オネショターミナルんほぉぉぉぉ!!!!
ここは、言わずもがなヤバめの国、アヘール王国。
今日は隣国より可愛らしい来賓がいらっしゃる。
「ショター様のお迎え役だが」
頭を抱えたハゲ男が、小さな部屋で今にもストレス死しそうな顔をしていた。一方、対面する女騎士は今すぐにでも帰りたい顔をしている。
「適任はいるか?」
聞かれた女騎士は一度天を仰ぎ、そして答えた。
「シャブルナが良いかと」
ハゲ男は相手の目を見た。その顔には面倒事の気配がした。
「シャブレー、私は君に行って欲しいと思っている」
「え、やだ面倒」
交渉は決裂した。
女騎士はすぐさま辞去したのちに、食堂でアホ面をしたぽっちゃり系女騎士の肩をたたいた。
「てな訳で、後はよろすこ」
「──!?」
友人のすすめで買った、炙りトロサーモンカルパッチョを食べていた女騎士は、その投げやりな一言に酷く戸惑いの表情を見せた。そして真顔で「これシャケやん」と味の感想を述べた。
「先輩、まずは何の話ですか?」
話次第では引き受ける。そんな顔だ。
シャブレーはうどんを一つ注文すると隣に座り、静かに「ショター様の送迎&護衛&その他トラブル諸々」と発した。
ぽっちゃりな顔には、取引なら応じない事もない。そんな含み笑いが浮かび、シャブレーは意に介することなく続けた。
「可愛い後輩の食事が減ることは、私としても気の毒でな」
それは脅迫とも取れた。女騎士の顔からたちまち笑みが消えてゆく。
「部下が今月の食堂班でな。来月は友人が食堂班だ」
「お任せ下さいませ」
女騎士の言下にシャブレーは満面の笑みを浮かべた。
「そうか、私は優秀な後輩を持って幸せだ」
涼しげな顔でうどんを食べ終えたシャブレーは、「じゃ、お先」と席を立った。残された女騎士の箸は止まったまま、しばしやりきれない思いがぐるぐると脳に渦巻いた。
「第七部隊所属オシャブラン・シャブ・シャブチ! 貴殿にショター外交官の護衛及び補佐を命ずる!!」
形ばかりの任命書は、安っぽい紙と臭いインクの臭いがした。殴り書きの筆に投げやりな訓示を乗せ、ぽっちゃり女騎士シャブチは、隣国より出ずるショターの護衛の任を受けた。
馬車から降りてきた人物は、まるで子どものように幼い容姿で、シャブチのやる気をしばし削いだ。
馬子にも衣装までは言い過ぎだが、それでも腰に下げたレイピアが玩具に見えて仕方ない。
「わたしがショターである、あるぞ。貴殿がシャブチ殿か。宜しく」
握手する手すら子どものようにとても小さく、そして柔らかそうだった。
「……」
シャブチは無言で握手に応じた。案の定柔らかい手だった。
お忍びということにはなってはいるが、来賓に何かあっては国際問題に発展する。当然警備は最大限かつ最小限だ。
間近はシャブチのみ。しかしその近くには巧妙に紛れ込んだ女騎士隊が神経を研ぎ澄ませている。護衛にミスは許されない。
「この国に来たらシャブラリオンを見たくてね」
「ではご案内致しましょう」
二百年前に建築された有数の古教会。それがシャブラリオンだ。
ステンドグラスとパイプオルガン。そしてアヘる女神の像が特に珍しい。
農道のようなあぜ道を馬車が通る。待ち伏せや奇襲にはもってこいの道だ。
既に女騎士によるチェックは終えている。敵の姿はない。
馬車の中ではシャブチがショターと和やかに会話を重ねていた。
「へぇ、男兄弟なんですか」
「姉か妹がほしかったが、残念ながら、ね」
ショターが珍しそうにシャブチを見た。
長い髪、綺麗な瞳、厚い唇、滑らかな曲線。
「あまりジロジロと見られると恥ずかしいのですが……」
「す、すまない……」
ショターが恥ずかしさのあまり外を向いた。
が、シャブチがその頭を掴み下へと思い切り下げた!
ズゴォ……ッ!!
自身も屈んだ直後に、馬車の中へと矢が突き刺さった。襲撃だ。
「ショター殿、シャブラリオンは延期です。敵に襲われました」
「な、なんだって!?」
馬車が止まる。
止めたのは御者ではない。御者は既に矢傷で倒れていた。
「敵襲!!」
あぜ道に生えた木々から迷彩を施した女騎士達が続々と現れた。
「偵察!!」
一瞬で四方八方へと散り、残されてのはプレートメイルに身を包んだ女騎士二人。そして馬車のシャブチとショターだけだった。
「ショター殿、警備の不手際をお詫びいたします」
プレートメイルの女騎士の片割れが見張りをしながら声を発した。
「襲われる覚えがない」
「身代金狙いでしょう。お忍びですから……ですから犯人は身近です。……どちらかのですがね」
馬車の内側に突き刺さった矢尻から黄色の汁が垂れている。きっと神経毒か何かだろう。
殺意の有無は定かではないが、矢の威力を見る限り生死の有無はどちらでも良いようだ。
金属が落ちる音が馬車の外からしたと思うと、特大のアヘ声が木霊した。
外ではプレートメイルの女騎士が二人ともアヘっている。そばには三年待ちでも食べられない有名店のお饅頭の箱が落ちていた。ある意味毒饅頭だ。
「この国はアホしかいないのか?」
フードを深くかぶった男が、ゆらりと馬車のそばへと現れた。シャブチが用心深く男を観察する。
「中にいるんだろ? 饅頭か、それとも肉か?」
ほれほれと言わんばかりに、男が食べ物をぶら下げながら近づいてゆく。どれも名品ばかりだ。
「美味そうだ」
既にシャブチは涎がエンドレス。
しかしその傍らにはショターがいた。
ショターの背中は震えていた。
いや、背中だけではない。手、足、その小さな体の全てが震えていた。
「……ここに居て下さい」
シャブチが馬車の扉を開けた。
馬車のそばではプレートメイルの兜を外した金髪の女騎士が、饅頭の包みの匂いを嗅いで軽くアヘっていた。
「どんな饅頭だよ……」
「食ってみるか?」
フードの男が饅頭を投げた。聞いたことしかない、名店の一品だ。包みには抹茶味と書かれており、見る間でもなく美味そうだ。
フードの男のポケットやショルダーバッグはパンパンに膨れており、どうやら女騎士隊は全て男の餌にやられたようだった。
「…………」
シャブチは無言で鞘ごと振り下ろした。
男の頭から鈍い音が鳴る。
「──グフッ」
男がまるで叩かれたハエのように、ピクピクと動くだけの物を言えぬ状態と貸したのを見て、シャブチはようやく投げられた饅頭を手にした。
「一つじゃ足りないからな。お前を倒して全部貰うぞ」
シャブチは賢い女騎士だった。
御者の手当をし、馬車旅を再開させたシャブチとショター。
名店の味にアヘりつつも、ショターはそんなシャブチの事を頼もしく思ったのだった。