147 ジェンド国のおひめさま
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なかなか返信できないのですが楽しく読ませていただいています。
これからもよろしくお願いします。
翌朝朝食がすんだ頃、先ぶれもなく偉いお客様が来たらしく、一気にフラウリン子爵家が騒然となった。
皆で慌てて玄関に行くと、クリステーア公爵のアーネストおじい様がいた。
「! おじいしゃま!!」
そして、アーネストおじい様の隣には長い銀髪を緩い三つ編みにした美丈夫なおじ様がいた。
「クリスティア公爵!」
リンクさんが驚いて声を上げた。
クリスティア公爵といえば、来月ジェンド国に出征するリンクさんの上司だ。
すらりとした長身、青い瞳が物凄くキレイだ
クリスティア公爵はアーネストおじい様と同い年だったはずだから50歳くらいだけど、まだ30代後半くらいに見える。
そういえば、アーネストおじい様も実年齢よりもすごく若いことに今更ながらに気づいた。
魔力の強い男性は老化が遅いのだった。はあ、すごい。
そのあふれた存在感で年輪を感じるのだが、故意に気配を消されたら見た目で年齢は判断できないだろう。
―――まあ、私自身が年齢不詳の代表格なんだけど。
「いらっしゃいませ。クリスティア公爵様。クリステーア公爵様」
マリアおば様が優雅に礼をする。私も一緒に礼をした。
「朝早くにすまないな、デイン伯爵夫人。急に用が出来たゆえ、先ぶれが出来ずに驚かせたな」
クリスティア公爵はそう言うと、マリアおば様の隣にいた私に視線を移した。
「初めましてだな、アーシェラちゃん。一度寝顔は拝見したが、目を開けた顔の方が可愛いな」
あう。クリスティア公爵も王宮でぐっすりと寝入っている時に来てたんだ。
「あい。おはちゅにおめにかかりましゅ。あーちぇらでしゅ」
まだまだ舌足らずは卒業できないようだ。早く成長しないかな。
「ははは。可愛いな。これからもよろしくな」
クリスティア公爵が片膝をついて目を合わせて挨拶してくれた。透き通った青色の瞳がとってもキレイだ。
真っすぐに私を見る瞳には、翳りが見えない。
四公爵家の当主は真っすぐな心根の人ばかりのようだ。
「ふむ。うちの孫息子は今年2歳なのだが、アーシェラちゃんと背丈が変わらないな」
そう言って優しく私の頭を撫でた。
あう。2歳児の男の子と背丈が同じくらいなのですか。私はもう4歳半なのですが。―――地味にへこみます。
「それだけ魔力が強いということだな、なるほど」
一人納得したクリスティア公爵がにこりと微笑んだ。
「明日は数年ぶりに開催される菜の花まつりだったのだな。では今日中に用事を終わらせて明日は祭りを楽しみたいものだな」
「そうだな」
クリスティア公爵の言葉にアーネストおじい様が頷く。
「デイン伯爵夫人。セーリア神殿と女神様の神殿を今日一日借りきる」
それは、神殿周辺への立ち入りを禁止せよという指示だ。
「はい。明日からのお祭りの準備と称して、通達いたします」
私は驚いたけれど、慣れたようにマリアおば様が了承の言葉を返した。
次にクリスティア公爵がこちらを見た。正確には私の隣にいたリンクさんとローディン叔父様を。
「リンク・デイン。ローディン・バーティア子爵。そなたたちも同行せよ」
「「承知しました」」
うん? 何があるの?
?? を顔に張り付けていたら、アーネストおじい様がにこりと微笑んで。
「アーシェラもおいで」
と、手を伸ばしたので、素直に抱っこしてもらう。
私が行くということは、危険がないということだろうと思う。
何で神殿に行くのかは皆目見当がつかないけど。
―――でも、まずは。お供え物をたくさん持って行こう。
◇◇◇
何の為に連れてこられたか分からなかったけど、女神様の神殿で、いつものようにお供え物をしてお祈りを捧げた。
今日のお供え物は、新作の菜の花ドーナツだ。
菜の花ドーナツは明日の菜の花まつりに向けて大量に揚げられ、揚げたてあつあつが保てる保存魔法で明日に備えられていた。
出店で揚がるのを待っていたら長蛇の列が出るだろうとのことで、今日もストック用の菜の花ドーナツを大量生産するとのことだった。
「ん? これはドーナツかな?」
クリスティア公爵は祭壇の上のお供え物に興味津々だ。
「家の者がバター餅と一緒にドーナツを買ってきてな。孫はカスタードクリーム入りが大好きなのだ」
へにゃりと顔が綻んだ。お孫さんが可愛くて仕方がないのだろう。
「このドーナツはアーシェの新作ですよ。菜の花を練り込んで作ったドーナツです」
「ほう、そうなのだな」
「明日の菜の花まつりで初出しします。王都の店でも旬の時期限定で販売する予定です」
菜の花が食材として旬を迎える期間のみの限定商品。
人は『期間限定』そして『数量限定』に弱い。それを狙っているのだ。
「それは楽しみだな。孫は野菜嫌いだからこのドーナツはいいな」
うん。前世でもニンジン入りやカボチャ入り、長芋入りなどもあった。レパートリーは無限大だ。
菜の花ドーナツを作った時にそれも提案していたので、おいおいそれらも出る予定だ。
「良ければ、ご用事が済みましたら屋敷にて用意させていただきます」
「ああ、それは楽しみだな。では、先に用を済ませようか」
今日は他国の貴人と会うため、セーリア神の神殿を会談場所に選んだと教えてもらった。
そしてすぐに近くにあるセーリア神の神殿に足を運んだ。
「あ。へきがかわってりゅ!!」
祭壇奥のセーリア神の壁画。約5ヶ月前までは一柱の金色の神様と随獣のフクロウだけが描かれていた。
それはこのアースクリス大陸のすべてのセーリア神の神殿がそうだった。それは信仰の過ちの証であった。
それがクリスウィン公爵領の神殿を皮切りに、徐々に二柱の神様の壁画に変わって行っていた。
「ああ。サンダー神官がアースクリス国のセーリア神の神殿すべて回り切ったから、本来の壁画に変わったのだよ」
クリステーア公爵のアーネストおじい様が言う。
クリスウィン公爵領のセーリア神殿での出来事はすぐに国王陛下に報告された。
そして、サンダーさんの決意を受け入れて王家が全面的にバックアップすることになったのだ。
「他の三国と違って、アースクリス国にセーリア神の神殿はそう多くない。サンダー神官はアースクリス国にあるセーリア神の神殿を一通り回り切り、今はウルド国に出向いているよ」
ふむ。約5ケ月前、クリスウィン公爵領のセーリア神の神殿で自らの決意を表明したサンダーさんは、アースクリス国にあるセーリア神の神殿を数か月で回り切って、終戦直後のウルド国に入ってウルドの新国王のバックアップのもとで精力的に活動しているらしい。
サンダー商会で商売をしているため、各地に赴いて物資不足等を見極めて必要な物を配分する役目も担っているらしい。
セーリア神の神殿の祭壇にも菜の花ドーナツを捧げ、お祈りをする。
今日は獅子の神獣のイオンは近くにいないようだ。気配がしない。
ここにいたら『あんドーナツはどうした!』と文句をいいそうだ。
「―――そろそろ時間だな」
そうクリスティア公爵がぽつりと言った頃、セーリア神殿の扉が開いた。
「―――ようこそ、いらっしゃいました。イブシラ・マーレン公爵令嬢」
アーネストおじい様の侍従のルイドさんに案内されて神殿内に入ってきたのは、先日デイン領の加工場で見かけた綺麗な女性だった。―――そして侍女らしき人がひとり。
明るい茶色の髪に同色の瞳の美しい女性は、庶民の外出着のような服装をしていたが、相変わらず気品が漏れ出している。とても目を引く人だ。
ジェンド国出身の貴族とは聞いていたけれど―――公爵令嬢だったのか。
イブシラ様は美しく礼をし、顔を上げると、驚きに目を見開いた。
「まあ……サンダー神官の言う通りでしたのね。本当に壁画が二柱の神様になっておられますわ」
美しい所作で歩を刻み、その視線は壁画へとくぎ付けになった。
「なんと……まあ。グリューエル国の本で見たとおりの壁画ですわ。姫様」
「―――申し訳ございません。驚きすぎて目を奪われてしまいましたわ。お久しぶりでございます。クリステーア公爵様、クリスティア公爵様。このような服装で申し訳ございませんわ」
「いえ、構いませんよ。私たちもかしこまった服装ではありませんし」
アーネストおじい様が返事を返すと、クリスティア公爵が一歩前に出た。
二人で来たが、今日はクリスティア公爵が話を進めるらしい。
「紹介させていただきます。彼はリンク・デイン。この領地の跡取りであり、ジェンド国に私と共に行く者です」
「ええ。よろしくお願いしますわ」
「隣の彼は先日ウルド国から帰国したローディン・バーティア子爵。マーレン公爵令嬢にウルド国でのことを知ってもらうために同席をさせます」
「はい」
リンクさんとローディン叔父様が挨拶をした。
そして、イブシラ・マーレン公爵令嬢が私を見て首を傾げた。どうして小さい女の子が? という感じだ。
すると、クリステーア公爵のアーネストおじい様が私を抱き上げた。
「この子は、私の孫娘でアーシェラといいます」
「まあ、公爵様のお孫様なのですね。初めまして、クリステーア公爵令嬢」
「はじめまちて。いぶしらしゃま。あーちぇらでしゅ。よろちくおねがいしましゅ」
「まあ、なんてかわいらしいのかしら。こちらこそよろしくね」
緊張が解けたかのように、ふわりとイブシラ公爵令嬢と侍女さんが微笑んだ。
うむ。どうやら私はイブシラ様達の緊張感をほぐすための要員だったようだ。
たぶん、幼い私を連れてくることで、敵国のジェンド国の貴族令嬢であるイブシラ様に危害を加えるつもりはないという意思を見せたかったのだろうと思う。
自分の孫娘の前で残虐な行為はしない、ということだろう。
そしてフラウリン領のセーリア神の神殿が会談場所に選ばれたのも、デイン領にいたイブシラ様が少しでも安心できる場所という配慮なのだろうと思う。
私が自分がここにいる理由を納得していると、設けていた席に着き、クリスティア公爵がイブシラ様の顔を真っ直ぐに見て問うた。
「―――お申し出いただいた件ですが、お気持ちは変わりませんか?」
「はい。私は反乱軍に与します。どうぞ一緒にジェンド国にお連れ下さい」
イブシラ様の凛とした声が神殿の中に響いた。
お読みいただきありがとうございます。




