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Games.  作者: 鬼灯稀有
第一章 第一次迷宮攻略《ラビリンス》編
2/5

第一話 ゲームスタート(購入)

まだ転移しません。

 VRMMO。

一年ほど前に開発された、フルダイブでのVRを、MMOでプレイできるゲーム種のことだ。


 時間感覚を引き伸ばすという特殊な技術の開発に成功したことで、ゲーム内の一時間が現実での十分となったことにより、時間をある程度忘れてプレイできるようになった。

だが、問題点もある。それは精神的な面だ。現実とは違う時間感覚で生きているのと同義になるこのゲームでは、記憶量が追い付かないのだ。

 人間の記憶量は、大体140年分といわれている。無論、知識面だのなんだのと別れてはいるが、下手に長くプレイしていると、記憶量が大変なことになってしまう。

一日三〇分であろうと、ゲーム内では三時間分の時が過ぎているのだ。それを続ければ、記憶が持たなくなるのは一目瞭然である。


 その対策も、既にある。

異能、と呼ばれる能力が存在する。その中にある、精神系能力から記憶を消去するということができるようになっている。無論、その際に自分がその記憶をなくなって困らないか、何があったかを伝えるための手紙みたいなものを書きたいかなど、様々な質問をされるが、この対策により、記憶量の問題は少なくなった。そういうことを何もせずに、ずっとつづけるプレイヤーもいるのだが……。


 VRには、クランという機能が存在する。

直訳すれば、氏族や一族といった意味になるが、ゲームでは集団、同盟みたいなものだ。この中でのランキング争いや、会話、実際にあって会話するといったこともあるほどだ。


 これは購入したゲームでの手続きで、最初からクランに入った状態になれる。

そして、今日発売された初となるVRMMO。


 その長蛇の列に、個々人が有名プレイヤーの無名クランのプレイヤーが八人という多めの人数で並んでいる。

といっても、クラン自体は無名であるし、個々人と言っても顔出しはできるだけ拒否し続けている有名プレイヤーである。PLNは有名だろうが、素顔や本名は知れ渡っていないのだ。


 だからこそ、彼らがこんな列に並んでも、騒ぎにならないのだ。

「…………、買い出しの中身がおかしくないか? このメモ、アルが書き換えたとかないよな?」

「ちょい猫法、私っていつもそんなことしてないよね? というかそれって(ゆかり)さんの専門でしょ?」

「私…、違う……」

「うーん、それは違うと思うな〜」


 各々が好き勝手に、周りへの迷惑すら関係ないという立ち振る舞いで意見を述べる。

それを見て、またか、とクランのリーダー、塚原闇夜は頭を抱え込み、その場に蹲りたくなる衝動を抑え、コホンと可愛らしい咳払いでその場を収束しようと試みる。


 が、

「どったの両声類」

「男子のくせしてその声なのムカつくのでやめてもらえます?」

「ここで咳払いする理由を二十文字以内で簡潔に述べなさい」

「はいはーい! 責任逃れをするためです‼︎」

「正解!」


 火に油を注ぎ込む結果となり、そして手が滑って膨大な量の油を注ぎ込んでしまったようだ。


「はあ、少し落ち着こうよ……」

「トランスジャンダーみたいなお前は黙って欲しい、です」


 塚原闇夜は生まれつき、声が女性と全く変わらない。

何が原因かも不明で、塚原自身、親がいないので、そこに関してはとうの昔に違和感などないと認識している。まあ今のように両声類やら女声やらトランスジャンダーやらゲイやら色々言われるのだが……。


 塚原自身、LGBTに関しては否定派ではない。それを否定すれば、自分の個性を否定されるのと一緒であり、特に彼は声に関する問題があるため、余計に敏感である。


「そういえば、何人分買うの?」

「七十八人分って書いてありますよ……」

「…………、何円?」


 そう黒髪にカラコンで瞳が赤くなっている高校二年生の少女、乙鳥征妹(つばくろ ゆめ)が聞く。

クラン「チーム」には孤児が多い。それを書類上とはいえ、養子としてお金を渡している、「チーム」全体の保護者的存在、星野母。彼女もその一人だ。


 征妹が聞くと、塚原の後ろでおずおずとしていたセルリアンブルーの髪をしたウサギ耳のカチューシャ少女、リョナが、紙とペンを取り出し、素早く計算を終わらせる。

その所要時間、わずか七秒である。書くのに時間がとられていなければ、もっと速いのかもしれない、と塚原はつくづく思う。


 そして、リョナの計算結果に全員が目を丸くする。

「1113684円だと思います……」

「「「「……………、は?」」」」

「ひぃ……っ‼︎⁉︎」

 

 最初に意識が戻ったのは、流石というべきか、リーダーである塚原だ。

というか、彼だけは周りと違って、元々二百万を覚悟でやってきたのだから、少な過ぎて驚いているのだ。


 「チーム」の予算はかなり高く、大会優勝金もあり、最低でも一億は超えている。

しかも、それが個人での話だ。塚原のように大会に行っていないものもいるため、全員ではないが、大会に行っているもので、優勝したことのないものは一人もいない。そして、全員が五百万以上の稼ぎをしているのだ。


「…………、次回、征妹死す。デ〇〇ルスタンバイ」

「生きてますし、ライフは8000あります」

「普通そんなにないと思います……」


 その中でも、征妹は稼ぎが多い部類に入る。

が、それでも100万越えの出費はかなり痛手で、今みたいにショックを受けるのだ。というか、「チーム」の中で彼女ほど財布の紐が緩い者はごく僅かで、それこそ例の星野母こと星野悠くらいだ。


 そんな風なこともあり、征妹の気迫がより強くなり、気まずい空気となってしまった。

征妹は剣道をガッツリやっており、この年で自己流、ある特定の能力との掛け合わせによって初めて成立する『乙鳥流』という剣道の開祖。剣気を扱えるほどであり、その殺意を浴びれば一溜まりもないそうだ。


 そんな彼女が気迫を強くして不満全開オーラを漂わせることにより、緊張感や恐怖に愉悦が塗りつぶされ、全員が黙り込んでしまったのだ。


 その空気の中、唯一平然としているのは、普段ビクビクウサギだのブラコンウサギだのといじられているリョナである。

彼女は探偵業と辿り屋の両方を営んでおり、こういうギスギスした場面でも常に平然としていられるよう、謎の特訓をしていたのだ。そのせいか、学校で自分や誰かが怒られても、内面でしか反省しておらず、外面が飄々とし過ぎているため、怒鳴られるという理不尽ワンセットが起きたりもしている。


「あ、あの……、そろそろ順番かと……」


 ぶすー……、と頭をオーバーヒートさせかけている征妹に言うと、征妹は渋々と財布を取り出し、三、六、九……、と諭吉さんを数え始めた。

が、


「あうぅ……」


 と謎の悲鳴?とも静かな叫び?とも取れぬ不思議な声を出し、ピキン、と凍りついてしまった。

いつも通りというか何というか、さも当然というように塚原は征妹に質問をする。毎回人の思いを気にせず、ズケズケと踏み込んでしまうので、よく『心砕きの人間兵器』とか『対クレーマー001』とか呼ばれている。自覚がないからこそ、尚更なのだ。


「征妹、どうかしたの?」

「え……、ぅえ……?」


 完全に意識がどこか遠くに行ってしまっている征妹を見て、余計にどうするかと真剣に考えてしまう塚原。

彼がさらに考えだす=さらに人を傷つけると同義なので、ここは征妹の友達として止めたいリョナだが、それをする勇気はないのだ。

これがビクビクウサギと呼ばれる所以なのだが……。本人は気付いていない……。


「うぅ……、諭吉が足りないよぉ……」

「「「「(察し)」」」」


 言葉通り、征妹の財布の中には70万と後は数千程度しかない。

31万、不足しているのだ。


「走ってATMに行くというのは?」

「先に順番が回ってくる気がする」

「誰かが撮りに行くというのは?」

「何も変わってない気がするけど……」

「転移魔術を行使してしまうのは?」

「人前で使っていいものじゃないよね……」

「転移能力は?」

「ここにいないし」

「「…………、」」


 沈黙。

その波が今にも彼らを完全に沖へと運ぼうとしていた。

 

 確かに、征妹が全力で走れば近くのATMまですぐにたどり着くことができる。

しかし、それは被害を想定しなかった場合だ。征妹が全力で走れば、それこそソニックブームに似た現象により、建物の倒壊はもちろん、フルーチェの型崩れや、横断歩道の白いところだけを踏もうとしていた人たちにまで迷惑をかけてしまう。


 次に速いのは、塚原だが、彼(彼女)はあくまで瞬発力的な方向性で速いため、ただ二番目に速いだけになってしまう。

そして、今ここにいるものたちでは、確定的に間に合わない。


「じゃあボクが走っていきます?」

「ああ、リーダー、頑張ってくださいね。苦手でしたよね?」

「頑張りますよ!」


 袖をまくり、できるだけ走りやすくし、そのまま素早いスタートダッシュを決め、わずか五秒後には50メートル以上先の曲がり角を曲がり、見えなくなっていた。

回避能力に優れ、それでいて、誰にも知られず、持久力が物凄いある塚原は、それこそ三十キロはぶっ通しで走り続けることができる。まあトイレは除くが……。



 十分後、丁度順番が来る三番前であった。


「本当に帰ってきた……」

 

 そういうのは事件の火種たる征妹である。

どうやら賭けをしていたようだが、そんな暇があるならパスワード教えて欲しかったな、と思う塚原である。実は塚原はATMのところまで行ったはいいが、征妹のパスワードを知らず、結果自分の方から取り出すという30万オーバーの出費を人生初行ったのだ。


「いつか30万返してくださいね」

「ふえ?」


 何が何だかという顔の彼女を差し置き、順番が回ってきたので、35万を手渡す。

まるでただの紙切れを扱うように、ぽいっ、と。


「大事に扱おうよ……」

「右に同じく……」


 非難の眼を向けられるが、そんなの彼(彼女)の知ったことではない。

そして、列に並ぶ全員がゲームを買うことなく、前半のものだけがゲームを買って終わるという結果を生み出したことで、しばしの間ネットで話題になる彼ら八人であった。

次の回かその次あたりで転移させる予定です。


次回からは主人公が語り手となるかもしれません。

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