103 たましいのいろ
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いつも楽しく読ませていただいております。
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これからもよろしくお願いします。
それはそうと、菊の花が咲いている教会の時の話だよね。
「あい。すいしょう、きらきらちてた」
その時何色だった? と聞かれたので素直に。
「んーと。あお、あか、みどり、きいろ、しろ、むらしゃき……」
あの時のことを思い出しながら指折り数えながら次々と言っていくと、ディークひいおじい様やリンクさん、ローズ母様が段々目を見開いていったので言葉が尻すぼみになってしまった。
え? なんかおかしいの?
オレンジ色とかピンク色もあったけど。ディークひいおじい様たちが驚いてるからこれ以上言うのはやめよう。
でも、クリスウィン公爵やリュードベリー侯爵が『やっぱり』と納得していた。王妃様も頷いている。
「その他に金色やプラチナが入っているのだよね?」
クリスウィン公爵に確信して問われたので、素直に首肯した。その通りだ。
あの時女神様の水晶はさっき言ったようなたくさんの色が、まるでひとつのオパールのように美しい光を放っていた。
―――あれが、私の魂の色だったのか。
「やはり、アーシェラちゃんはフィーネと同じですね。魂の色は魂の年齢によるのだそうです。私たちも色んな色が魂を彩っているのだそうですが、ベースは白でそこに色々な差し色が入っているのだそうですよ。―――女神様の愛し子の魂の特徴は、たくさんの鮮やかな色を持つ。そして、一番の特徴は女神様の金色の光とプラチナの光が入っているのですよ」
クリスウィン公爵が私を見てやさしく微笑んだ。
「そして。フィーネが女神様の加護を持っていると教えられた時に、レント前神官長より告げられたのです。輪廻転生によりまっさらとなるはずの過去生の記憶の一部が『知識の引き出し』として女神様により与えられているだろうと。―――それはもうひとつの女神様の愛し子の特徴なのです」
「女神様の愛し子は、その記憶によって、大きくまわりを動かすのだ、と」
「―――なるほど、そのようなものがあるのだな」
「アーシェが色んなことを知っているのは、それなのか」
「ではお料理が上手なのもそうなのね」
ディークひいおじい様やリンクさん、ローズ母様は私のこれまでのことを思い出して納得している。
すべての生命は輪廻転生を繰り返している。
ローズ母様も、リンクさんも。ディークひいおじい様やローディン叔父様も。
みんなみんな大きな流れの中で、さまざまな生を繰り返している。
けれど、新しい生を受けて、生まれてくるときには、魂の記憶はまっさらに戻される。
―――それは、輪廻転生の理なのだ。
でも、私はおそらくたくさんある今までの生の中の、一つの人生の記憶をしっかりと持っている。
―――私の前世は、農家の娘に生まれて、普通の一般企業に就職した、本当にどこにでもいる一般人だった。
いつどうやって前世で死んだのかは覚えていないし、死ぬ瞬間のことは覚えていない方が精神衛生上、私の為だと思う。
私は、生まれた時から前世の記憶を持っていた。
どこかの貴族の家に生まれたけど、捨てられ、ローズ母様とローディン叔父様に拾われた。
うん。今生はなかなかにハードな人生のスタートだ。
でも、ローズ母様やローディン叔父様、リンクさんからも、愛情をいっぱいに注いでもらって育ててもらった。
なぜ女神様は私に記憶を残してくれたのか本当の理由は分からないけれど、女神様は私に大事な家族をくれた。それだけでいい。
前世の農家の記憶でみんなが食べられるようになるなら、前世の記憶があってよかったと思う。
それに。いい理由をもらった。
これからは『記憶の引き出し』を言い訳に活用させてもらおう。その通りなのだし。
私がそう考えてひとり納得していると、リュードベリー侯爵が話を続けた。
「妹のフィーネは幼子の頃から魔法の知識に関して、ものすごく博識でした。魔法教育を受ける前なのに、なぜこんなことを知っているのか、と驚いたことが何度もありました」
リュードベリー侯爵が昔を思い出して話すと、王妃様が大きく頷いた。
公的には伏せられてはいるが、王妃様は、魔力の強さと知識は国の中でも上位クラスなのだそうだ。
王妃様の知識の引き出しは、『魔法』なのか。
「ええ。私も幼心になぜこんなことを知っているのか、と不思議に思ったこともあったわ。でも自然と浮かんでくるのだからどうしようもないの。他人から奇妙な目で見られることもあって、傷ついたこともあったわ」
鑑定を受ける前の、何も知らない幼少期。
当たり前のように魔法を使って遊んでいたところ、同じ年頃の子供に気味が悪いと言われ、幼心に傷ついたのだそうだ。
「でも5歳になって鑑定をしてもらった時、それまでの悩みに答えを見つけたの」
「おや。フィーネはいつも、のほほんとしているようだったのに。悩んでいたのか」
「酷いですわ。お兄様~~!!」
リュードベリー侯爵はおとなになった今でも、妹である王妃様が可愛くてしょうがないらしい。
王妃様の金色の頭をなでなでしている。
王妃様も甘んじて受けているので、とっても兄妹仲がいいのが分かる。
「小さなころから魔力に関していろいろ不思議なことがあったのだけど。記憶の引き出しが大きく開いたと感じたのは、―――5年前の開戦した時よ」
ふと王妃様が真剣な瞳になって、硬い口調で話すと、その後を引き取るかのようにクリスウィン公爵がつないだ。
「―――5年前の開戦時。女神様の御業とも言えることが起きたことは知っているでしょう」
その言葉にディークひいおじい様が頷いた。
「うむ。三国が一斉に叩き潰された、あれか」
巨大な竜巻が起き、国境の川が津波のように荒れ狂い、敵の侵入を阻んだことがあった。
当初は魔術師たちが魔力を結集して行使した結果かと思われたが、戦地に赴いていた魔術師たちは否定した。
魔力でおこすには規模が巨大すぎる。
それに、『魔法』を感知できなかったのだ。
ただの自然現象か? ―――だが、竜巻は、雷は、水は、確実に敵陣のみを破壊しつくした。
ウルド国で竜巻が。
アンベール国で雷が。
ジェンド国では水害が。
それが、三国で同時に発生した。
―――あの現象は、自然災害としても説明がつかず―――後に、女神様の御業だと囁かれた。
「―――あれは、私がやったのよ」
王妃様がきっぱりと言った。
「「「―――!!」」」
ディークひいおじい様やリンクさん、ローズ母様が驚いて王妃様を見た。
驚きすぎて三人とも目を見開いたままだ。
王妃様は苦笑すると、静かに目を閉じて手を胸にあてて、ゆっくりと話し出した。
「どうやら私の過去生には、『異界の魔法使い』だったことがあるみたいなの。―――まるで息をするように強大な魔法が私の中から出ていったわ」
開戦直後、アースクリス国を襲ったアンベール国、ウルド国、ジェンド国の三国による一斉攻撃に、王妃様は産後間もない身で、自ら戦に参戦した。
敵国三国による三方向からの攻撃。
対してこちらは一国の戦力を三分割して迎え撃たなくてはならない。
夫である国王も、父や兄もそれぞれ戦地に旅立った。
数か月前に王子様を出産した王妃様は、王宮で留守を預かっていたが。
心配で心配で、居ても立っても居られなくて、こっそりと戦地へ意識を飛ばしたのだそうだ。
そして、攻め来る敵将は意気揚々と、国王である夫と、生まれたばかりの息子の首を取ると叫んでいたのだ。
―――そんなことを許せるわけがない。
王妃様の感情が高ぶった瞬間、敵軍のはるか上空に魔法陣が展開された。
その魔法陣は―――この国の、いやこの世界のものではなかった。
幼いころから受けていた魔法教育で培ったものではなく、全く別の系統のモノだった。
―――しかし、それを使役する方法は魂に刻み込まれており、息をするように行使できた。
―――そして。
―――その魔法陣から放たれる力はすさまじかった。
―――一瞬にしてジェンド国との国境の川が荒れ狂い、一隻も残らず船が沈没した。
―――ウルド国との国境付近では巨大な竜巻が現れ、敵軍を壊滅させた。
―――アンベール国で雷が轟き、数ある砦をことごとく破壊した。
王妃様が魂に刻まれていた『異界の魔法』で、アースクリス国への三国の侵入を阻んだのだ。
そして、行使されたものが『異界の魔法』であり、系統が全く違う故に、アースクリス国の魔術師たちをはじめとする各国の魔術師たちは、三国の軍を叩き潰した強大な力の原因を突き止めることが出来なかったのだ。
故に、女神様の御業。
アースクリス国に戦をしかけたことへの女神様の怒り、と後に三国のあちこちから囁かれることとなったのだ。
「あの魔法を行使した時、本当の意味で確信しました。―――女神様は『すべて』をご存じであられた。故に私をクリスウィン公爵家に生を受けさせ、王妃としてアースクリス国を『守る』立場においたのだと」
ディークひいおじい様が、静かにゆっくりと頷いた。リンクさんとローズ母様も。
「―――フィーネが私の娘として生まれたのは、女神様のお導きだったのでしょう」
クリスウィン公爵も深く頷いていた。
「あの異界の魔法―――自分でも驚いたわ。あまりに強大すぎて―――自分でも恐ろしくなったわ」
戦地には、意識を飛ばして行ったと教えてもらった。
―――だから。王妃様が異界の魔法を使ったことは、本来なら、国王陛下と四公爵家の者しか知らない事実だ。
それをあえて王妃様がこの場で話すのは―――王妃様と同じく女神様の加護を持った私の為なのだろう。
先日、私が『女神様の導き』で意識を飛ばし、その後魔力切れで倒れてしまったことを、ディークひいおじい様、デイン伯爵、リンクさん、そしてローズ母様は、王妃様やクリステーア公爵のアーネストおじい様から直々に説明を受けた。
その際、『女神様の加護を持つ者』の他に、クリスウィン公爵をはじめとする四公爵家と王族が意識を飛ばすことが出来るということが告げられた。
それは国家機密でもあったため、伏せることも出来ただろうけれど、今後私が同様のことに陥った時のために秘密を共有した方が良いとの、アースクリス国の国王陛下の判断だったそうだ。
絶対に秘するべき国家機密であること。
―――そして、私の身の安全の為にも秘匿することを、ディークひいおじい様たちは了承し、誓約をしていたのだった。
お読みいただきありがとうございます。




