか煮にして、みんなに食べてもらおうと切ってもらっていた最中に、一休みしましょうと、もらったおやつを見て思いついたので、コンブの柔らか煮の材料から一部を別鍋に分けて、急遽作ってもらった。


 実はこれを作る際に大きな発見があった。

 醤油・味噌・コンブに続いて日本食に欠かせないものだ。


 思いついたそれを作る際に、炊き込みご飯に乾燥したまま入れて炊いたコンブが比較的柔らかくなっていたので、細く切って調味料を入れ。


 お酢が欲しいと言ったら、副料理長のマークさんが十種類以上の酢を並べてくれた。

 ブドウやリンゴを使ったもの、いろいろな果実で出来た酢がたくさん並べられた。

 米酢は残念ながらなかったけど。

 色が濃い酢は残念ながら醤油に合わないので、色の薄い酢を何種類か小皿に出してもらって味見。


 そして、並べられたその中に、麦やトウモロコシとかから出来たという穀物酢があったのだ!


「これ! おいちい!!」


 この世界で日本食に合う酢に出会えるとは思わなかった! 

 前世でよく使っていた酢とそっくり! 遜色なし!!

 原材料とかは日本のとは多分違うだろうけど、問題ない(ノープロブレム)!!



「お酢に感動するとは驚きですね」

 と副料理長のマークさんが味見をして感動している私を見て不思議がっていたけど。


 これは私の中で重要なことなのだ!

 これでいろんな日本食が再現できるではないか!!

 酢の物とか、ちらし寿司とか、お寿司とか!!

 


「おじしゃま! りんくおじしゃま! これおうちにほちい!!」

 今すぐ走って行ってお願いしたいのに、テーブルの上に並べられた各種の酢を見るために、靴を脱いで椅子の上に立っていたので、すぐに行動できない。


 大きな声で叔父様たちを呼ぶと、試食品を並べていたテーブルの方からすぐに来てくれた。


「これ!! しゅごくおいちい!!」

 自分の眼がキラキラしているのが分かる。

 ローディン叔父様が笑って私からお酢の瓶を受け取った。

「ん? この酢か。ああ、このラベルのとこなら知ってる醸造所だな」

「おいちいの!! おうちにほちい!!」

 リンクさんも覗き込んで頷いた。

「美味しいんだな?」

 うんうんうん。激しく何度も頷くと。

『わかったわかった』と言ってリンクさんが私の髪をぐしゃぐしゃと撫でた。


「「よし、商会に仕入れよう」」

 ローディン叔父様とリンクさんが同時に言った。


「「アーシェの選ぶものにはハズレが無いからな」」

 ふたりともシンクロしてるよ。

 

 やった~!!


 ディークさんや料理人さんたちのように、私もお酢の瓶を持って小躍りした。


 ──人のことは言えない。

 だって、美味しいものは人を踊らせる(?)のだ。



 こほん。

 気を取り直して、鍋に酢を適量入れる。

 酢はコンブを柔らかくする成分があるのだ。

 煮込んで、少し乾かして、塩をまぶして作った──塩コンブの完成だ。



 そして、その塩コンブが少しずつガラスの小皿に入れられて、晩餐の席の一人一人に配膳された。


「さっきの煮たコンブとは違うの?」

「細いわね」

「はい。細く切って、先ほどと同じ醤油などの調味液に少し酢を足して煮詰めた後に少し乾かして、塩をまぶしたものです。塩辛いですが、食材と合わせると美味しい調味料となるのです」


 クラン料理長が私を見てにっこりと笑った。


 先ほど賄いとして、ゆでたジャガイモに塩コンブを入れてマヨネーズを入れたものを作っていた。


 塩コンブは出来上がりの状態が、塩がまんべんなく付いている為、料理人さんたちは腰が引けていた。


『これで完成なのですか??』

『こんなに塩がついてて食べられるんでしょうか······』


 さっきまではコンブから旨味を出した水を使っていたのに、急にコンブが食材に変わった為混乱していたようだ。

 しかも出来たのは、びっしり塩がついて、さらに黒いもの。

 日本人は海苔とか食べ慣れていて黒い食材に抵抗はないけど、あまりこちらには黒い食材が無いらしい。

 指示されたまま作ったものの、完全に腰が引けていた。


 でも、この状態が美味しい食材の完成形なのだ。

『できた~! おにぎりにしゅる!』

 とわくわくしながら言ったら、料理人さんたちが、われもわれもと一緒に作りはじめた。

 作ったら当然食べるわけで。


『混ぜただけなのに、白いご飯が美味い!』

『コンブってとろみがあるんだな! しかも美味い!』

『塩の分量を考えて作ればいいんだな!』

 塩コンブの美味しさと使い方をマスターすると、すぐに塩コンブを使って従業員用の賄い料理を作ったのだ。

 

 さすがにプロの料理人たちだ。

 自分たちで作って食べて理解したようだ。

 今後、デイン伯爵家で塩コンブも調味料として活躍しそうでよかった。




 ──と。そんな風にして料理人さんたちにも受け入れられた塩コンブの隣に。

「こちらをどうぞ」

 と、ガラスの器に盛りつけられて出されたのは、キンキンに冷えたデザート。


「まあ! アイスクリームね! 私大好きです!」

 マリアおば様が嬉しそうにスプーンをとった。


 私もアイスクリームが大好きだ。

 だけど、そうそうしょっちゅう食べられるわけではない。

 冷蔵庫が高価で貴重であるのと同じく冷凍庫もこれまた貴重だ。冷蔵庫より高価なのだ。

 商会の家には冷蔵庫はあるけれど、冷凍庫は置いていない。

 そもそも市井の人と同じ暮らしをする為の商会の家なのであえて置いていないのだ。

 たまに大きいお店からリンクさんが買って、魔法で氷結させて持って帰って来てくれる。


 けれど、ここは伯爵家。

 冷凍庫があって、アイスクリームもたくさん作り置きされていたのだ。

 いつでも食べれるってうらやましいなあ。



「一口そのままアイスクリームを食べていただき、その後こちらの塩コンブを合わせてお召し上がりください」

 クラン料理長の言葉の後を、リンクさんがニヤリと笑いながら繋げた。

「味の違いに驚くぜ」


 そして、みんな同時に食べてもらった。

 まず一口目は、アイスクリーム。

 ミルクと生クリームのコクとお砂糖の味が舌の上で溶けて堪らないほど美味しい。

 定番の美味しさだ。


 そして、塩コンブをほんのちょっと乗せて、一口。


 瞬間、みんなの目が驚きに見開かれた。


「──!! まあまあまあ! なんて美味しいの!!」


「「「「う、美味い!」」」」


 先ほどまで美味しくても『うむ』と頷くだけで、あまり多く声に出してこなかったひいおじい様まで、はっきりと言った。

 いつもはあまり語らず、と。そんな感じなのだろう。

 ローディン叔父様が、思わず声を出したひいおじい様を見て笑った。


 そう。

 このアイスクリーム×塩コンブの組み合わせは、初めて食べるとびっくりするのだ。

 私も前世で初めて食べた時に、味のコントラストに驚いた。


「アイスクリームと塩がどっちも味をひきたてて、美味い! あとコンブの旨味が分かる!!」

「一気に別の料理になったかと思うほど味が変化する!すごく美味い!!」

 ホークさんと共にデイン伯爵様まで声が大きくなっているよ。

「甘くて、しょっぱくて、もっともっとアイスクリームが食べたくなるわ!!」


 全員、アイスクリームをおかわりして、塩コンブとのコラボレーションを堪能していた。

 気に入ってもらえたみたい。


 甘い、しょっぱいの無限ループ。

 これは私が前世でハマった食べ方だ。

 もっと、もっととどんどん食べたくなる。


 ちなみに厨房でも、叔父様達や料理人さん達もみんな同じ反応をしていた。


 そう、とっても美味しいよね。



 あれ? 美味しいものを食べた時の感動の小躍り()しないの?

 思わず聞いたら、炊き込みご飯の方が感動したんだって。


 なるほど。



お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 味覚のチート食材、塩昆布がやはり来た! 地球でも一部アジア地域以外では近代まで見向きもされなかった食材だもんね。 やはり食の知識は異世界においては「平和的な最強チートスキル」だよねぇ
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