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15 ひいおじい様と伯爵家のやさしいひとたち


 夕方になって、デイン伯爵夫妻と前伯爵が伯爵家に戻ってきた。

 時を同じくして、バーティア前子爵が伯爵家にやってきた。


 リンクさんの家族や、バーティア前子爵様に会うのは初めてだ。

 赤ちゃんの頃、私が眠っている時に前子爵様が商会を訪れたことがあるそうだけど、私が会うのは初めてなのだ。

 みなさん子供好きなのか、挨拶すると次々に抱っこしてくれた。


「なんてかわいいのかしら! 伯爵夫人じゃなくて、おばさまと呼んでちょうだい!」

 リンクさんのお母さんのマリアさんは緩やかな銀髪の艶やかでとても美しい方だ。

 とても二人の成人した息子がいるとは思えないほどの若々しさ。


「では私はおじさまと呼んでくれ」

 きっちりと髪を後ろに撫で付けているのは、デイン伯爵様。

 リンクさんとホークさんのお父様だ。

「では私はおじいさまか」

 と前伯爵様。眼を細めて優しく微笑んでくれた。

 みんな銀髪碧眼で姿も話し方の雰囲気もリンクさんみたいな人たちだ。


「む。ローズが母なら、私はひいおじいさまか。よし、そう呼べ。アーシェラ」

 前バーティア子爵のひいおじい様はローディン叔父様がそのまま年を重ねたような方だ。

 言葉はぶっきらぼうだけど、すごく優しい瞳で微笑んでくれた。

 とても嬉しい。

「あい。ひいおじいしゃま」

 きゅうって力を込めて抱いてくれた。

 ローディン叔父様と同じだ。


 デイン伯爵家の人たちは全員、銀髪碧眼。

 ここにいるバーティア子爵家の人たちは銀髪と紫色の瞳。

 ものすごく血縁関係を感じる。



 私は金色の髪に薄緑の瞳。

 ──···やっぱり。

 私だけ違うのは、さみしい···な。


 私は自分がローズ母様とローディン叔父様に拾ってもらって育ててもらっていることを知っている。

 だけど、私がそれを知っていることを、母様たちは知らない。

 だから私も知らないふりを続けている。

 しゅんと俯いてしまった私に気付いたローディン叔父様が。

「どうした? アーシェ」

「ん? どうしたんだ? 言ってごらん? アーシェラ」

「そうよ。どうしたの?」

 みんなが気づいて次々と聞いてくる。

 どうしよう。


「みんなきれいなぎんいろ。あーちぇだけちがう」

 誤魔化す言葉が見つからなくて、結局思っていたことが口に出てしまった。


 みんながハッと息をのむ。

 母様や叔父様たちが青褪めた。


 そんな中で、ひいお祖父様が、すっ、と私の前にひざまずいて私の瞳を覗き込んだ。


「──アーシェラ。私たち貴族は父親の髪と瞳の色を受け継ぐことが多い」


 それは初めて聞いた。

「だから、ローズとローディンは私と同じ色。リンクやその家族は同じ色彩(いろ)なのだよ」

 そう言って、ひいおじい様は私の頬を優しく撫でた。


「きれいな金色の髪と薄緑の瞳だ。アーシェラは父親の色を受け継いでいるのだよ」


「おとうしゃま?」

 公爵家だという私の生家の人たちは、私と同じ色だということなのか。


「そうだ。今は会うことは叶わないが、アーシェラにも同じ色を持つ父親がいるのだよ」

「おとうしゃまにあえにゃい?」


 今は? どういうこと?

 ひいおじい様、私のお父様のことを知ってるの?

 私が生まれたお家のことを知っているの?!


「そう! そうよ。アーシェラちゃん! お父様はとっても遠いところにいらっしゃるの。まだまだ帰って来られないはずよ!」

 マリアおば様が慌てたように言う。

「あ、ああ。そうだったな」

 デイン伯爵様が相槌をうつ。

「う、うむ。そのとおりだ」

 前伯爵様も、ひいおじい様を見つつ頷いた。


 ······ああ。

 そうか。

 みんな私が拾い子であることを、自分たちと血のつながりが無いことを、私に隠そうとしてくれているんだ。

 こどもが受け継ぐ色のことは本当なんだろうけれど。


 ひいおじい様もデイン伯爵様達も『父親が遠くにいるから会えない』と、必死に優しい嘘をついてくれているんだ。


 ···ならば、その優しい嘘に私もこたえようと思う。

「いちゅかおとうしゃまにあえる?」

 

「ああ、そうだ。アーシェラには母様(ローズ)がいるだろう? ローディンやリンクもアーシェラの傍にいる。みんな、アーシェラのことを大切に思っている。──もちろん、この私もだ」


「だから、私達と同じ色彩(いろ)ではないと悲しむ必要はない」

 ひいお祖父様のキレイな紫色の瞳がとても優しい。


「私はアーシェラがかわいい。髪や瞳の色など関係なく、な」

 きゅうっと、ひいおじい様が力を入れて抱きしめてくれた。

 そのやさしさが嬉しくて頭をぐりぐり胸に押し付けると、優しく頭を撫でてくれた。


「さあ。アーシェラ。早くお前が作った料理をひいお祖父様に食べさせてくれ。楽しみにしていたのだぞ」


 ひいおじい様が、私の金の髪に優しくキスを落とした。


「あい!!」

 ひいおじい様もデイン伯爵様達も、とっても優しい。


 優しい人たちに囲まれて、私はとってもしあわせだ。



 ◇◇◇



「本日はバーティア子爵領で初めて収穫した『米』を使った料理を用意しました」

 改めてローディン叔父様が今日の夕飯のメインである米の説明を始めた。


「楽しみにしていたのよ! ローズマリーに聞いた時からずっと食べてみたかったの!!」

『米はバーティア領で収穫できた時』に、と大陸からのお土産の中には入って来なかったらしい。

 なので、米は数年遅れのお土産となる。


 料理の入った皿がいくつも並べられた。

 まずは、基本の白米。

 白米の皿の隣に、きんぴらごぼう。

 刻んだパセリをのせたガーリックバターライス。

 醤油を使った、ごぼうとニンジン、マイタケ入りの炊き込みご飯。

 アサリの味噌汁。

 そしてカブとキュウリの漬物だ。

 本来夕食は一品ずつ皿が出てくるものだが、今日は米料理の試食を兼ねているので、一気に料理を出している。


「白米は噛みしめると甘味と旨味が出てくるな」

「きんぴらごぼうも美味い。白米とよく合うな」

「父上! このガーリックライス美味い!」

「こっちの、醬油を使ったっていう炊き込みご飯!! なんて美味しいの!!」


「野菜を一緒に炊き込んで食べるとは面白いな。年寄りにはいい。なあ?」

「お前と一緒にするな。味噌汁も美味い。あのバカ息子が帰ってきた時に子爵家の料理人に作らせたものとは全く違うな。美味い」

 ご飯も味噌汁もみんなに好評だ。


「この塩で揉んで漬けたという野菜の漬物もあっさりしていて美味いな。で、この黒いのは何だ?」

 デイン伯爵様、漬物の中に小さく長方形に切ってあるコンブをフォークでとりづらそうにしている。

 リンクさんが笑いながら。

「コンブを切って一緒に漬けるとコンブの旨味が食材に移るんだよ」


 次いで、クラン料理長が説明する。

「食べるには硬いと思います。ですので、野菜のみお召し上がりください。今回はコンブに旨味があることをお示しするためにあえて一緒に出させてもらいました」


「「「「コンブ??」」」」

 デイン伯爵家の皆さん。息ピッタリだ。


「ちなみに炊き込みご飯もごぼうの炒め物にも、お味噌汁にも乾燥したコンブを水戻しした汁を使っています」

「コンブって、あの漁の網にかかったりする、やっかいな海藻のことかしら?」

「コンブって食べられるのか! 今まで捨てていたぞ!」

「私も驚きました。ローズマリー様の大陸からのおみやげの調味料の中に一緒に入っていたものなのですが、今日初めて使い方を知りました次第です」

 クラン料理長が言うと、みんなが頷いた。

「大陸では普通に食されているということね」


「あと、こちらは。旨味をとった後のコンブを醤油と砂糖と大陸の酒で煮つけたものです」

 時間をかけてコトコト煮たコンブの柔らか煮だ。


「トロっとして旨い。ところどころコリっとした食感がいいな」

「お醤油もお味噌も美味しいのね」

 ひいおじい様もマリアおば様も好みの味のようだ。

「戦争が落ち着いたら、大陸から輸入しよう。米が広がれば需要も高まるはずだ」

 前伯爵様が言うと、デイン伯爵様が深く頷いた。

「そうですね」

「コンブはウチで採れますね! 網に引っ掛かってやっかいだったコンブが宝物に見えてきましたよ!」

 ホークさんはホクホク顔だ。


 さて。

 メインディッシュが終わったので、次はデザートだ。

 クラン料理長が私を見て、いたずらっ子のように笑った。


 うん。みんなをびっくりさせようね。




お読みいただきありがとうございます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「産みの親より育ての親」とは良く言ったもので、髪の色や瞳の色で差別せずに実の子として愛情を注いでくれる素晴らしい一族だね。 まぁ、ストーリーの流れ的には本当に産みの親なんだろうけど [気に…
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