1 異世界転生しましたが・・・幼女これから頑張ります!
はじめまして。初投稿です。
よろしくお願いします。(≧▽≦)/
―――私は公爵家の長女として生まれた。
ぼんやりと覚えているのはそのくらい。
何故って?
だって、物心がつくと言われる年齢の時には公爵家ではなくて、街で平民として暮らしていたから。
でも私には生まれた時から転生前の記憶があった。
社会人としての人生を送ってきた前世のせいか、赤子であったにもかかわらず、自分が公爵家から攫われた時のことを、しっかりと記憶しているのだから。
初雪が降った日に生まれた私は、翌年の初夏の頃の夜にメイドの腕に抱かれて公爵家を出た。
茶色の髪に茶色の瞳の、10代の年若いメイドだった。
彼女がなぜそんなことをしたのかは分からないが、馬車を夜通し走らせ、メイドはお腹が空いて泣き叫ぶ私を森の中に放置した。
まだハイハイもできず、ただ泣くしかなかった私は、ただただ力の続く限り泣いた。
前世の記憶があったって、今は歩くこともしゃべることも出来ないただの赤子。
このままでは死んでしまう。
こんな形で、死んでしまうなんて、いやだ。
まだ、産みの母にだって会ってないのに。
父親にだってまだ会ってないのに。
泣き続けていたら、誰かが私を抱き上げた。
「こんなところに赤ちゃんが……」
私を抱き上げてくれたのは、今私を育ててくれている母。
まだ少女とも言える若い女性は、まっすぐで綺麗な銀色の髪に神秘的な紫の瞳をした、とてもとても綺麗な人だった。
前世でよく読んだ物語に出てくるお姫様そのものだった。
そんな彼女が。
「よしよし。お腹が空いているのね」
と言って、すぐに自分のお乳をくれた。
「ちょっ……姉さん!」
と止めたのは、母の弟。
弟の制止を気に留めず、近くの岩に腰を掛けて私に乳を含ませてくれた。
「……よかった。ちゃんとお乳は出ているわ」
母は、嫁ぎ先で死産し、もう子供を望めぬ体になったということで、婚家から追い出されて実家に戻る途中だったのだ。
「ああ……かわいい……なんてかわいいの……」
「金の髪に淡い緑の瞳……旦那様と同じ色……」
赤子である私を抱きしめて、母はぽろぽろと涙を流しながら紫の美しい瞳をうっとりと綻ばせた。
それが、はじまり。
―――その日、私たちは家族になった。
◇◇◇
―――5年の月日が過ぎて。
私は5歳になっていた。あと数か月で6歳になる。
「アーシェラ、そろそろお昼ごはんにしよう」
と言って、私アーシェラの頭を優しく撫でてくれるのは、あの日母と一緒にいたローディン叔父様だ。
叔父様といっても、まだ21歳。
銀色の髪と紫色の瞳。色合いは母様と同じで、そしてとっても優しい。
ここは王都から2日ほど離れた街だ。
この国は先月まで7年に渡り、諸国と戦争をしていた。
何でも、穀倉地帯であるこの国を手に入れようと、いろいろな言いがかりをつけて周辺の国々が入れ替わり立ち代わり小競り合いを仕掛けて来ていたのだ。
それを憂い、そして、周辺国のあまりの傍若無人さに堪忍袋の緒が切れてしまう事態が立て続けに起き、ついに挙兵し、7年という長期間をかけて周辺国をこの国の属国にしたという。
今は戦後ということもあり、兵役から帰還した人たちが街にごった返している。
「かあさま、おひるごはんなあに?」
叔父が経営する商会でお手伝いをするのが日課となった私は、上の階の住居部分に駆け上がり、優しい母に抱き着いた。
あの日私を抱き上げてくれた、ローズ母様。
私を拾ったとき18歳だったという母様は23歳となり、とっても綺麗で素敵な大人の女性になっていた。
優しい香りのする母様は、私をしっかりと抱きしめると、優しい瞳でやわらかく笑った。
「アーシェラの好きなお米のおにぎりよ」
「わあっ! だいすき!!」
お皿の上には小さめのおにぎりが2つ。大き目のものが5つのっていた。
小さいおにぎりは私用。大きめのは叔父様と、叔父様と一緒に商会を運営しているリンクさん用にと、ひとり2個ずつ。あとひとつは母様用だ。
シンプルに塩にぎりだけど、とっても美味しい。
母様が野菜スープをよそってくれたのも、とっても美味しい。
母様は料理がとても上手で、少ない食材でも美味しく調理して食べさせてくれる。
血の繋がりがなくても、とっても大事にしてくれる、大好きで大事な母様。
ずっとずーっと一緒にいたい。
血の繋がりがないから、余計にそう思う。
公爵家に生まれてから連れ出されるまで、冬に生まれ初夏に連れ出されるまでの、およそ7・8か月の間は世話をしてくれるメイドと乳母以外に会ったことがないのだ。
生まれた時は医師と思われる人や他にもいたようだけれど、その日以降見たこともないし、メイドと乳母以外には話しかけてくれる人もいなくて、とってもさみしかったのだ。
―――だからこそ。この微笑みを、優しい手を、抱き締めてくれる温かな腕を二度と放したくないと、そう切に願うのだ。
そんな気持ちを心に押し込めて、つやつやのおにぎりをほおばる。
噛みしめると、お米の旨味が口いっぱいにひろがって美味しさに頬がゆるむ。
この国は穀倉地帯、ということは周知のことであるけれど。
実は周辺国とは違い、天災に見舞われることが少ない。
天候が操れるわけではないが、周辺国が干ばつや洪水にあっても、この国はほとんど影響を受けないのだ。
天災がもともと少ない上に、技術者が冷害や干ばつに強い品種を開発したり、水をいきわたらせたりと国の政策が功を奏しているからだ。
そして、ここが不思議だったのだが、戦争となると兵糧が大量に必要であったのだが、きっちりと兵糧分豊作になったのはそれこそ「神の采配」でもあったのではないか、とさえ思われるほどだ。
「戦争が終わって、徴兵された民間人も帰って来て大分農作業も楽になるって皆喜んでるよ」
と叔父様が窓から通りを眺めながら言うと、
「そうだな。俺達ももう戦争に行かなくていいんだな。よかった、よかった」
と、相槌をうつのは叔父様と一緒に商会を運営しているリンクさん。
そう。この長期に渡る戦争は、貴族であれ平民であれ等しく半年ほど従軍が義務付けられていた。
リンクさんも叔父様も昨年時期をずらして、それぞれ従軍していたのだ。
なぜずらしたかというと、母様と私を守るためだ。
叔父様はこの国の建国時から続くバーティア子爵様だ。
けれど、曾祖父の代で人に騙され、困窮するようになって久しい。
叔父様が商会を興し、商才を発揮するようになり、やっと領地経営も軌道にのってきていた。
商会を興したのは、私を保護して子爵家に戻れなかったから。
というより、出戻りの娘を子爵家に入れたくなかった父親のせいだ。
自分は由緒正しき子爵様だ。働くのは平民のすることだ。と現実を見ずに、屋敷の調度品を売って遊び呆ける始末。
その父親も従軍し、足に矢を受け傷を負って戻ってきた。
傷の後遺症のせいで(というより元々怠けていたが)子爵としての役目を果たせないと、借金共々赤字の領地経営ごと、子爵位を叔父様に放ったのだ。
叔父様は子爵位を得たものの、屋敷には老害がいるため、子爵家本邸と商会兼別邸を行き来して仕事をこなしている。
リンクさんはローズ母様とローディン叔父様の従兄弟で、デイン伯爵家の次男坊。
銀髪碧眼で一言でいえば、シュッとしているイケメン。
普段はのんびりとしているが、その実、身体能力が高い。商会に怒鳴りこんで来た十数人もの破落戸を一瞬で、それもお一人で沈めてしまったのを机の下に隠れてしっかり見た時は、その流れるような武技に見惚れてしまったほどだ。
緩く結んだ銀髪がひらりと舞う姿はとても綺麗だった。
「そういえば。戦後処理が終わったら、戦勝会というか、夜会を開くらしいぜ」
「夜会? ……その前に寡婦や戦災孤児を含めた難民支援やってくれよ……」
はああ〜……と溜め息をついてしまうのは、街に戦災孤児や夫を亡くした寡婦がいるからだ。
子爵領の者ならば、把握して適切に援助をしてやれるのだが、他領では大黒柱を失い途方に暮れている家族を援助もせず、あまつさえ放り出しているらしく、ボロボロになりながら子爵領にたどり着き、援助を乞うことが頻繁に起きている。
また、難民らが生きるためにひったくりや盗みをはたらいたりしていて、結果的に治安が悪くなって皆が脅えながら暮らしている。
叔父様は救済策を講じてはいるが、さほど裕福ではないこの領地では限界があり、どうすればよいか頭を悩ませているのだ。
「うちの領地に逃げて来ている難民って、今どの位だ?」
こめかみを押しつつ叔父様が問うと
「まあ、母子で今4・50人くらいだな」
前世の日本とは違い、こちらの世界の人口密度は低い。たぶん日本の3分の1くらいだろうと思う。
さらに子爵領はさほど大きくはないため、すでに受け入れている人数はかなりのものだ。
小さい教会数ヶ所で寝泊まりは許可しているが、無償での援助はこちらでも限界がある。
商業が発達しているわけでも、特産があるわけでもない、農業に特化している……つまり、未だ貧乏領なわけで、いい対策が思いつかないのだ。
「米で儲けた分は、借金返済に消えたしな〜。今じゃ他の領地も米作ってるから、もうボロ儲けできないしな〜」
―――私は前世農家の娘だった。
前子爵様が数年前に外国で食べた米の味が忘れられないと、領地で栽培をしはじめたのだが、栽培方法をきちんと教えてもらわずに種を購入して、麦と同じ様に育てていた為育たなかったのだ。
当時片言しか喋れなかった私は、説明などできるはずもなく、遊びと見せかけて、倉庫の中に放置されていた小さな樽を何個ももらって、畑で育った苗を少しもらい、ひとつずつ樽に植え替え、水をはり、雑草を抜き、虫をとり、日当たりを考え、と、うろ覚えだけど、とにかく出来ることをいろいろとやった。
一粒から芽が出て、分けつしてくきが増えて、青々と伸び、やがて出穂し、実を結び稲穂となっていった。
その結果、一粒万倍となった稲穂を見た母様や叔父様やリンクさんの呆けた顔が忘れられない。
翌年、子爵領をあげて米を作っていた畑を田んぼに作り変えて稲作を行ったら、見事な金色の稲穂の原をみることができた。
領民たちはさすが農業のプロ。
すぐに育て方をマスターして3年目となる今年も豊作となりそうだ。
「アーシェラのおかげでこの国で珍しかった米がすっごく高値で売れて、子爵家の借金がなくなったんだよな〜」
「だが兵糧にする為に国から他領へ育て方を伝授するように、と言われて、うちだけの特産じゃなくなってしまったのは痛かったな……」
そろそろ収穫時期なので、その間難民たちは貴重な労働力にはなるのだが、冬になると農業に関する仕事はほとんどない。
元々の住人だけなら、各家庭での蓄えでやって行けるであろうが、家も職もない人達には厳しい。
「まあ、戦争が終わった事だし、国境近くから来た避難者は少しずつ元の領地に帰るらしいからいいが」
「来年になったら、教会預かりの難民の多くは稲作の技術者として他領へ移すことも考えてる」
「ああ、それはいいな。付加価値があれば他んとこも文句は言うまいよ。小さい子ども達には薬草摘みや山野草の処理方法も教えておいた。何とかなるだろう」
だよな? とリンクさんは私の金色の頭をぽんぽんと撫でて、碧色の瞳をやわらかく細めた。
―――そう。私アーシェラは、5歳にして領地改革に携わっているのだった。
お読みいただきありがとうございます。