鎖
灰色のほしの教室で、さつきは一体どれくらい眠ったでしょうか。
一年間以上、居眠りをしたいたという気がします。
そして、なんだか、数えきれないくらいたくさんの夢が泡立つように出てきてはきえていったような、そんな気がします。
幸せな夢、怖い夢、懐かしい夢・・・。
「おはよ・・・」
机の上でさつきはよだれをたらして、ノートの文字がにじんでしまっていました。
でも、その間に経った時間は、時計の針がちょっと動いただけのわずかなものだったみたいです。
周りには、茶色や灰色や紫色が混じった、見知らぬ人たちが楽しそうに笑っています。
さつきの手足には、鎖がまきつけられています。
そして、この鎖は、「いいもの」なんだと、知りました。
だって、鎖があると、自慢できるし、仲間ができるし、いろんなものをもらえるからです。
人は、たくさんの鎖を身にまきつけたがります。
そして、それは「かっこいい」こと「素敵なこと」みたいなのです。
さつきは、すっかり、自然にこのほしの生活になじみました。
いいえ、そんなわけないでしょう。
なじんだふりがとってもうまくなって、だけど、ほんとうはさつき自身が何を感じて何を思っているかなんていうことが分からなくなっちゃっただけなのです。
そんなものは、気の迷いにしかすぎません。
なにがなんだかわからないまま、さつきには「ともだち」がたくさんできました。
「ともだち」はさつきのことを、なにかいろいろな別の名前で呼びます。
誰が誰だかはっきりわかりません。
四角い部屋の中で、みんなが笑いながら、静かに時が流れていきます。
・・・ふと、さつきは、胸やお腹のあたりがきゅんきゅんとなり、息苦しくなり、ふしぎな寂しさを感じて、固まってしまいました。
この感覚は、うまく言葉にできません。
でも、とにかく、寂しくて、寂しくて、そのことを誰にもわかってもらえなくて、
だけど、この星では、すべてのことが、「当たり前」のように進んでいて、
この私だけが、ぽっかりと、この世界から切り離されてしまったような、そんな切なくて、哀しくて、誰にもわかってもらえないという感覚なのです。
「さつき・・・さつき・・・わたしは・・・誰?
〈この人〉は、いったいどこからきて、どこに行くの?」
誰かが、私に話しかけます。
さつきは、笑い返し、その誰かたちに合わせて、遊んだり、話したりします。
だけど、その人たちが、本当は何を話したり、何を伝えているかなんて、全く分からないのです。
でも、なぜか、さつきは、このほしに来てまもないのに、本当に、普通にそこにいるのです。
だけど、わからない。わからない。わからない。
このほしというものが、このほしの住人というものが、まったくわからないのです。
顔もわからないし、言葉もわからない。
鎖にだけ価値のあることは何となくわかります。
だけど、その鎖をどうやって増やすのか、減らすのか、わかりません。
みんな、何かを頑張って、その鎖をたくさん巻き付けて喜んだり、なくして悲しんだりして、絶望しているのです。
なにもかも分からないにもかかわらず、さつきは、このほしのすべてをうまくこなすことができました。
なんとなく、あわせてみる。
なんとなく、やってみる。
鎖はなんとなく増えて、みんなに褒められもした。驚かれもした。
そんなことが、繰り返しありました。
だけど、あの謎の胸の痛くなるような、むなしさやさみしさ・・・閉じ込められた感じは、ふとしたときに繰り返し襲ってくるのでした。




