かぎたろう
一羽の頭が黄色であとはどこも白の鳥がさつきの上をくるくる回り、
「にゃあごにゃあご」となきながら道案内をしてくれるようです。
「鳥なのに、猫みたいななきごえをだして、変なの・・・」
と思いながら、さつきは軽快な足取りですたすたと歩いていきました。
いつのまにか道路はなくなり、雨上がりの運動場のような広い場所がずっと続いています。周りは真っ黒に枯れた木々がしょんぼりとうなだれています。
気が付いたら、あの変な鳥はどこかにいってしまい、しまいには木も草もない、岩と砂だけの場所にやってきました。
あらあら、植物が見えます。
さつきは近くに行ってみました。
「痛いっ!」
と、思わず何かを踏んづけて・・・跳ね上がって近くの岩に手をついた瞬間、
「あいたっ!!!」
飛び上がり移動したいのをぐっとこらえて、おちついてさつきはその場に立ち止まり動かないようにします。
深呼吸しながら、痛みを痛みそのものとして冷静に観察しながら、意識を広く向けるのです。
そのあたり、賢いさつきちゃんはしっかり冷静に弁えているのです。
周りをよくみると、サボテンでもない、イバラでもない、細かい針の生えた植物が荒野に生い茂っていました。
さつきはゆっくりその植物からおちついて足を移動し、安全な場所まで避難します。
何と近くに、洞窟があるじゃないですか。
一息ついて、刺さった針を抜くと、小さな針なのに抜いたところから水滴のように血がしたたり落ちます。
「やばいなあ・・・何だろうこれ?」
しばらくすると刺された箇所が腫れてきて痛くなってきます。
「どうしよう・・・これも試験のうちのひとつなのかしら・・・帰らなきゃ。」
さつきが洞窟から出ようとすると、辺り一面あの針の植物が生い茂っています。
「うーーん、仕方ないか。まあ、なんとかなるか。」
とさつきは意味もなく楽天的に洞窟の中に入って、座り込みました。
「わっ!」
何とそこには、スーツを着た猫が寝ているではありませんか。
スーツから飛び出しているしっぽはかぎ状に曲がっていたので、さつきはその猫に
「よし、おまえは今日からかぎたろうだ!」と安直にネーミングしました。
「誰がかぎたろうや!」
とそのスーツを着た猫は起き上がって言いました。
「へえ、猫なのにあなた関西弁をしゃべるのね。」
さつきはすっかりおどろいて言いました。
「ねえ、ところでかぎたろう、さつきは転がり続けてこんなところにたどり着いたんだけれども、
かぎたろう、さつきは焦りすぎたのかな、むやみに何もかも傷つけてしまったけれど・・・」
とどこかのロックシンガーが歌うみたいな歌詞でさつきはいきなりであったこの猫にあれこれと相談し始めました。
「ううん、せやなあ、あんたその傷・・・」
「うん、洞窟の外で刺されたの。ちょっと刺されちゃまずかったかなあ。」
「ああ・・・その傷なあ・・・ほっといたらなあ」
かぎたろうの言い方に楽天的なさつきもつい不安になりました。
「・・・まさか・・・?
なにか遠くまで行って、どこそこの誰かが持っている特殊な薬を取ってこないと治らないけれど、そのためには交換条件として面倒くさいあんなことやこんなことをやらなくちゃいけないとか・・・
それで、クリアしたと思ったら更なる問題が待ちかまえていて・・・」
「その傷なあ・・・ほっといたら、
治るで!!」
「ほあ!?」
「ああ、ほっといたら治るで。」
「・・・治るんかーい」
さつきはすっかり安心してその場に座り込みました。
そして、座り込んだついでにかぎたろうとお茶をしたくなったのです。
「まあめでたしめでたしということで、ねえ、かぎたろうさん、一緒におちゃでもいたしません?」
「ああ、ええけど。
なんであんたはこんなところ来たんや。」
「かぎたろうさんこそ、なんでそんなところにいるの?」
「質問の順番!
まあええわ。この格好でわいのかぎのようなしっぽに誰かええ魚でも引っ掛かってくれへんかなあって通りで待ちかまえとったら、なんと羽の生えたマグロが引っ掛かってくれたんや。
それで、ラッキーやと思ってたら、逆にマグロに連れていかれて気が付いたらこんな洞窟や。」
「へえ、おもしろい!」
「おもろないわ!よくあるはなしやっちゅうに!
はい、それであなたは?」
「さつきは、いまうちゅうへ留学するための試験の最中なんです。」
「ほう。」
さつきはかぎたろうに課題を教えました。
「ほほお、『無門関』やのう。」
「むもんかん?」
「せや。
うちゅうにいくためには、門もどこにもなく、扉もどこにもないんや。」
「はわわーーー」
具体的に何をすればいいのか分からない。
場所がどこにあるかすらわからない。
誰か試験官がいるの?見ている人がいるの?