154 たからのもちぐされだよ?
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さて、タラのフライは受け入れられた。
でも、タラはもっと使い道があるのだ。
次のものを作るために、ディークひいおじい様が作ったという魔導具のフードプロセッサーを用意してもらった。
まずはタラの下処理をする。塩をふって少し時間を置いた後、水洗いをして水気をとり、皮や骨を取って、タラの身を細かく刻んだ。
そして、細かく刻んだタラの身をフードプロセッサーに入れ、塩と酒を加えて粘りが出るまで混ぜる。フードプロセッサーを使うと簡単にすり身を作ることが出来るのだ。
「へえ~。そうか、フードプロセッサーってすり身を作るのにもいいんだな。ミキサーはエビ殻を砕くのに使ってたけど、フードプロセッサーは使い道が分からなくて使ってなかったんだよ」
ホークさんが一気にすり身になっていくタラを見て、感心して言った。
「あい。おちゃかな、おにくがすごくやわらかくにゃる」
ホークさんは加工場にフードプロセッサーが来た時に、『野菜を細かく切り刻める』と説明を受けたが、魚がメインの加工場では野菜を使うことがないため、フードプロセッサーは箱に入れられて倉庫に入っていたのだそうだ。
なんてもったいない。宝の持ち腐れだよ?
フードプロセッサーは野菜だけじゃなくて、いろんな食材を細かく刻んだり混ぜるのに最適なんだよ。
まあ、普段料理をしないディークひいおじい様がフードプロセッサーを作ったのだし、料理をしないホークさんが、説明された野菜以外に使おうと思わなかったのは仕方がないことだろうと思う。
さて次に、卵と片栗粉、すりおろした生姜を入れて、さらに滑らかになるまで混ぜる。
山芋のすりおろしを入れるとふんわりとした食感の物が出来るのだけど、無いものは仕方ない。
出来たすり身を取り出して、もう一台のフードプロセッサーで荒めにみじん切りしておいた玉ねぎとニンジンに実離れしないように小麦粉をふっておいたものを加えて混ぜ合わせ、小さな丸型に成形した。
「フードプロセッサーって便利ね。簡単にみじん切りが出来るし、玉ねぎで目が痛くなることもないわね」
いつも料理をしているローズ母様が感心している。
「これをおいるであげてくだしゃい」
「焼くんじゃなくて、揚げるんだな?」
先日この加工場ですり身を使ったちくわもどきを見つけていたので、同じようなすり身の材料で最後の工程が違うことにホークさんも気が付いたのだろう。
こくり、と頷いた。同じすり身を使ったものでも、蒸すとかまぼこになり、焼くとちくわや笹かまぼこ、揚げるとさつま揚げ(揚げかまぼこ)になるのだ。
そして、私はその三つの製法の中でさつま揚げが一番好きなのだ。
私が成形したものを見て、同じようにローディン叔父様やローズ母様が丸型に成形したタネを、リンクさんが手際よく揚げていく。
やがて、タラのすり身で作ったさつま揚げに全体的に美味しそうな色が付いた。
「たらのすりみでちゅくった、さつまあげ、かんしぇい!」
「さつま揚げ?」
それって何? と皆が首を傾げた。
しまった。揚げかまぼこと言うべきだったか。それともすり身揚げと言った方がよかったかな。
デイン家やバーティア家の家族は私が前世の知識の引き出しを持っていることを知っているけど、カインさんや加工場の従業員さんが近くにいるのだ。軽々しく言うのは気を付けなければ。
焦ったところに、ローランドおじい様が思いがけない言葉を言った。
「さつま揚げだな!! 寒い時期に大陸で食べたぞ!」
え? 大陸って、久遠大陸のことだよね?
「おじいしゃま、たべたことありゅ?」
「ああ。冬に大陸に貿易に行った際に、乗組員が港で温かい汁物を買ってきて、帰りの船の中で食べたのだが、その中に入っていたのだ。そうだ、こんな色をしておった。魚の味がして美味かったから買ってきた乗組員に聞いたら、『さつま揚げ』だと言っておったのだ」
なるほど。久遠大陸は前世の日本のような国だ。揚げたすり身をさつま揚げと呼んでいたのだろう。
よく聞いたら、大根や卵も入っていたというから、それはたぶん『おでん』なのだろう。
ああ、なんだかおでんも食べたくなってきた。
でも、まずは作りたてのさつま揚げが食べたい。
「たべりゅ!!」
「そうだな。さつま揚げはうまいぞ」
ローランドおじい様の言葉で、みんなで一斉に口に運んだ。
うん。ちゃんとさつま揚げになってる!
さつま揚げもちくわも魚が凝縮されて、ぎゅっと締まったような食感だ。
そのままでも美味しいけれど、野菜が入ると、野菜の旨味と食感が加わって食べやすくなると私は思っている。
おすすめは玉ねぎやゴボウ、そしてニンジンだ。インゲンが入るともっと彩が良くなる。
「うむ。あの時食べたものと同じ味だな。あちらは野菜が入っていなかったが、野菜の入った方が美味いな」
うんうんと頷きながら、ローランドおじい様が二枚目をおかわりしていく。
たぶんローランドおじい様が食べたのはオーソドックスなさつま揚げなのだろう。
「ええ。お魚の味がしてとっても美味しいわね。お野菜が入っているのも食感がいいし。私お魚を捌くのは苦手だからこのさつま揚げがあったら、とっても嬉しいわ」
ローズ母様はお魚を捌けない。
貴族の女性でお料理をする女性は殆どいない。まして、丸ごとの魚を捌く貴族女性はもっと少ないだろう。
そういう私も出来れば切り身にしてもらいたい派なので、加工品になっていてくれればありがたいかぎりだ。
「確かに、美味しいし、手軽に魚が食べられていいね」
「それに淡白なタラが調理されてすごく旨くなってる」
ローディン叔父様とリンクさんも調味料や片栗粉を加えたことで、淡白なタラにしっかり味が付いて美味しいと頷いている。
「ほんとうだな。フライはソースでタラの淡白さを補うが、さつま揚げはそのままでも美味いな」
ローランドおじい様がふむふむと味の違いを確かめている。
「焼いたものと食感が全然違いますね」
カインさんが一口食べてその食感の違いに驚いている。
「そうだな。ほとんどタネは同じ材料なのに、食感が違う。焼いたのは表面がパサパサしてるが、こっちにはそれがないな。すごく食べやすい」
ホークさんも二枚目を食べながら、ちくわもどきとの違いを感じているようだ。
「すり身を焼きあげたものも、スープの具材にすると美味しいですよ」
「俺は揚げたこっちの方が好きだな」
「フードプロセッサーで混ぜたおかげか、すり身が均一の固さになってますね。焼き上げる商品もフードプロセッサーですり身を作れば効率的ですよね」
「ああ、商品の品質がいつでも同じにできるのはいいな」
カインさんとホークさんが真剣に商品化に向けて頭を巡らせているようだった。
「やさいのほかに、いかとか、たこをいれてもおいちいよ」
それこそ、フードプロセッサーで粗みじんしたイカやタコを入れたら、加工で大量に出た切れ端が有効活用できるだろう。それにイカもタコもとっても旨味が出るのだ。食感と旨味がプラスされたらもっと美味しくなる。
中に入れる具材は組み合わせでいろいろできる。
私が好きだったのは、野菜入り。玉ねぎが入ると加熱した玉ねぎの甘さで美味しくなるし、ゴボウも旨味と食感でさつま揚げが美味しくなる。
それに。
「これ、あげたらこおらしぇて、ほじょんできる」
前世では、さつま揚げを買って冷凍保存をよくしていた。
解凍してグリルで焼くと、揚げたてのように美味しくなるし、炒め物にしてもいい具材になる。
もちろん、煮物に入れるといい出汁がでてとっても美味しいのだ。
それを言ったら、ホークさんが目を輝かせた。
「魚のフライと同じく冷凍で流通できる新商品ができるな!」
「よし、本邸から料理人を呼べ! もっと試作品を作るぞ!!」
ローランドおじい様の指示ですぐさまポルカノ料理長や料理人さんたちが本邸から呼ばれた。
さつま揚げをイカ入り、タコ入り、玉ねぎ入り、ニンジンとゴボウ・インゲン入りなど数種類作り、さらにそれをそのまま食べるだけでなく、野菜炒めや煮物にするなどいろいろな料理を試作した。
こんにゃくや凍み豆腐が入らないけど、大根と卵、さつま揚げと焼きちくわ、そして結び昆布を入れて、おでんを作ったら、ローランドおじい様が『この味だ!』と感動していた。
「煮物にすると、さつま揚げが柔らかい食感になりますね。これは旨いです」
「魚の旨味が汁にしみだして、おでんの汁も美味しいです」
「これ一杯でお腹いっぱいになりますね」
「これは本当に美味しいですね」
料理人さん達にもおでんは大好評だった。
料理名もローランドおじい様が『おでん』と言ったので、そのまま受け入れられた。
おでんの『でん』は豆腐(田楽)のことだが、豆腐を食べるという風習がないアースクリス国では説明が難しいのであえて触れないでおくことにした。
今はタラをどこまで活用できるか試している最中だし。
そのうち豆腐類を入れた本当のおでんを作ってみたいな。
お読みいただきありがとうございます。




