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ハルカ先生の学校

小学校の職員室に挨拶に行きました。


さつきとにいちゃんの通っていた学校は、昔地震とか戦争とかでなくなってしまいましたが、

今は新しい素敵な校舎。

シンプルできれいで、カラフル。

まるで遊園地に迷い込んだかのような楽しそうな学校。


さつきが通っていた頃とは違い、子どもたちはみんな自分らしくのびのびと勉強や遊びをしています。

そして、みんな明るく気持ちの良いあいさつを交わしてくれます。

セラピーボールに座りながら、ひとりで、分厚い本を重ねて、自分のやりたい学習をする子ども、

絵を描いたり、漫画を描いたり、自分の世界に没頭して創造する子ども、

先生を交えながら仲間たちと、おおよそ小学生とは思えないくらいちきゅうの未来について語り合っている子どももいます。

学校の中に自分で店を開いている子どももいれば、自分で家を作ったり、校内の池でひたすら釣りに興じている子もいて、みんながみんな自分の好きなことをして、それでこの学校は極めてうまく回っているのです。

汚れ仕事や裏方の役割も、嫌がる子供はいなくて、それはなぜかというと、その意味をしっかり分かっているからです。

校庭には、すごく面白そうな遊具。

思わず、さつきもやってみたいと思うほど楽しそうです。


さつきのいたころは、みんなみんなみんなダメだったことでした。


学校には、あまりいい思い出がありませんでした。

まるで檻の様に見えて、入るだけでお腹のあたりがきゅんと痛みます。

だけど、独りぼっちがいなくて、みんながそれぞれ自分らしく生きて互いに認め合って尊敬し合い学びあっている姿は、花が咲き乱れるように美しく見えました。


生徒たちとおいかけっこをしながら、アンテナをいじられるあの大人に見おぼえがあります。


「ハルカせーんせ!」

「さつきちゃん!いや、もうさつきさん、ですね。」


小学校時代の恩師ハルカ先生もうちゅうじんです。


ハルカ先生が、ふるさとのうちゅうから持ってきた教育のプログラムはそれはとてもとても素敵で素晴らしいもので、すべての子どもを幸せにして、しいてはちきゅう全体を幸せな星にすることのできるものでした。


破壊された後に新しく作られたこの学校は、ハルカ先生のおかげでこんなすてきなものになったのだと言わざるを得ません。


「それでも、まだちきゅうではこういったところは少ないの。」

とハルカ先生。


「うちゅう留学決定しました!」


「やったね!さつきちゃん。」


そう言って笑う先生のほんわかした顔には小じわが増えたような気がしますが、そうして年を取っていく姿もきれいだなと思うのです。

さつきも、こんな風な大人になって歳を取っていきたいと思いました。


「ねえ、ママ・・・じゃなかった、ハルカ先生、そのお姉さんはだあれ?」

女の子が走ってきて聞きました。


「先生が、もっと若いころの生徒よ。さつきさんというの。

ちきゅうではじめてのうちゅうへの留学生になったのよ!」


「ええーーーー!すっごいねえ!」

と男の子が跳ねます。


先生は、実はちきゅうの男性と結婚して、男の子と女の子がふたりいます。


二人ともこの先生の学校に通っていて、親子で同じ学校に先生と生徒としてもいるわけです。

学校では、一応、「先生」付けで呼んでいます。


なんだか、あの頃の、にいちゃんとさつきを思い出しました。


ふたりとも、うちゅうじんの血をひいています。

学校の中でも、堂々とアンテナを立てて、

アンテナでキャッチしたうちゅうからの素敵なメッセージをクラスメイトのみんなと分かち合っています。


「・・・ああ、この子たちは、自分が半分うちゅうじんでも、そのまんまの自分を出して、表現して、そして、みんなに認められているんだな。

そして、そのことが当たり前なんだな。」

なんてことを思うと胸が熱くなってきます。


さつきの頃は、うちゅうじんのにいちゃんやハルカ先生は・・・うちゅうじんというだけで何にも悪いことしてないのに、悪者扱いされて、学校を追われました。

怪獣の先生も正義のヒーローの先生もみんなも一緒になって、にいちゃんを追い詰めました。


にいちゃんが、願って夢にまで見ていた学校が今、ここでずっと続いている。


そして、ハルカ先生も、この場所を作り上げてきたんだ。


二人して、子どもたちを見つめながら、ハルカ先生が言いました。

「やっと、ここまできた。

もう、何もかも、信じることのできないところを私たちは通ってきた。

傷も、たくさん背負ってきた。


だけど、さつきさん、あなたは決して信じることをやめなかった。

さつきさんのおにいちゃんも・・・。」


そう語る、ハルカ先生の横顔と、そのはるか遠くを見つめるまなざしは凛としていて、

哀しみの奥に深い輝きがあり、そのまなざしが子どもたちすべてを包み込みはぐくむように思えました。

あいかわらず、天然で、ほんわかとして無邪気な様子でしたが、さつきが小学生だった頃よりも、先生の背骨には一本のなにかまっすぐないぶし銀の棒でも入っているかのような凛とした美しさがありました。


「あの子が、今も、生きていることは、私もこのアンテナでよくよくわかります。

うちゅうの≪ひみつのことば≫とひとつになって、あの子はいつも私と交わっている。


・・・でも、やっぱり、

この手で抱きしめてあげられないこと、

この目であの真ん丸の瞳と笑顔を見れないこと、

この耳であの声を聴けなくなったことは、辛くて、寂しい。」


涙ぐみながら空を仰ぐハルカ先生の口もとは微笑んでいました。


「おにいちゃんは、偉かったよ。本当に偉かったよ。

だって、ちきゅうでのいのちをしっかり使い切ったもの。

こころから褒めてあげたい。」


「にいちゃんのいのちは・・・今、さつきのなかにも生きてるよ!

そして、うちゅうで、さつきは何回もにいちゃんと出会ったの。」


「知ってる。きっとそうだと思った。

あの子は、いつも私たちと一緒にいる。

あの子がいなかったら、今のこの学校はなかった。今のこのちきゅうはなかった。

私も、あなたもなかった。」


ふたりとも、どこか遠くを見るように子供たちをみていましたが、

ふと、我に返り、

「さあ、子どもたちと関わっていらっしゃい。授業でも、学習でも、遊びでも。」

と促してくれました。


この学校では、ものすごくオープンで、望めば誰も子供たちと一緒に交わり活動することが出来るのです。


さつきも一緒に、子どもたちとおおはしゃぎ。

学校がこんなに楽しくワクワクするものだとは思いませんでした。


さつきも子供たちから「先生になって。」「教えて。」と頼まれ、出来る限りのことを一生懸命伝えました。

小さな子供から、もうじき大人に近い子供までもが、目を輝かせながら聞いてくれ、次々と質問をしてきました。

さつきも、子どもたちから、知らないことを多く学びました。

さつきも、目を輝かせ、子どもたちから学び、あれこれと質問しました。



すっかり、みんなのことが大好きになりました。

日が暮れても、帰りたくありませんでした。


「ねえ、今度いつ来る?」

「絶対また来てね。」


子どもたちは駆け寄ってくれて、手紙まで渡してくれて、抱きしめてくれました。


一日だけなのに、さつきは感動してまた涙が出そうになりました。


ハルカ先生の同僚の先生たちも、負けず劣らず愛も深い、一人一人自分自身を生きている素敵な先生たちでした。

互いに互いに尊敬し合い、学びあって、子どもたちのこととちきゅうの未来を一生懸命考えて行動していました。


「もし、ちきゅうの人でもみんながこういう場所を望めば、きっと素敵な人生が歩めるのに・・・。」


そういうと、

「まだまだ、うちゅうから学ばねばならないことはたくさんありますよ。

自己中心性や、恐れや、無関心、欲望、支配で生きている人たちはまだ数多く存在します。

多くの人にとって、うちゅうの姿はまだまだ実現不可能な理想論です。

精神的にも技術的にも進んだうちゅうの諸先輩方がどうやって、私たちの星にあったような諸問題を乗り越えてきたのか。

さつきさん、期待しています。」

とある先生。


「はいっ!おまかせください!」


とさつきは元気よく挨拶をして、校門を去ろうとしましたが、

基本的に残業というものが存在しない先生たちが、さつきをつかまえて、

近くの飲み屋で留学送り出し祝いをしようと誘ってくれました。


もちろん、ハルカ先生もその子どもたちも一緒です。

驚いたことに、保護者の方々、地域の方々と、しかも子どもたちまで混ざっているので、これは一体どうなんだとおもいましたが、


「わが校の卒業生さつきさんのうちゅう留学を記念して、かんぱーーーい!」

「あれっ?さつきさん、もうお酒飲める年齢でしたっけ?」

「いやいや、女性に年齢を聞くのは失礼ですよ。」

「うちゅうのビールだったら、大丈夫大丈夫!」

なんて会話が飛び交います。



「うふふ、先生の夢は、教え子と飲みに行くことだったの。

こうして、大好きなさつきさんと一緒に飲めるなんてとても幸せ。」


「ママも、僕たちが大人になったら一緒に飲もうよ!」

と息子氏。



・・・


・・・・・



その晩は、ゲラゲラ笑って、泣いて、語って、

気が付いたら、翌朝になっていました。



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