155 ぐろてすくですが
コメントありがとうございます。
なかなか返信できませんが楽しく読ませていただいています。
これからもよろしくお願いします。
「おでんも美味しかったし、野菜炒めにも合って旨かった」
ローディン叔父様もおでんの汁を飲み干していた。うん、その気持ち分かる。お魚の旨味が入ってて美味しいもんね。
「煮ると柔らかくてやさしい味がするし、野菜と一緒に炒めてもしっかり味があって美味しいわ。ベーコンの代わりになるわね」
バーティアの商会の家で毎日料理をするローズ母様は、さつま揚げがいつでも手に入ればいいのに、と呟いた。
「そうですね。スープもおでんも炒め物も美味しく出来ました。料理人としてもこれはいい食材だと思います」
ポルカノ料理長も大きく頷いた。
「タラのフライは冷凍して、揚げれば食べられるし、さつま揚げはすでに揚げてあるのを冷凍しているから解凍すればすぐに食べられるから利便性もいいな」
「今までタラは傷むのが早くて、魚屋も敬遠するくらいだったからな」
「それにタラは爆食で他の魚を食べてしまうから漁師にも嫌われていました」
「たくさんいる魚だ。それに繁殖力も強い。多めに獲ったとて枯渇する魚種ではないからな。よし、タラを冷凍加工のメインにしよう。漁獲量が多い分、価格も抑えられるだろうからな」
ローランドおじい様がホークさんやカインさんと事業の話をしている間、ポルカノ料理長と料理人さん達に他の料理の仕込みをしてもらっていた。
ひとつは、タラのあらを使った潮汁。先日漁師さん達にご馳走してもらった一杯を再現してもらっていたのだ。野菜とタラの身と白子、タラコを入れた一杯。
海育ちのデイン家の皆さんは白子を平然と食べていたが、内陸部育ちのローディン叔父様とローズ母様は『確かに美味しいけど見た目が……』と正直な感想だった。
確かに、白子はクリーミーで濃厚な旨味があって美味しいけど、いかんせん見た目はグロテスク。
貴族であるデイン伯爵家は、辺境伯で軍を率いる立場から『生き抜く為にはどんなものでも食べる』という信念が息づいている。小さい頃から辺境伯家の一員としてサバイバル術を教え込まれて育つからなのだろう。白子も平然と食べていた。
リンクさんも『新鮮な白子は美味いぞ』とごく自然に食べていた。
よかった。白子を使った潮汁は、前世の我が家の定番メニューだったのだ。
これからもタラがバーティア子爵家に送られてきたら食べられる可能性がある。わくわく。
食材を置いておいたテーブルには、まだ白子やタラコが入ったボウルが置かれている。
今回使ったタラは、前世でよく手に入った、スケソウダラとマダラが一緒になったようなものだった。
スケソウダラはマダラに比べ身肉の味が淡白で、卵に旨味がある。
マダラは白子に旨味が強く、卵は旨味が欠ける感じだ。
今回調理に使ったタラはスケソウダラのように味が淡白。けれど、マダラのように白子が大きく旨味が強かった。
そして、卵は。形から言って、スケソウダラにとっても似ているのだ。
スケソウダラの卵といったら、たらこ。そして明太子が食べたいと思ってしまうのは当然の流れだ。
捌いてもらった後すぐに下処理をしておいたものだ。
様子見に指でつついてみる。うん、柔らかくふにゃふにゃだった卵が塩をして寝かせておいたことでかっちりとした触感になっている。よしよし。
タラコは生でも、塩漬けでも、明太子でも大好きな食材だった。
生のタラコを煮て作った煮物や佃煮は大好きだったし、塩漬けのタラコや明太子はいろんな料理に大活躍だった。
主食として麦の生産が主流なアースクリス国ではパンの他に、パスタもあることを知った。
前世のように乾燥させたスパゲッティは無く、料理人が粉からパスタを打つ。
だから、当然バーティアの商会の家で食べたことはなかった。
そんなわけで、デイン家やバーティア家に行った時に生パスタ料理を食べるのが大好きだったのだ。
たらこスパゲッティに明太子スパゲッティ! タラモサラダも美味しいし、熱々のジャガイモにバターとタラコを乗せるのも美味い~!
想像に期待を膨らませて笑みをこぼす私を見て、ローディン叔父様とリンクさんが首を傾げた。
「うん? これはタラの卵か? 何をしているんだ?」
「たらこのしおづけ、ちゅくるの!」
期待で自分の瞳がキラキラしていたのは自覚していた。
ボウルを持って、これ!! とローディン叔父様とリンクさんに見せる。
これはタラを捌いてすぐ洗い、塩漬けしてもらっておいたタラコだ。
「塩漬けしてどうやって食べるんだ?」
「ごはんにのせりゅ! ぱすたとか、さらだにちてもおいちいの!!」
力いっぱい主張する。テンションが上がるのは大好きな食材だからだ。
「へえ、そうなのか。楽しみだな」
「身や白子より、タラコの方がアーシェのテンションが高いな」
うん。スーパーで買う頻度は、身よりもタラコの方が断然多かったんだよ。
取り出した卵は寄生虫が怖かったので、一度急速冷凍してもらってから仕込むことにした。冷凍することで寄生虫のアニサキスは死ぬからだ。
でも、ホークさんに鑑定してもらったら寄生虫はいなかった。
こっちには寄生虫はいないのかな? それだととても嬉しいことだけど。
その後、タラコの重量に合わせて塩を6%計量してふり、寝かせておいた。
そして数時間おいた塩漬けのタラコを水で洗い、ザルにあげた。
「あと、いちにちくらい、れいぞうこでねかせるとおいちい」
前世では三日ほど冷蔵庫で熟成させる必要があったのだが、こっちの世界では前に比べるとショートカットのようだ。
たぶん一日で十分熟成されるだろうと思う。
温かいご飯に合うのだと言ったら。
「なるほど。楽しみだな」
うん。待つという時間もいい調味料になるんだよ。
「アーシェラ様、タラは天ぷらにならないのですか?」
と、ポルカノ料理長が聞いてきたので、身も天ぷらにできるけど、白子がおすすめと言ったら喜んでその場で作っていた。
みんなに白子の天ぷらが渡り、みんなでいただきますをして、ぱくり。
ああ。濃厚な白子の旨味ととろりとした食感が絶妙だ。おいし~い!
ローランドおじい様が天つゆにつけた白子の天ぷらを一口食べると、目を丸くしていた。
「うむ。白子の天ぷらは、とろりとして旨い」
「白子の天ぷらって、面白い食感ですね!」
初めて白子の天ぷらを食べたポルカノ料理長は、さっき白子の天ぷらを持って小躍りしていた。
「ホントだ。天ぷらでこの食感は他にないな」
「白子が天ぷらになるとは、面白いな」
ローディン叔父様とリンクさん、ホークさんは、料理人さん達が揚げた端からどんどん白子の天ぷらを食べていく。
「アーシェラ様が言った通り、天つゆに大根おろしを加えたらさっぱりしていいですね!」
カインさんが大根おろしを天つゆに追加しながら白子の天ぷらをお替りしていく。
「これだと大好きな天ぷらがもっともっと食べられます!!」
大根おろしを一番喜んだのはポルカノ料理長だ。嬉々として大根を大量におろしていく。
「白子もタラの身の天ぷらもまだまだありますからね!!」
……ポルカノ料理長。ものすごく天ぷらを食べてるけど、天ぷらはお腹周りを成長させるよ?
ちなみに白子の天ぷらはローディン叔父様とローズ母様も大丈夫だった。
衣に隠れて形があまりわからなかったからだろう。
―――やっぱり見た目も大事だよね。
白子は見た目から敬遠されるだろうということで、デイン領以外への流通はしないことになった。
一度白子を冷凍してみたら、やはり食感や風味が落ちることが分かったので、保存魔法か、あとはとれたその日に調理して食べるしかないという結論になった。
そしたら、ポルカノ料理長が急遽知り合いの食堂の店主を呼んできて白子の天ぷらを食べさせたら、店主は初めての天ぷらと、白子の濃厚な旨さとクリーミーな食感のベストマッチに驚き感動していた。
ポルカノ料理長が気をきかせて、タラの身の天ぷらや、野菜のかき揚げを次々と揚げて食べさせたら、天ぷらをすぐさまメニューに入れたいと興奮していた。
白子の天ぷらも『デイン領でしか食べられない珍味』を謳い文句にして、彼が経営する食堂と宿屋で提供することが決まった。
たしかに、白子を美味しく食べるなら、デイン領に来るしかないだろう。
貴族なら保存魔法がかかった高価な袋や箱を持っているだろうけど、国民の九割以上は平民なのだから。
白子の天ぷらや、野菜の天ぷらが行きつけの店で出されることを喜んでいたのは、天ぷらをこよなく愛するポルカノ料理長だったけどね。
後日、『デイン領で、しかも採れたその日にしか食べられない珍味』として、食堂が競り合うようにメニューに取り入れたのは、また別の話。
さて、今日のラストは生タラコを使った料理だ。
「だいこんと、にんじん、たらこの『こあえ』でしゅ」
短冊切りした大根とニンジンを少量の出汁や醤油、砂糖、酒で炒め煮してタラコをほぐして和えた、子和えだ。
前世の我が家ではタラコの子炒りとも言っていたけど。
タラコがよく出回る冬によく作った大好物だった。
「おいちい」
ああ、懐かしい味だ。ほっとする。タラコが食材に絡んで美味しさが倍増している。
「まあ、本当ね。野菜は素朴で優しい味だけど、タラコが一緒になると何倍にも美味しくなるのね」
ローズ母様、上手い表現だ。
「そうだな。なんだか安心する味だ。しかも旨い」
ローランドおじい様も気に入ったようだ。
「お屋敷ではあまりタラを使ってきませんでしたから、白子はもちろん、タラコの料理もレパートリーがそうありませんでしたが、こんなに美味しいのであれば積極的に使っていきたいです」
ポルカノ料理長がそう言うと、料理人さん達もうんうんと首肯している。
アースクリス国唯一の海に面したデイン領でタラはあまり食べられてこなかった、ということは他の領では、タラは未知の食材ということだろう。
フライから始まり、さつま揚げが受け入れられれば、タラコも普及していくだろう。
どれも冷凍で流通できる。各商会には冷凍庫があるのだから、美味しさと利便性を認識してもらえれば十分に需要を見込めるだろうと思う。
「これもどうじょ」
出したのは、出汁と生姜のすりおろし、酒、味醂、醤油と砂糖で煮たシンプルなタラコの煮付けだ。
煮ている途中で少し切込みを入れたので、花のようにタラコが内側から広がっている。
実はこの煮付けは、タラコの子和えより好きでよく作っていたものだ。
そのまま食べても、とっても美味しいし、ほぐれたタラコと煮汁をご飯にかけて食べると、ごはんがとっても美味しく食べれる。
ああ、ごはんが欲しい。炊いてもらえばよかったかな。
「「これ、旨いな!!」」
リンクさんとローディン叔父様が声を揃えた。
「本当ね。シンプルな煮付けだけれど、これが一番好きだわ」
ローズ母様もおかわりしていた。うん、美味しいよね。
「これ絶対米にあう!」
ホークさんが白飯が欲しい! と言うと、ローランドおじい様が。
「酒にも合うぞ」
と言った。うん。白飯も酒も『米』だからね。
とにもかくにも、どうやらタラは無駄にならずに済みそうだった。
お読みいただきありがとうございます。




