122 まじゅつしごろし
ローディン叔父様視点その2です。
「よくやった。あいつは別件で指名手配されていた厄介な魔術師だった。魔力の『核』を潰したからな。もう魔力は使えん」
バーティア前子爵である祖父は、自分が作った魔道具が使われたことを感知し、現場に駆け付けてきた。
そこで暗殺者の正体に気付き、同時にやつの魔術師としての力がなくなったのを確認し、満足げに頷いていた。
祖父が言ったとおり、魔術師は魔力を完全になくしていた。
私は魔術返しと共に、魔術師の魔力の核を破壊するモノを打ち込んでいたのだ。
魔術師殺しともいえる物騒な魔道具を先日祖父から渡されたが、実際のところ、最大出力で使うことになるとは思っていなかった。
魔法学院の教師を長年続け、魔法省からも一目も二目も置かれている祖父は、バーティアの秘された場所でしか採取できない結晶石を使ってとんでもないモノを作り上げた。
その結晶石はバーティアの血を受け継ぐ者しか『正しく』扱うことが出来ない。
ゆえに、祖父がその結晶石でつくった『魔術師殺し』は祖父と私にしか扱えないのだ。
ちなみに同じくバーティアの血を引く父は、結晶石自体に拒否されている。
―――バーティアの結晶石は扱う者を選び、その目的をも自ら選ぶのだ。
結晶石を使い、魔力を込めて魔道具とすることも、それを正しく使役することも、結晶石自体に認められた者にしか出来ない。
だからこそ、結晶石と扱う者の目的が一致すれば、想定以上の威力を発揮する。
―――血で受け継がれた魔力の根源を打ち消してしまうという、想像出来なかったことを成しえてしまったのだ。
アーシェや姉に対して執拗に繰り返される魔術による暗殺未遂。
『目』を見つけ、魔術を返すことでダメージを与えることができるが、障壁で防がれては意味がない。暗殺者が無傷であれば何度でも襲ってくるのは必定だ。
ならば、一時的にでも障壁を張る力を無くせないかと祖父は考えたらしい。
いわゆる魔力無効化だ。
無効化の魔法は、自らに飛んできた魔力を魔法陣で消し去る。
発動した魔力を消すのだ。
障壁という魔力を一時的に無効化するために結晶石で魔道具を作ったところ、最大の力を込めて放つと、『魔力の根源そのもの』を消し去るものが出来上がってしまった。
手掛けた祖父も驚愕したが、『結晶石自体が目的を選び取る』という性質からそれが必然で出来上がったものだと納得したという。
子爵邸に呼ばれ、出来上がった結晶石を祖父から受け取った瞬間、結晶石は私の魔力に同化して溶け込んでいった。
その力の扱い方も、同化と共に浸透していった。
それを受け取った時は、暗殺を実行しようとする魔術師の障壁を突破する程度に力を抑えようと思っていた。
それでも十分に魔術返しでダメージを与えられると思っていたからだ。
けれど、あの時―――魔術師が爆炎を上げる火の魔法陣を描いていた場所は―――アーシェのベビーベッドだった。
アーシェと、アーシェを寝かしつける姉を確実に殺害する為に、魔術師は火の魔術を仕込んでいたのだ。
―――あれを見た瞬間、自分の中で、なにかがぷつり、と切れた。
雇われの暗殺者―――金欲しさに、たった一人の私の姉と、かわいいアーシェを残酷に殺そうとしているのだ。
―――どうして、障壁を破るだけにしようと思っていたのか。
今回失敗したとしても、無事なら何度でも襲ってくる性根の腐ったやつらなのだ―――ならば。
『―――姉さんとアーシェを殺そうとする奴には、容赦はしない』
奴には手加減など不要だ。
『―――行け』
―――魔術師としての『死』を与えてやる。
魔術返しと同時に魔力の核を潰す魔道具の形を矢と成し―――最大限の魔力を込めて、思いっ切り打ち込んだ。
『―――っがああああッ!!』
断末魔のような悲鳴が届き、手応えを確信した。
―――罪悪感などかけらも感じることはなかった。
相手に苦痛を与えようとしていたのだから、自分がそうなったって文句はないはずだ。
どんな魔術を自分が相手に放ったか、その身で思い知ればいい。
―――目を感知し、核を潰すことが出来るのは、相手より強い魔力を持った者にしか出来ない。
弱い魔力では、強い者の魔力を『視る』ことは出来ないのだ。
この時は、魔力の強いバーティア家に生まれたことを感謝した。
そうでなければ、姉もかわいいアーシェも傷つけられ、とうに殺されていただろう。
その頃から、まだ歩けないアーシェを魔術師の攻撃から守る為に、商会の仕事部屋の片隅にキッズコーナーを作り、見守ることにした。
姉はバーティアの血筋ゆえに魔力を感知することができ、ある程度対処することも出来る。
だが、アーシェはまだ幼児。何も抵抗できないアーシェから狙われる。
商会の家の中で姉と二人きりで過ごしている時に、アーシェを狙い、敵が攻撃してくれば、アーシェを守ろうとする姉が危険にさらされる。
だからこそ、アーシェがもう少し大きくなるまでと、私やリンク、従業員に魔術師もいる商会の一角でアーシェを守ろうと思ったのだ。
たくさん見守る目がある方が安全だろうと。
キッズコーナーの中で、はいはいをするアーシェ。
アーシェは成長が遅いらしく1歳を過ぎたが、つかまり立ちや、はいはいは出来るけれど、まだ歩くことは出来ない。
商会の皆は信頼できる者たちばかりではあるけれど、アーシェは慣れるまでのしばらくの間、私とリンク以外の者に抱っこされることを不安がった。
仕事の為、同じ建物の中でもあるし少しの間だけだからと、魔術師でもある従業員に預けることもあったが、―――私達の姿が見えないことに、とても不安だったのだろう。
私やリンクを見つけた瞬間、あの大きな薄緑の瞳に涙をいっぱいためて両手を伸ばしてくるアーシェがとてつもなく愛おしかった。
やがて商会の仕事が軌道に乗り、忙しくなってきた頃、デイン伯爵の口利きでセルトを雇うことになった。
黒髪に青い瞳。
平民の色合いを持つセルトは、高位貴族の屋敷で何らかの罪を着せられ、放逐されたとのことだ。
平民を軽んじる貴族の屋敷ではよくあることで気持ちのいい話ではない。
伯父であるデイン伯爵の知り合いだというから、悪い人ではないし、仕事ぶりもすこぶるよかった。
落ち着いていて、洗練された物腰。
場の空気を読み、的確な対応ができる。
博識でもあり、仕事に対しても確かな目を持っていた。
しかも、武芸にも長けていて、驚いた。
セルトと初めて会った時に一番驚いたのは、商会の従業員にも人見知りするアーシェがセルトに手を伸ばしたことだ。
突然の『抱っこ』の要求にセルトはもちろん、私たちも驚いた。
セルトはアーシェを見て、戸惑ったものの、アーシェの要求通りに抱っこをした。
すると驚いたことに、アーシェはセルトに身を預けると、すぐにすやすやと眠ってしまったのだ。
アーシェは本当に心を許した人間の元でしか眠らない。
そして、外から人が出入りする商会のスペースにいる時には眠ろうとしない。
けれどアーシェはお昼寝が必要な幼児だ。
睡魔に逆らえず限界が来た時には、私やリンクの元によってきて、眠りに落ちる。
キッズコーナーにはアーシェのお昼寝用のベッドを用意してあったが、アーシェはひとりで眠りにつくのをとても怖がった。
―――たびたび訪れる命の危険は、こんなに小さいアーシェにも影響を与えていたのだと気づかされた。
突然寝落ちしたアーシェを抱えて慌てるセルトに、
『―――寝かせてやってくれ。こんなに小さくても自分が命を狙われているのが分かっているんだ』
とリンクが告げた。
―――その時の、切なそうなセルトの表情はいつまでも忘れることは出来ない。
バーティア商会に雇用される際に、もう一つの役目として、アーシェの護衛をデイン伯爵と祖父から託されていたセルト。
伯父も祖父も、アーシェが人見知りすることを知っていたはずだが、何故か顔合わせする前からセルトなら大丈夫だと太鼓判を押していた。
結果的に、その通りだったが。
セルトはあの日、アーシェを起こさないように抱きなおすと、私たちに向かってアーシェの盾となることを誓ってくれたのだった。
お読みいただきありがとうございます。




