133 にせものの王
ウルド側のお話です。
あと2話でウルドのお話は終わります。
「陛下! 王弟殿下! 転移の間が反乱軍に押さえられてしまいました!!」
ウルド王宮内は王族を守るために兵が走り回り、騒然としていた。
内務大臣のパルスが息を切らして王の間に走り込んできた。
「なんだと!? 兵は何をしていたのだ!!」
目を吊り上げてマーランド・ウルド王が叫ぶと、近衛兵が外からの報告を受けて青褪めていた。
「反乱軍がすでに王宮内深くに入り込んでおります!! すでに王宮のほとんどを制圧されています!! 外務大臣もお斃れになり、諸侯も次々と切り伏せられています―――!!」
「反逆者どもめ……!! 王家に反旗を翻すとは神罰が下るぞ!!」
「カライル別邸が反乱軍に制圧されたと連絡がありました!!」
「なんだと!!?」
「キーン別邸、ゴルバット別邸もです!!」
その後も次々と郊外の王族の隠れ家が制圧されたと報告が上がってきた。
「何故だ。何故、隠れ家すべてが知られているのだ!!」
転移魔法や隠し通路を使って逃げる先をいくつも用意してきた。
―――それなのに、それらすべてが押さえられたとは。
王城内部にそれらすべてを知る強力な内通者―――おそらくは重臣がいたことにマーランド・ウルド王は歯がみをした。
「くそ! 他に脱出路はないのか―――!」
ぎりりと玉座の手すりを握りしめて考えを巡らせた時―――ふと、思い当たることがあった。
なぜ今の今まで思い出さなかったのか。
「―――奥の神殿には、王のみが使える秘宝があったはずだ」
「!! そうだな。亡き父上がおっしゃっていた。王ならば、王を助けると」
幼い頃に聞いた、ラジエル・ウルド国王の言葉を双子が思い出した。
「そ、それは……」
カステリア公爵はその言葉を聞いて青褪めた。
確かに奥の神殿には『ウルド王』のみに応えるものがあるということは知識として知っていた。
だが目の前にいる『王』がその条件を満たしていないことはカステリア公爵自身がよく知っている。
しかも建国以来、直系の王族の誰であっても、一度も応えることがなかったものである。そしてそれが何であるかも誰も知らないのだ。
「たった一度きりだから、最後の手段にせよと仰っておられた。今それを使うべきだろう! 行くぞ!!」
王妃や側妃がそれぞれの子供の手を引いて、王や王弟の後に続く。
だが、カステリア公爵はなかなか動くことが出来なかった。
ラジエル・ウルドが何をもってそれを双子に教えたのか―――それが父としての温情だとは到底思えなかったからである。
「カステリア公爵。そなたも来い。長く王家に仕えたお前も共に助けてやろう」
急かされて、マルキス・カステリア公爵は不安を抱えつつその後を追うことになった。
ウルド王と王弟はまったく疑ってもいなかった。
―――今まで閉じられていたその記憶が、なぜ今開いたのかを。
「ここだ!!」
奥の神殿―――マーランド・ウルド王が即位すると同時に新たな神殿が建てられたが、それまでの神殿は取り壊されずそのままにされていた。
奥の神殿のさらに奥にある、天井が高くただただ広い部屋―――祭壇も何もない空間に足を踏み入れた。
「こんなところがあったのですね」
新しい神殿は旧神殿を模して造られたが、この部屋と同じものは作られなかった。
というより、この部屋はさっき突然扉が現れたのだ。―――その時を待っていたかのように。
それまではこの部屋があるとは誰も気づかなかった。
何もないと思われた場所に現れた扉をマーランド・ウルド王が開けた。
「すごいです。まるで我々を待っていたかのように扉が現れました」
パルス大臣がハアハアと息を切らしながら感動の言葉を言うと。
「そうだ。この扉は『必要な時にのみ現れる』のだと、亡き父上はおっしゃっていた。―――今がその時なのであろう」
「そうだな」
とウルド王の言葉に王弟も頷いた。
「たしか、―――あそこだな」
ウルド王は広い部屋の中央に歩いていくと、その中央にポツリとあった小さな窪みに持っていた錫杖の先を乗せた。
すると、カチリとハマる音がしたかと思うと、錫杖を中心とした床一面に魔法陣のような紋様が現れ、強い気が吹き荒れた。
その圧にマーランド・ウルド王が飛ばされ、紋様の外で尻もちをつく。
「や、やったぞ」
手ごたえを感じ、ウルド王が歓喜の声を上げた。
その間にも紋様から強大なまでの力が噴き出し、その気に圧倒され、王や王族たちが身体を振るわせた時―――その気が一つのモノとなった。
「黄金の、獅子―――」
―――そこには、黄金に輝く毛並みと瞳、その纏う気さえも黄金を放つ―――獅子が現れていた。
『―――時は来たれり』
輝く紋様の中に立つ獅子の発する声が、辺りを震わせた。
獅子はその黄金の瞳でその場にいた王族や重臣たちをぐるりと見回す。
「し、しし、神獣様……」
奥の神殿を管理していた幾人もの神官たちが一斉にひれ伏した。
だが、そんな神官たちを見て王族や重臣たちは首を傾げていた。
セーリア神の神獣は銀色のフクロウではないか、と。
「へ、陛下。セーリア神は一柱の神様ではございませぬ。正しくは二柱。今お姿を現しておられますのは、もう一柱の神様の神獣様にございます」
「フクロウは導き、獅子は王を守ると―――セーリア大陸の書にありました」
奥の神殿にいる神官たちは『アタマがおかしい』と、新しい神殿から左遷されてこの神殿の担当となった者たちだ。
それは、『セーリア神は二柱の神様である』と主張したことに他ならない。
『視える』力を持った神官は、セーリア神が二柱であることに自然と気が付いていた。
そして、別大陸の学術国に留学し、開闢記や他の国の書物でセーリア神が二柱の神であることを知った者もいる。
だから、なぜ一柱の神様のみを信仰しているのかと発言せずにいられなかったのだ。
それにより処罰され神殿から追い出される者もいたが、その後口をつぐみ奥の神殿で秘かにもう一柱の神に祈りを捧げてきた神官たちが、この者たちである。
「獅子は王を守る―――と言ったな」
マーランド・ウルド王が神官の言葉を拾って言った。
彼にはとっては神が一柱でも二柱でもどうでもよかった。
ただここに神獣が現れたのは『王』である自分を守る為なのだと思ったのだ。
「では父上は獅子の神獣のことを知っておられたということだな。父上は『ウルド国の正しき王を守る』のだと、教えてくださったのだ。―――ウルド国の正統な王は朕だ。反逆者どもを蹴散らし、朕を助ける為に神獣は朕に力を貸してくれるのであろう」
そうウルド王が言った時、フッ、と神殿の空気が、変わった。
魔法で一定の温度を保っているはずの神殿内が、一瞬にして冷たくなった。
「――――――!!」
「なに……?」
びりびりと恐ろしさを感じるまでのそれは、目の前の黄金の神獣から発せられた気であり、王族たちは自分たちを睥睨する獅子から目が離せなくなっていた。
『―――我はセーリア神に属する者。王の守護者にして過ちを正す者』
強大な気を放つ神獣の荘厳な声に気圧され、息を呑んだ。
―――だが、『王の守護者』という言葉を聞いて、王族や重臣たちは『自分たちは助かる』と安堵した。
隠れ家も隠し通路もおさえられ、転移の間も封じられたのだ。
絶望かと思われたのが―――これ以上はない強大な存在が現れたのだ。
王を守護する神の使いならば、反乱軍は恐れるに足らず、と。
『―――王の名を示せ』
神殿内に響いた声に、意気揚々とウルド国王が言葉を発した。
「朕はウルド国王、マーランド・マルル・ウルドだ」
―――だが。獅子の神獣は。
『否。―――お前はウルド国王ではない』
その否定にマーランド・ウルド王が驚愕し、声を張り上げた。
「なにをっ!! 朕はウルドの王だぞ!!」
『否。お前はウルド国王ではない』
獅子の神獣はウルド王を睥睨したまま同じ言葉を繰り返す。
「へ、陛下。どういうことでしょうか」
王族と重臣たちがざわついている。
「何を言う!! 朕の父は、ラジエル・ウルド。母はサカリナ・マルル・ウルドだ!!」
すると、うろたえるマーランド・ウルド王の隣で王弟が意気揚々と声を上げた。
「では! 兄上ではなく、私が王ということだな。私はマルカーナ・マルル・ウルド王弟だ。いや、王と名乗った方がいいか」
「マルカーナ! 馬鹿をいうな! 朕が国王だぞ!!」
それに対しても、獅子の神獣は否定の言葉を発した。
『―――否。罪の証である双子よ。お前たちは、前国王ラジエル・ウルドの血を引く者ではない』
「「―――なんだと!!??」」
皆が驚愕の言葉を聞いた、次の瞬間。
突然、カステリア公爵が走り出し、剣を振るった。―――神獣を両断するように。
だが、言葉を発する獅子の神獣は、強大な神気を放ったまま、見事な黄金の毛の一本も散らされてはいない。
対して、カステリア公爵の剣はさらりと崩れて消え去っていった。
―――それに驚愕したカステリア公爵が息を呑む。
獅子の神獣は抑揚のない声で淡々と告げる。
『自ら、罪を明らかにするか―――双子の父よ』
「「な―――」」
その言葉に王と王弟が目を見開く。
『我は、セーリアの神に仕えし者にして、ウルド王を騙る者に裁きを下す者なり』
神獣の言葉が朗々と神殿内に響き渡る。
その声は立って聞いているのが難しい程力に溢れており、その一言で、そこにいる誰もが膝を折らずにいられなかった。
『ラジエル・ウルド前国王を手にかけし、大罪人。―――マルキス・カステリア』
獅子の強大な力が、カステリア公爵を空中に持ち上げ、磔た。
『王に非ずして、王を騙り、ウルドの民を虐げし罪人。―――マーランド・カステリア。ならびにマルカーナ・カステリア』
見えない何かによって王冠を奪われ、身体の自由を奪われたマーランド・マルル・ウルド王とマルカーナ王弟がマルキス・カステリア同様に空中で磔になったまま、驚愕に目を見開いている。
獅子の言霊で、王族名を奪われ、代わりに『カステリア』という名が刻まれたことが分かった二人が青褪めた。
獅子の瞳が金色の瞳をぎらつかせる。
誰もが、声を発せずにいた。
―――もう誰も何も言えなかった。神獣はとてつもない存在だ。
その気は震えがくるほど強烈であり、神獣が発したその言葉は真実であるのだと本能で分かる。
―――否定など出来ようもない。
今まで正当な血を引く国王だ、王弟だと思っていた者が、空中に磔になっている。
そして、事故死だと発表されたラジエル・ウルド前国王が、カステリア公爵の手によって暗殺されたという事実が神獣によって明らかにされた―――
そして、カステリア公爵が現王陛下と王弟殿下の父親だと、神獣は示したのだ。
「私の旦那様は、国王じゃなかったということなの!!??」
王妃と側妃がそれぞれの子を抱きしめて震えている。
「た、たしかに髪色は三人とも同じ……」
「ラジエル・ウルド陛下を殺したカステリア公爵の子……」
「反逆者の子……」
重臣たちが磔になっている王や王弟を見てぼそりと言う。
「いやああああ!!! お父様!! 私! 反逆者の子に嫁いでしまったの!?」
側妃が父親であるパルス大臣にしがみついて、半狂乱になって叫んだ。
その場の者たちが混乱する中―――神獣が言葉を発した。
『我は王家に仇なす者を裁く。―――そして、この大陸の女神の裁きを受けるものが―――ひとり』
その言葉の後を継ぐように。
―――次の瞬間、目が開けられない程の爆発的な光が辺りを覆った。
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