111 りょうみんのこころづくし
更新が遅くなり申し訳ありません。
今年もよろしくお願いします。
「おじい様! お父様! ひどいです!! 僕たちだって、わらび食べたかったです〜!!」
クリスウィン公爵家は、アルとアレンの嘆きの声がこだましていた。
田んぼ予定地から戻ってきた玄関先に、別邸から領地の本邸に戻ってきていたアルとアレンが出迎えてくれた。
そして、実体で改めてご挨拶した。
アルとアレンは誘拐事件の後、軟禁されていたホテルに近い、王都の別邸にいて療養していた。
アルとアレンは数日休んで元気になったけど、入れ替わるようにお母様であるリュードベリー侯爵夫人と、おばあ様であるクリスウィン公爵夫人が誘拐事件の心労がたたってダウンしてしまったとのことだ。
今日のアルの誕生会は少しでも出たいとのことだったけど、無理はしないで欲しいな。
「す、すまない。集まった民たちに披露したらすべて無くなってしまったのだ」
「そうなのだ。みんな毒が無くなったのを喜んで食べていたのだ。そうしたらいつの間にか全部無くなっていたのだよ」
リュードベリー侯爵とクリスウィン公爵がタジタジと言い訳をする。
「そんな〜!」
アルとアレンが悲痛な声を上げた。
先程、アルとアレンに会うなり、クリスウィン公爵とリュードベリー侯爵が意気揚々とわらびの話をしたので、アルとアレンは期待マックスになったのだけど、実は大鍋いっぱいあったはずのわらびは、集まっていた住民たちに説明をして試食させていたら、すべてみんなのお腹におさまってしまったのだ。
しかも、今は時期外れ。生えていたわらびはほとんど取り尽くした。
さっきと同じ場所からは、もう少し暖かくなってからでなくては、次はとれないだろう。
「他に生えているところを探すから機嫌を直してくれ」
「そうそう。国中に通知するのにわらびが必要だからね」
わらびの群生地は他にもあるので、クリスウィン公爵は、すぐに生えているものの採集を命じていた。
たぶん先日の暖かさで同じくわらびが生えているだろうと。
そこで採集したわらびを王宮に持ち込んで、灰や重曹で毒が抜けて食用になるということを検証して行くのだそうだ。
「「約束ですよ!!」」
―――そんな会話がされているのは、実は公爵家の従業員用の食堂だった。
アルの誕生日だということで、近くの領民からプレゼントが届いていたのだ。
なぜ食堂かというと、貴族からのプレゼントとは違い、領民からのプレゼントはもっぱら食材だからだ。
食材は公爵家にたくさんあるけれど、昔から領主家族の誕生日にはこうして贈り物が届くのだそうだ。
クリスウィン公爵家の皆さんが領民に慕われているのがよく分かる。
とは言っても、今は冬。
保存のきく根菜類や、卵、捌いた肉が多いようだ。
鑑定済みの食材がテーブルに山と積まれていた。
「さあ。たくさんもらった食材でいろいろお作りしますね」
そう言うのは、クリスウィン公爵家の料理長ストーンズさんだ。
どうやら、領民の皆さんから贈られた食材を使って何品か作るみたいだ。
「いつもの料理もご用意しておりますが、領民の皆さんからの心づくしですので、こちらの食材で何品かお作りしますよ」
「じゃあ! このじゃがいもで、フライドポテト作って! あれすごく美味しかった!!」
「いっぱい食べたい!! それと、アメリカンドッグもね!!」
アルとアレンはフライドポテトがお気に入りだ。
私たちが出かけてすぐに、アルとアレン、リュードベリー侯爵夫人とクリスウィン公爵夫人が戻ってきたそうで、ご婦人方はすぐに部屋で休養し、アルとアレンは元気いっぱいにお土産のフライドポテトやアメリカンドッグ、ドーナツをほおばっていたそうだ。
「はい。美味しいですよね。たくさんお作りします」
茶髪と茶色の瞳のストーンズ料理長が言うと、他の料理人たちが準備をはじめた。
「卵や鶏肉がたくさんあります。デザートに卵を使ったプリンをお作りしますね」
黒髪灰色の目のブロン副料理長が、アルとアレンの好物であるプリンを作ることを提案すると、二人は満面の笑顔で頷いた。
「あとすぐに作れるのはオムレツくらいですが」
ストーンズ料理長が言う。パーティーの時間までに即席で作れる品数は多くない。
でも、それって、いつもの朝食みたいだよね。
今日はアルの誕生日なんだから、普通のオムレツはどうかと思うよ? 料理長。
変わり種を用意した方がいいと思うけど。
「―――それなら、オムライスにするのはどうかしら?」
そう思っていたら、ローズ母様が口をはさんだ。
「オムライス? ローズ、それはなあに?」
王妃様が興味津々でローズ母様に問いかけた。
「アーシェがアメリカンドッグやフライドポテトを作った時に、トマトケチャップを使って作ったお米の料理なの。トマト色のライスの上にとろとろのオムレツを乗せて。それがとっても美味しかったのよ」
「まあ! それはいいわね!」
「トマトケチャップはたくさん作っておきましたので、レシピを教えていただければと存じます」
「もちろんよ。ところで、白いご飯はあるのかしら?」
ストーンズ料理長に、ローズ母様が用意してきたエプロンを身に着けながら答えた。
他の家で料理をするのが定番になってきているので、準備をしてきたようだ。
あれ? ここではお客様で、料理はしないはずだったんだけどな。
「はい。炊き込みご飯はもちろん、白いご飯もたくさんご用意しております」
ローズ母様が厨房に行った後、視線をテーブルに戻すと。
従業員用の大きいテーブルいっぱいに、卵が大量に置かれていた。
『しばらくは卵を購入しなくていいかも知れない』とストーンズ料理長が言っていた。
それなら、卵料理づくしにしようかな。簡単に出来るし。
「たまご、ちゅかっていいでしゅか?」
「もちろんよ。たくさん使ってちょうだい」
王妃様の許可が出たので。浄化魔法をかけてきれいにされた卵を目一杯使わせてもらおう。
こちらの世界では、固ゆで卵や、しっかり焼いたオムレツ。そして目玉焼きが主流だ。
基本的に全部に火を通すので、パサパサ感が否めない。
タルタルソースやプリンに使われるけど、滑らかさはそこで打ち止めだ。
まずは簡単に半熟卵を作ろう。
お湯を沸騰させて、卵のお尻(丸い方)をテーブルにコンコンと叩いて、軽くひびを入れておく。
「え? そんなことしたら中身が出ちゃいます―――あれ? 出ませんね」
プリンの仕込みを終えたブロン副料理長が驚いている。
ゆでた卵は殻を剥くのが結構面倒なのだ。
前世で卵のお尻に針で穴をあけると殻がむけやすいというのを聞いて実践していたけど、お尻の部分にひびを入れるともっともっと剥けやすいということを知ってからはずっとこの方法だ。
「ここ(卵の丸い方)にからと、たまごのまくのあいだにすきまがありゅから、だいじょぶ。ここにちょっとひびいれりゅと、からがむけやしゅい」
「そうだな」
商会の家で一緒に調理したことのあるリンクさんが一緒にやりながら言う。
「だれか時間計ってくれ。卵入れたら6分でお湯から出すから」
「は、はい」
「6分に意味があるのですか?」
「後のお楽しみだ」
リンクさんがニヤリと笑う。
ゆで時間6分は私とリンクさんの好きな半熟具合だ。中がトロリ、黄身の色が鮮やかで、黄身の濃厚な旨味を感じられるのだ。
6分後、ゆであがった卵を冷たい水で冷やし、殻をむく。
「ほんとだ。からがすごく剥けやすい」
「丸い方にくぼみがあって、たしかに膜がありますね。この膜のおかげで中身が出なかったんですね」
「それに真ん中がやわらかく感じますね」
手の空いている料理人さんたちに殻むきをしてもらう。
たくさん卵があったから、たくさん仕込むつもりだ。
「ひびからみじゅがはいって、からがむけやしゅくなって、らく」
「「「そうですね」」」
「さっきちゅくった、だしのはいったつゆをかけてちゅけておく」
即席でめんつゆを作っていたので、適度に薄めて半熟卵を漬けていく。
このまま時間を置けば、簡単で美味しい味付け卵が完成する。
「仕込みはこれでおわりだ。一晩置けばしっかり味が馴染むが、一時間くらいでも美味いぞ」
「わかりました」
「パーティーは3時間後ですが」
「いい頃合いだろうな。余ったら翌日にも食べてみるといい。味が染みてさらに美味いぞ」
リンクさんが配膳の際の食器の指示をした。
夕食時には美味しい半熟卵が堪能できそうだ。
「ちゅぎ、これ」
卵を大量に持ってきてもらう際に、テーブルの端に置かれていたものを持ってきてもらっていた。
長くて細い芋。
長芋のように太くはないので、山芋なのだろう。
こっちの世界で初めて見たので、さっき見た時に驚いた。
こっちにもあったんだ!!
それなら、絶対に食べたい料理がある!!
お読みいただきありがとうございます。




