第四話 第一層ボス攻略 前哨戦
階層のボスは、ミノタウロス、その異形。
角の形が多少違うことから、異形とわかる。
この場にいる誰もがLv.1なのに対し、ミノタウロスのレベルは26。
果たして勝機はあるのだろうか? Lv.1を幾つぶつけても、所詮はLv.1でしかない。防御力でノーダメになるかもしれない。そう考えると、勝機は薄いどころか、絶望的だ。
「オイオイ、まずはステータスから自分らのスキルを確認しろよ。そんなこともわかんねーのかァ?」
「数十秒は持たせますので、その間に」
「はあ、これだから雑魚は……」
その三人へと振り下ろされた戦斧が、瞬時に消える。正確には、その中で最もひ弱そうに見えた少女に、触れる寸前で……。
『微細断絶』という超能力を持っていた、「チーム」に所属する、世界でも三番以内に入る超危険人物、『第一位』。そんな少女が、ミノタウロスの持つ武器を、片っ端から破裂させ、断絶させていた。
他の二人は知らないが、『第一位』相当の実力者に見える。
この二人がやっているうちに、と。周りの人たちは急いでステータス画面を開いて、スキルを見ていた。
ボクもそうする。
〈スキル〉
所持していません。
〈ユニークスキル〉
所持していません。
はい? 後1枠だけ。そこに、最大限の、今まで感じたことのないほどの、期待を込めて、見た。
〈原点能力〉
覚醒
スキル概要説明
このスキルの発動率は現在、10%です。
このスキルが発動した場合、Lv.に関係なく、絶大な力を得ます。その効果はシステム外のため、関与していません、そのため、上昇率は不明です。一度使用すると、次の戦闘か、三十分の時間経過以外では再発不可になります。
発動確率が10%。十分の一の確率でしか発動しないスキルがただ一つ。
それがボクの力だった。それだけがボクの力だった。
だが、試す価値はある。
三十分というクールタイムがあるが、それでも今賭けずしていつかけるんだという話なのだ。
「〈覚醒〉発動」
効果は、なかった。
何も変わりはしなかった。ただ、ボクがそう唱えて終わっただけだった。
不発。
そして焦り。
この場でボクは足手纏いか〈増悪値収集〉にしかならない。
囮職が似合っていると言われても、文句は言わない。
さあ、できうる限り、ヘイトを集めようじゃないか!
§
狂乱に躍る道化は、その様子を見て、ああ、やはりな、と呟いた。
やはり、塚原闇夜は、覚醒していない、と。
転移した瞬間にこのボスが実は倒されているのでは、と思ったほどだ。
彼は、昔、VR の対戦ゲームで、彼と戦った。
全力で、だ。冗談抜きで、全力で戦った。
結果は惨敗。
手出しは愚か、回復も回避すらも出来なかった。
しかし、その後、もう一回どうだろうと戦い、結果は何故か圧勝。手を抜かれたのかと、かなり憤ったものだ。
が、後で知った。塚原闇夜は強すぎる時と弱すぎる時がある、と。
彼は、それを『覚醒』とよんだ。
彼だけが、そう呼んだ。覚醒したこいつに勝てるやつはいない、という意味合いを込めて……。
そして今、スキルとして獲得したのか、「〈覚醒〉発動」と呟いていた。
だが、結果としては、何も変わらなかった。もしかすると、確率制なのかもしれない、と即座に判断し、彼に頼るのは諦めた。
そして、彼は向き直る。
この、途方もない、あの時のような化物と戦うという恐怖に……。
§
そう決意を固めた時であった。
『「純粋な憎悪」への耐性・覚悟を確認。パッシブスキル「憎悪上昇」を獲得しました』
という機械的に流れるような声が頭に響いた。
が、今はそんなこと、どうだっていい。ボクが囮になれればそれで、それでまずはいい。
『囮への憧れを確認。スキル「囮」を獲得しました』
何か二つのスキルを獲得したみたいだ。片方はパッシブだから、もう片方を発動させてみるか……。
「『囮』発動」
その瞬間、ミノタウロスの注意、そのヘイトがボクに対し、完全にむいた。
そう、それでいいの。あれ? どうしたの? 動きが鈍いじゃん。君はもっと速いでしょ? ちゃんと動きなよ。ほらほら、鬼さんがきてるよ。
うん、そうだね。やってやるよ。
『一定以上の覚悟、想定外の覚悟を確認。原典能力「覚醒」のレベルが1から3に上がりました。これにより、発動率が15%に、クールタイムが25分になりました』
ボクの中の、何かが囁いた。
それがボクに勇気を、それを超える覚悟が芽生えた。
さあ、精一杯逃げ回ってやろうじゃないか。
§
突如、ヘイトが誰かに向いた。
ヤバイっ! そう思っていたのは、ヘイトが変わって、それが誰かを特定する前までだった。自分が弱いと思い切っていた、塚原闇夜が、ヘイトを受けていた。自分から……。
何が起きた?
そういうスキル? そんなスキルはないはずだ。ヘイトを変えるなんて……。『囮』スキル? それならあり得るけど、私だって使ってる。それを超える『増悪値』を持っている? 戦ってもいない彼が? なんで?
全部どうだっていい。今は目の前のこれを壊すだけだ。
おかげで、チャージに時間が取れる。私の現実世界からの能力、ユニークスキル『微細断絶』は、素粒子以上の大きさの全てを自在に操ることができる能力だ。メインは破裂と切断、断絶だが、構築と分解もできるわけだ。二人の人間を半々にして混ぜることだってできる。
それが危険人物トップと言われた理由だ。
だが、今はこうして頼られている。さあ、頼って。
§
『第一位』のミクロフラクチャーの断絶か破裂のチャージまで逃げる、それが最低よ。
さあ、走って。私の■■■■■。
走れ。死ぬまで。