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131 魔術師の少年

ローディン視点です。



「ランバース卿! 勝手に持ち場を離れるな!!」

「うるせえ! 俺のやり方に文句つけるな!!」

 第3部隊のランバース卿が剣に魔法を乗せて敵を一気に薙ぎ払う。

 王城から一斉に出てきた兵たちが、ランバース卿の魔法を乗せた剣術で何人か吹っ飛んで行く。


「ほら見ろ! 馬鹿な野郎どもが俺に敵うわけない!!」


 ランバース卿は魔法を剣の結晶石に込め、さらに威力をあげて敵に打ち込んで行った。

 こうなったら彼は止められない。

 敵を見ると倒すこと以外に周りが見えなくなる。

 普通の剣士の数倍の力があるが、能力を過信しすぎているきらいがある。



 ―――今日、ウルド王城を攻め落とす。


 すでに王都の主要部分は制圧済みだ。

 私たちアースクリス国軍は反乱連合軍と共に、王城の制圧の為に正面から攻め込む役目を負っている。

 アウルス子爵たちは王城の隠し通路からすでに王城深部に侵入しているはずだ。


 外側と内側から一気に叩き潰す。



 剣戟の音が響き渡り、魔術師たちも防御と攻撃を繰り返している。


 王城の幾重もの防御壁を突破し、残るは、王城を守る城壁のみだ。

 ここを崩せば、王城内に侵入できる。


 すでに王都と王城周囲は反乱連合軍、アースクリス国軍が制圧済み―――あとは王城を制圧し―――王を捕らえればいい。


『ローディン、王城の城壁を壊せ』

 クリスフィア公爵から結晶石を通じて指示が入った。


 私以外の魔術師たちも同様の指示を受け、同意の意志が結晶石から伝わってきた。


 すぐに近くの城壁に意識を集中する。


 城壁を破壊されないように、ウルド側の魔術師がにらみをきかせている。

 城壁には魔術師により攻撃を防ぐ魔法がかけられている。

 物理的に城壁を攻撃しても魔力の無駄遣いだ。

 それに魔力を使えば相手にこちらの魔術師の場所を教えるようなものだ。

 明らかな魔力の差があるならばそれでもいいが―――ここまで来て戦法を誤ってはならない。

 効率的に城壁を破る為には、まず『魔術師』を無力化してからだ。

 それを事前に提案した時は、『確かに効率はいいだろうが、それを誰もが簡単に出来ると思うなよ』と同僚の魔術師に苦笑された。

 だがここにいる魔術師は皆クリスフィア公爵の教え子だった、強い魔術師ばかりだ。

 精鋭部隊を組んで王城陥落に備えてきたのだ。誰も出来ないとは言わなかった。頼もしい限りだ。


 ―――城壁を守る魔術師の位置を魔力で探索する。

 一気に魔術師を攻撃し、無力化しなければ戦いが長期化する。

 ウルド国王城に勤めるだけの力を持つ魔術師は一騎当千の実力を持つ。決して侮ってはならないのだ。


 だからこそ、集中して魔力探知を行う。

 魔力探知を行うとその魔力を持った者の周りの景色が脳裏に浮かんでくる。


 右翼に、いち……に……左翼に、二人。


 魔術師の魔力は四人……



 いや、もう一人異常なまでの力の持ち主が、正面の城壁の中に―――いる。


 魔術師? いや、これは魔術師といえる範疇のものではない。どす黒く凝縮した―――


 ―――これは……!!


 その不穏な力を意識の端に捉えた瞬間、かつてその存在を教えてくれた祖父のことを思い出した。




『クリスフィア公爵。ひとり、異常なのがいます』

 魔力探知の結果を報告すると。


『―――ああ。厄介なのをウルド国は作りやがったな。アンベールに続いてウルドもか! そいつは俺が引き受ける。お前はそいつに関わるな―――大事な姪に会えなくなるぞ』

 クリスフィア公爵自らも探知したらしい。魔術師たち全員に一時退避指示が出された。


『了解しました』



 今のところ、戦況は明らかにこちらが優勢だ。


 王家のやり方に反旗を翻した多くの民の怒りが伝わるかのように、ウルド国軍を次々と打破して行っていた。


 だが、感知したものが予想通りなら、戦局は変わってくる。

 もしかしたら、ひっくり返される危険性もある。


 『アンベールに続いてウルドもか―――』

 クリスフィア公爵の言葉。

 アンベールに闇の魔術師がいたという情報は主だった者だけに伝えられた極秘情報だった。

 アンベール国側で戦死する者に不審な形跡があったこと。

 そして原因不明の後遺症を負った者がいたこと。

 それが闇の魔術師のせいであったことは、数年前、闇の魔術師自らが砦に暗殺者として現れたことで明らかになった。

 その際には、砦にいたクリステーア公爵が闇の魔術師に深手を負わせ、撃退した。

 その魔術師が数か月前に斃れたという情報を受けた時は魔術師皆で胸を撫でおろしたものだったが、まさかウルドにも居たとは。


『あいつに対抗できるのは、俺だけだ。俺が片付けるまで絶対に近づくな。即座にその命を狩られるぞ』

 魔術師に他の兵の避難を指示した。


 城壁にいるなら、出来るだけそこに兵を近づけてはいけない。


 こちらの魔術師たちがクリスフィア公爵から指示を受けて、城壁周辺から退避した。

 魔力持ちの方が『彼』の格好の標的になるからだ。


 もちろん、部隊長たちにも退避指示が出され、城壁付近から兵たちが離れていく。


 だというのに。

「ここもすぐに落ちそうじゃねえか。―――あっちに行くぞ!!」

 クリスフィア公爵の命令が耳に入っていなかったのか、戦闘に夢中で気付かなかったのか、ランバース卿が数人の部下を引き連れて城壁の方へと走り込んでいく。


 一気に城壁付近から自軍の人気が無くなったことに、自分が切り込みやすくなったと勘違いしたのだろう。

 ランバース卿が勝手にまた走り始め、退避中の私とすれ違った。

 彼の周りにいる彼の部下も一緒に城壁に方へと切り込んで行った。


「ランバース卿! そっちに行くな!!」


 彼が事前に決められた場所を次々と放棄して走り回るので、隊列の隙を突かれそうになっているのを別の隊や魔術師たちがフォローする為に振り回されていたのだ。

 私の制止も聞かず、ランバース卿は城壁近くの敵軍に切り込んで行った。

 腕は確かだろうが、今は戦争中なのだ。

 己の技量を過信して突っ込めば痛い目に遭うし、周りの者も巻き込まれる。

 それも、退避指示が出ているにも関わらず、城壁近くに切り込んで行くとは。

 今は退避命令が出ている。彼をフォローする別の隊も魔術師もいない状態なのだ。


 そんなランバース卿に、子ども特有の高い声が頭上から降ってきた。


「へえ~~。キミ、他の人とは違うねえ」


 その声にランバース卿が顔を上げると、黒い髪に灰色の瞳の少年が城壁の中腹の窓に腰をかけてランバース卿を見下ろしていた。


「……なんだ、このガキ」

 まだ齢は10歳程度。だがその瞳はそうとは思えぬほど昏く狂気を孕んでいる。


「さっきから、どんなのを獲物にしようかと思ってたんだけどさ~」


 少年がスタリ、と音を立ててランバース卿の前に立った。

 少年は軍服でも魔術師のローブでもない、見るからに貴族の子息といった感じの身なりだ。

 彼はランバース卿をじっくりと見ると、楽しそうに笑った。

「へえ。魔力持ちか~~。そういや金色の髪だもんね~。でもその分だときちんと魔力を使えなそうだよね~」

 この場にそぐわない間延びした声が、その少年の不気味さを増長する。

 

「うるせえ!! このガキ!! 」

 ランバース卿は子爵家に生まれ火の属性を持っている。

 けれど、生まれつきその力を扱う能力に欠けていたらしい。

 魔法学院で訓練をしたが思うように魔力を使うことが出来ず、相当な劣等感を抱いていた。

 素行が荒れ、問題を次々と起こす彼に、クリスフィア公爵が彼の火の魔力と相性のいい結晶石を組み込んだ剣を与えた。

 そのおかげで彼は剣に魔法を纏わせて扱うことが出来るようになった。

 継ぐ爵位の無い子爵家の三男坊だった彼は剣術を磨き、立身出世を願って軍属をした経緯がある。

 だからこそ、自分が魔力を扱えないという劣等感を刺激されるのが嫌いなのだ。


「それってさ~~。宝の持ち腐れだよね~~」

 くすくすくす。

 

「使えない魔力ならさ、―――僕にちょうだい? キミより上手く使ってあげるよ」


「ふざけんな。―――お前、ウルドの魔術師だな。ガキだろうと容赦しねえ!!」

 隙のない剣術で切り上げる。―――だが、相手は魔術師だ。魔力の強い者は剣術を容易に避ける。


「―――馬鹿だね」

 小さな少年がふわりとランバース卿の背後を取り―――空中でトン、とランバース卿の肩を指先で突いた。


 ―――それだけだったが。


「う……?」

 ランバース卿がどさり、とその場に仰向けに崩れ落ちた。


「副隊長!!」

 タイトさんが近寄ろうとするが、何かに阻まれて近づけないでいる。


「あれ~? キミも魔力持ちだね~。今日はご馳走がいっぱいだ。こいつを喰らったら、次はキミの番だよ?」

 昏い微笑み。


 ―――間違いない。このまだあどけなさが残る少年は、『闇の魔術師』だ。


「僕この力を手に入れたばっかりなんだ。だからすっごくお腹空いてるんだ~~。どうせ食べるんなら、魔力持ちの命の方がいい~~」


 闇の魔力に身を堕とした者は、物理的な食事を必要としなくなる。

 代わりに生き物の生きる力―――生命力を糧にするのだ。

 その命は闇の魔術師の糧であり魔力を強大にするものでもある


「う……お、まえ……」

 ランバース卿が仰向けになったまま、動けないでいる。


「父上がね~~。今日はアースクリスの人間だけにしろって言ったから、朝から何にも食べていないんだ~~」


 少年は少し離れた所から見ても整った顔立ちをしている。だからこそ余計にその言葉と表情に不気味さを感じた。


 ―――少年を闇の魔術師にするとは、なんて残酷なことを……。


 この少年を見ると、ウルド国の貴族、―――いや王族も絡んでいるのだろう。

 この戦いをウルド国の勝利とする為に―――禁忌を犯し、少年を人ならぬモノへと作り替えたのか―――


 ―――彼は、もう人間に戻ることはできない。


『ローディン、お前は奴に近づくな。闇の魔術師はより魂の格の高い者を敏感に感じ取って標的にする。―――もしもお前がやつと接触して、お前から『あの子』の存在が知られたら―――あの子の命が危険になる。―――私がやつの相手になるから、指示を出すまで動くな』


 クリスフィア公爵の思念が届く。


 『あの子』とは、私の可愛いアーシェラのことだと瞬時に理解した。


 そして、いくつか指示を受けた後、指定された位置まで後退した。



「あっれえ~~? 誰もキミを助けに来ないみたいだねえ。嫌われてるのかな~~?」

「う……な、んで……」

 ランバース卿は仰向けになったまま動けないでいる。

 そんなランバース卿を愉しそうに少年が覗き込んで嗤った。

「身体動かないでしょ~? キミの生命力は今僕に取り込まれてるからね~~。でも安心して? キミの命は僕が存分に有効活用してあげるよ。キミの魔力でアースクリスの兵たちを皆殺しにしてやるから」


「よかったねえ~。今までキミが思うように使えなかった魔力。僕が何百倍にもして使ってあげるよ。―――ふふ。嬉しいよね? キミは僕の糧になって僕の中で見ているといいよ。キミの火の魔力でキミの仲間が火だるまになるのをさ」


 ランバース卿が目を見開いた。


 自分の生命力が目の前の少年に吸い取られていくのが否応なしに感じられた。

 その黒髪の子供のまわりに、幾人もの―――気配を感じた。


 浮浪児のような子ども、老人、メイド姿の女性やドレスを着た女性に、軍人や貴族男性、魔術師のようにローブを着た者まで―――


「お、まえ……」

「あれ? 見えた? キミもすぐに彼らの仲間入りだよ。記念すべき十人目ってところだねえ」


 これまでに10歳そこそこのこの少年に、9人もの人間の命を吸わせていたということか。


「なるほどな―――そこまでウルド国の王家は腐っていたというわけか。―――マルル公爵家のザガリード」


 クリスフィア公爵が一人、闇の魔術師の少年の元へと歩いていくのが見えた。


「うっわあ! 絶対美味いのがきたあ!!」

 歓喜の声を上げる少年にはまだあどけなさが残っている。


 ―――その姿に違和感があった。


 闇の魔術師は『自ら』、闇に魔術師に身を堕とす。

 その代償の重さも何もかもすべて理解したうえで、選択するのだ。

 ―――その代償など、こんな少年では理解できないだろう。


 この少年は―――おそらく魔力の強さゆえに選ばれ、本当のことを知らされずに―――闇の魔術師にされたのだろう。

 マルル公爵家とは、ラジエル・ウルド前国王の正妃サカリナの生家だ。

 現在ではサカリナ王太后の弟がマルル公爵家の当主を務めている。

 主要な貴族の系譜は頭に入っている。ザガリードと言えばマルル公爵の愛妾の子だ。


「私はお前に食われるつもりはないし、―――そいつも返してもらう」

 クリスフィア公爵がスラリと剣を抜く。


「無理だよ? 今まで誰も僕にかなわなかったんだよ。この結界は剣も矢も魔法も通さないんだ。そこで見ててよ。この男が為す術もなく命を狩られるのをさ」


「確かにな。剣も矢も、四大魔法も闇の魔法にはかなわない。四大魔法は闇に吸収されてしまうからな」


「そうだよ。分かってんじゃん」

 くすくすと灰色の目を細め、愉快そうに口端を上げる。


「だから、闇を切り裂くのは―――これだろ?」


 クリスフィア公爵が剣を振りかぶって一閃した。



お読みいただきありがとうございます。

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