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158 思わぬところから明らかになりました

更新が遅くなり申し訳ありません。

これからあまり日を置かずに数話続ける予定です。


これから数話はアーネストおじい様視点です。


少しシリアスな話が数話続きます。




 ―――先日カロリーヌが男の子を産んだ。


 その子は限りなく黒髪に近い、焦げ茶色の髪、茶色の瞳をしていた。

 焦げ茶色の髪。

 クリステーア公爵家の直系には絶対に出るはずのない色だった。

 だが。

「この子はリヒャルトの子です!! 私は不義など犯しておりません!」

 とカロリーヌが何度も訴えた。


 リヒャルトが横領罪の罰としてアンベール国側の国境へ送られた後、カロリーヌの妊娠が発覚した。

 すでにリヒャルトとカロリーヌは爵位を剥奪されて平民となった身。

 私と妻のレイチェルはリヒャルトが義母の不義の子と知っているが、ごく限られた者以外には、リヒャルトはクリステーア公爵家の直系の血を引く者として認識されているのだ。

 カロリーヌは、放逐しておけば害悪にしかならないことをしでかすゆえに、監視付きでクリステーア公爵家の別邸に滞在させていた。カロリーヌはそれを都合のいいように『自分たちが後継者だから』と思っていたようだ。

 そしてお腹の子がクリステーア公爵家の後継者なのだと、豪語して憚らなかった。


 全く図々しいことこの上ない。

 そしてカロリーヌは月満ちて初夏のある日、男の子を出産した。


 女医から男の子だと聞き、喜んで生まれた子を見た瞬間、カロリーヌは悲鳴を上げた。

 へその緒がまだついたままの我が子が―――黒髪に近いこげ茶色の髪色だったのだ。

 それにはカロリーヌだけではなく、私達も驚いた。

 カロリーヌとリヒャルトは金色の髪をしている。

 そして貴族の子は、父親の髪色と瞳の色を受け継ぐのが当たり前なのだ。

 それなのに。生まれた赤子は、茶色の瞳はリヒャルトと同じであるが、カロリーヌが子どもの父親だと主張するリヒャルトと同じ金髪ではなかったのだ。


 赤子の髪色は、我がクリステーア公爵家の血を引いた者ではありえない色。

 我がクリステーア公爵家は創世の女神様の流れを汲む特別な家系だ。

 ゆえに直系血族は、金髪。それ以外はあり得ないのだ。

 こげ茶色の髪。それはクリステーア公爵家の血を引いていない、なによりの証拠だった。


 カロリーヌの父親であるルクアイーレ子爵は、カロリーヌがこげ茶色の髪の男と不義を犯したと娘を非難した。

 カロリーヌの母親や兄たち、叔父や叔母も、誰一人としてカロリーヌを庇いだてしなかった。

 それは生まれて来た子供が、カロリーヌの普段の行為の結果だと誰もが思っていたからだ。


 確かに、リヒャルトにしろ、カロリーヌにしろ、夫婦共にパートナーがいながら別の異性と関係を持っていると、あちらこちらから聞こえて来たほど異性関係は派手だった。


 だが、カロリーヌは絶対に絶対に生まれた子はリヒャルトとの間に出来た子供だと言い張った。


 アースクリス国の貴族は銀髪か金髪が主流。極まれに平民から貴族となった者の子が濃い色の髪色を持って生まれたりはするが、代を重ねていくと数代で濃い色の髪色を受け継ぐことはなくなり、銀髪や金髪となるのが当たり前なのだ。

 ゆえに、両親が金髪である場合は金髪の子しか生まれないということになる。


 稀ではあるが、貴族である母親の魔力よりも、平民である父親が魔力の強い者であった場合には、魔力の強い者の色彩を受け継ぐことがある。

 平民出身のレント前神官長がいい例だ。

 レント前神官長の両親は魔法学院で出会って結婚したという経緯がある。

 父親は平民とはいえ、魔法省に引き抜かれるほどの魔力保持者だった。

 レント前神官長が貴族出身の母親の金髪ではなく、魔力の強い父親の茶色の髪を受け継いだのはそういう理由があった。


 それでいくと、カロリーヌが生んだ赤子の父親は魔力の強い平民ということになるのだ。


 ―――選民意識の高いカロリーヌが、いくら相手が美男子だとしても平民と枕を交わすとは思えないのだが。


 だが、カロリーヌが生んだ子供は明らかに父親が貴族ではないという、証の髪色を持っている。

 その事実は覆されることはなく、結果、誰一人としてカロリーヌの言い分を信じる親族はいなかった。

 『正直に父親の素性を明かせ』と家族に問い詰められたカロリーヌは、頑なにリヒャルトの子であることを主張し続け、その末に王宮と神殿に血縁鑑定を依頼したのだ。


 国最高峰の鑑定者として、国王陛下直々に勅命を受けて鑑定のためにクリステーア公爵家別邸に訪れたのは、カレン神官長と数人の神官だった。

 そして、中立的な見届け人として裁判官数名が立ち会うこととなった。

 カレン神官長はカレン神官長個人が持つ能力で血縁を視ることが可能だ。だがその力は公にはされていない。

 今回の鑑定は誰でもが一目で確認できるように、鑑定の結晶石で血縁関係を鑑定することとなった。

 血縁関係を見ることのできる結晶石は希少であり、魔力を鑑定する結晶石と同じく、神殿で管理されている。

 後継問題等で血縁を鑑定する時の為、国王権限でのみ鑑定の結晶石の使用が許可されるのだ。

 この結晶石での鑑定は神官と裁判官の立ち合いによって真実であると認定されることになる。

 カロリーヌが生まれた我が子をクリステーア公爵家の後継者として、公式に認定されることを、神官や裁判官等の第三者を使って確定しようとしているのがありありと感じられた。


 まあ、カロリーヌがどんなことをしようと、結果はわかっているのだが。

 ―――ここでカロリーヌの思い上がりを完全に叩き潰しておくことにしよう。



 ―――クリステーア公爵家の別邸の一室に鑑定の為、カレン神官長と神官たち、リルア裁判長と裁判官たちが訪れた。


 血縁関係を鑑定する為に、カロリーヌの家族であるルクアイーレ子爵家の血を引く者たちを呼び寄せていた。両親と兄二人。そして叔父と叔母である。ちなみにカロリーヌの祖父は、横領事件の際に自分の名義を犯罪に使われ、その心労がたたり事件後しばらくして逝去していた。


 そして我がクリステーア公爵家からは私と妻のレイチェルが立ち合い、私の側近であるルイドがこの応接室の隅に控えている。


 カロリーヌは安静にしなければならないということで椅子に腰かけ、その後ろでメイドが赤子を抱いて立っている。

 まるで別邸の女主人であるかのように振舞っている。身分を剥奪され、平民となったという意識はまったく持っていないかのようだ。―――もっと簡素な屋敷に閉じ込めるべきだったか。

 逆にカロリーヌの両親や兄たちは居心地が悪そうにちらちらと裁判官たちを見ている。

 件の横領事件の時に、ルクアイーレ子爵家にも厳しく捜査の手が入ったのだ。結局ルクアイーレ子爵家は知らずに巻き込まれたと判断され厳しい処罰は受けなかったが、どこかびくびくしている。


 部屋の中央に鑑定する場を設け、神官たちが準備を終えると、皆に中央に集まるよう促した。

「では、カロリーヌの要望により鑑定を始めます。これは血縁関係を見ることの出来る結晶石です。まずはこれが正当なものであることを証明するために、皆様に一度触れていただきます」

 カレン神官長がそう言って、立ち合いで来ている裁判官や神官たちに、鑑定の結晶石に触れることを要求した。


 裁判官たちや神官たちは全く血縁関係が無い者ばかりのようだ。

 球体の結晶石に皆で次々と触れていき、血縁が無いことを確認している。

「ふむ。我々裁判官と神官たちには、血縁関係がないようだな」

 裁判官の黒い法服に、きっちりと撫でつけた銀髪の高齢のリルア裁判長が腕を組み、結晶石を覗き込んで頷いている。

 そこに裁判官の一人が声をかけた。

「リルア裁判長、これだけでは真実味に欠けるので、私とクリステーア公爵の繋がりを見てください」

 そう言ったのは、裁判官のアーレン・ルードルフ侯爵。彼は父の妹の息子であり、私の従兄弟だ。

 金髪に青緑色の瞳を持った彼は、次代の裁判長となる一人だ。確かに、結晶石の試し検証とはいえ、裁判官や神官で誰も反応しないのでは、皆に納得させるには足りないのではないかと思っていた為、アーレンの提案に快く乗ることにした。


「なるほど。ルードルフ裁判官は、クリステーア公爵と従兄弟であったな」

 リルア裁判長が納得して私たちに鑑定を促した。

 二人で鑑定の結晶石に触れると、水に絵の具を落としたようにゆらり、と、金色の光が現れ、私と従兄弟をつないだのが見えた。

「うむ、なるほど。親子や兄弟であれば結晶石全体が光に包まれ、おじやおば、いとこ関係になるとこのように、リボンのように繋がりが現れるのだったな。そしてはとこ以上に血縁関係が離れると薄くなっていき最後は見えなくなる、ということだったな」

 血縁関係があれば血縁の強弱で光の濃さが変わるのだ。

 リルア裁判長が結晶石を覗き込んでふむふむと納得した。


 次にカロリーヌと両親、兄弟、叔父叔母が次々と鑑定の結晶石に触れた。

 鑑定用の結晶石が噓偽りのないものであることを証明するかのように、カロリーヌと両親は結晶石全体が輝いた。


 カロリーヌと兄たちも両親と同様に。そして叔父や叔母との鑑定では私とアーレンと同様に光の帯のようなものが現れた。そして、カロリーヌと数代離れた遠い血縁でもある子爵家の従者とも鑑定した結果、微かに繋がりが見えた。

 幾人もの検証を行い、鑑定の為の結晶石が正当なものであるとの認識が全員にされた。


 その上で、カロリーヌと赤子の親子鑑定がされた上で、いよいよ私の役目が回ってきた。


 カロリーヌと私は数代離れた遠い血縁関係がある。カロリーヌが一族の者とはいえ、その血縁関係は限りなく遠い。

 実際、カロリーヌとの繋がりは、目を凝らしてやっと微かに見える程度だった。


 そして、次に私と赤子との鑑定となった。

 私が先に結晶石に触れると、カロリーヌが赤子を抱き、小さな手を丸い結晶石に触れさせる。

 ここにリヒャルトはいないが、この子がリヒャルトの子供であったならば、対外的に私は伯父ということになるのだ。

 血縁関係があるならば、先ほどのカロリーヌと叔父叔母のように、若干色が薄くてもはっきりと繋がりが見えるはずだ。



 ―――だが。結晶石は光を生み出さず、沈黙を返すのみだった。




お読みいただきありがとうございます。

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