146 いいことをきいた!
誤字脱字報告ありがとうございます。
本当に助かっています。
これからもよろしくお願いします。
数日前にデイン伯爵家で披露した天ぷらは絶賛された。
前日のフライのネタが天ぷらになり、衣の違いに驚いていた。
フライは濃厚ソースやタルタルソースで。
天ぷらは塩や天つゆが合う。
タラの芽、よもぎに菊の葉、ナス、玉ねぎのかき揚げ、カボチャやサツマイモを天ぷらにして、エビやイカの天ぷらをひとつの丼にし、天つゆをかけた天丼は、『豪華』の一言だった。
そして、ポルカノ料理長はじめ、料理人さん達が丼をかかげて崇めていた。
久しぶりに見たなあ、これ。
特にポルカノ料理長は天ぷらが大のお気に入りになったらしく、小麦粉や片栗粉の配合やら食材の下ごしらえの仕方、水の温度に至るまで私にしがみつくかのように、一から十まで教えを乞うた。
「天丼美味かったよなあ。カボチャやサツマイモがホクホクして美味かった」
「ナスがあんなに美味しいものだと感じたのは初めてだったな」
「玉ねぎにキクの花びらや葉を入れたかき揚げも美味しかったわ。玉ねぎがあんなに甘くなって美味しくなるなんて。それにニンジンも入って色鮮やかで見た目にも綺麗だったわ」
「そうなの。あれをいつでも食べれるように、フラウリン子爵家の料理人にもしっかりと伝授してもらわなくちゃ!!」
どうやら私のレシピはフラウリン子爵家にももれなく伝えられているようだ。
リンクさんも『それは必要なことだな』と頷いている。
フラウリン子爵家は将来リンクさんが継ぐ家でもある。
それならば、しっかりとポルカノ料理長に使命を果たしてもらおう。
◇◇◇
フラウリン子爵家本邸のテラスで大好きなイチゴジュースでひと休憩。
ふう。馬車の揺れがやっと抜けてきたような気がする。でも、船より悪酔いしなくてよかった。
そこに、コック服に着替えたポルカノ料理長たちが入ってきた。
料理人さん達は大丈夫そうだけど、ポルカノ料理長の顔がまだ青白い。
「ぽるかのりょうりちょう、だいじょぶ?」
「す、すいません。馬車酔いしまして……」
「船は大丈夫なのにな。アーシェと逆だな」
「船は子どもの頃から慣れていたのですが、馬車はどうも……」
そう言いつつ、指示された席についた。
ポルカノ料理長たちに遅れて、フラウリン子爵家の料理人さん達も入ってきた。
これからデイン家が出店で出す料理の話をするそうで、フラウリン子爵家の料理人さん達もサポートに入る。
お祭りの出店は地元のお店が出し、フラウリン子爵家の料理人さん達は、毎回デイン家からの出店のサポートをするのが慣例なのだそうだ。
「でみせ、なににしゅるの?」
「バーティアのお店で出しておりました、シンプルなドーナツにしようと思います。食べ歩き出来るものですし、まだ地方にドーナツは普及しておりませんので、他の出店と重なることはないかと思います」
「まあ、それはいいわね! フラウリン子爵領の特産のオイルで揚げたドーナツね。ピッタリだわ!」
「相当数が出ると予想されるので、シンプルなリングドーナツ一品に絞った方がよいかと思います」
「確かに。中に何か挟むと時間と手間がかかるからな。まあ、シンプルなリングドーナツでいいか」
お祭りの出店数は数が少ない程、店の顧客数が増えるのは当然だ。
忙しくなるのが分かっているのに、あれもこれもとメニューを増やしたら天手古舞になるだろう。
―――でも、なんだか物足りないな。
二階のテラスから遠くに見えている菜の花畑を見て―――思いついた。
あれを作ろう!
「まりあおばしゃま。みきさーちゅかってもいいでしゅか?」
滑らかなイチゴジュースが出てきたから、フラウリン子爵家にもミキサーはあるはずだ。
「ええ。お義父様がくださったミキサーね。もちろん大丈夫よ。何に使うのかしら?」
「なのはなまつりだから。とくべつなどーなつにしゅる」
「まあ! そんなのができるの?」
「あい!」
試作の為にフラウリン子爵家の厨房に場所を移した。
思った通り、食材の中に菜の花があったのでこれを使う。
まずは、フラウリン子爵家のトンイ料理長さんに軽くゆでた菜の花の若い芽の部分をミキサーにかけてもらい、鮮やかな緑のペーストになったものをドーナツのタネに混ぜ入れ。それをバーティア商会の王都支店で修行(?)をしたデイン家の料理人さん達が手際よく揚げて行った。
ぽんぽんと薄緑色のリング状のドーナツ生地がドーナツメーカーから押し出され、オイルの中に投下されていく。
このドーナツメーカーは、リングドーナツがたくさん売れるので、前世の記憶をもとに作ったものだ。
粒あん入りやカスタードクリーム入りもよく売れたが、シンプルなリングドーナツが一番安価でもあり、ドーナツ本来の美味しさを感じられると、一番人気なのだ。
確かに。私もドーナツチェーンの変わり種も好きだったけれど、プレーンのリングドーナツを一番よく食べたものだ。
変わり種をたまに買う時も、〇ンデ・リングのプレーンは絶対に一緒に買っていたし、〇ンデ・リングだけ買いに行ったこともあるから、それと同じかも。
そのリングドーナツは販売からしばらくの間、真ん中の生焼け防止の為に小さい型で真ん中を型抜きしていたが、作業効率が悪かった。絞り袋を使ってみても作る人によって大きさがまちまち。
だから、ツリービーンズ菓子店のマークシスさんのお兄さんが経営する魔法道具屋兼鍛冶屋さんにドーナツメーカーの作成を相談し、試行錯誤のうえでドーナツメーカーを完成させた。
ドーナツメーカーにタネを入れて押し出すだけで、形と大きさが同じものが簡単に出来ると料理人さん達とマークシスさん達に喜ばれた。
ちなみにこのドーナツメーカーも国の機関に登録となった。
ドーナツ自体はこの世界にあったけれど、ドーナツメーカーは存在していなかったそうだ。
まあ大量にドーナツを作るところはあまりないと思うから、そんなに数は出ないだろうけど。
いい色に揚がったドーナツに軽く砂糖をまぶして完成。
「なのはなどーなちゅ。かんしぇい!!」
簡単なアレンジだが、これは前世で好きだった菜の花ドーナツだ。
さっくり、ふわっとしたドーナツをかじると、キレイな黄緑色がのぞく。
「おいちい」
「まあ! 割ってみるとキレイな黄緑色のドーナツね。美味しい上に菜の花の色と味を楽しめるなんて、とってもいいわ!」
「あ。いつものとちょっと違うけど、すごく美味い」
「これは新しい発想だな。季節限定で王都の店でもやってみるかな」
ローディン叔父様の言葉にリンクさんも同意していた。
うん。それも面白いかもしれないね。
「さすがです。アーシェラ様!」
ポルカノ料理長とデイン家の料理人さん達が瞳をキラキラさせて絶賛してくれた。
「さいよう?」
菜の花をゆでてミキサーにかける手間が増えるけど? と聞いたら。
「もちろんよ! 菜の花まつりにこれ以上のものはないわ!!」
「本当ですね! 菜の花が入っているなんて、皆ビックリしますよ」
「ひと手間増えるくらい大丈夫です。菜の花のペーストを事前にたくさん作って保存魔法の箱に入れておけばいけます」
「以前マリア様にお土産でいただいたドーナツもとても美味しくて、出店で出せることを楽しみにしていました。作る私たちも楽しいので、少しくらい作業が増えても大丈夫です!」
トンイ料理長やフラウリン子爵家の料理人さん達も、いい笑顔で了承してくれた。
さっそく厨房で、明後日のお祭りに向けて、菜の花ドーナツをマスターすべく練習が始まった。
たくさんの菜の花が運ばれてきたのをみて。
「なのはなもてんぷらにしゅるとおいちい」
と、ぽつりと言ったら、天ぷらが大好物になったポルカノ料理長の目が輝いた。
「私は天ぷらマスターになります!!」
天ぷらマスターって……いいけど。ポルカノ料理長、ふくよかなお腹がもっと成長するよ?
「もちろん、今夜は天丼にするわね~!!」
マリアおば様は結構食べるけど太らない。
どうしてかなと思ったら、強い魔力を持つ者はそうそう太らないのだそうだ。
いいことを聞いた!!
お読みいただきありがとうございます。
評価&ブクマ&いいね ありがとうございます。
執筆の励みになっています。ぽちっとしていただければ嬉しいです。




