いい子じゃないと
「不安?
一体何が不安なの?」
「・・・どういったらいいだろう。
具体的にあれこれという不安はある。
だけど、もし、一つの不安の原因を解消したとしても、
時間は流れていく。
すべては移り変わってゆく。
同じままでとどまっているものなんてこのうちゅうには一つもないだろう?」
「うん。」
「すべてに対する不安さ。
ぼく自身もすべてが変わっていくことに対する不安さ。
ぼくは・・・どこかで、この幸せな瞬間がずっと続いていてほしいと願っている。
だけど、それがずっと続くことはなく、何かに取って代わられることを知っているから、
安らぐことはできないんだ。
このふねがどれだけ夢のような場所でもね。
ここに居る人たちが、笑顔で楽しんでいるのを見ると、ぼくは胸になにか突き刺さるものがあるよ。」
「そらくん・・・それは考えすぎじゃないかなあ。
頭がいい人は頭がいい人なりの悩みがあるものなのね。
もっとさ~、バカになればいいのよ。バカに。」
「はは・・・いいね。
さつきちゃん、君は・・・。」
そう言って、ふっとそらくんは寂しそうな顔をしました。
さつきは、励ましたつもりでしたが、ちょっとミスっちゃったかなと思いました。
実は、さつきにだっていろいろと不安なことはあるんです。
一番の不安は・・・
わすれちゃった。
まあいいか。
・・・とにかく、いろいろあるのです。
ふと、さつきの脳裏に、雷のようにいやな考えが浮かびました。
「・・・もう一度、にいちゃんと引き裂かれて離れ離れになっちゃうこと。」
そのことを思うだけで、さつきの心臓は止まったようになったあと、どっくんどっくんとなり、息が苦しくなってきました。
「ない・・・ない・・・ない。
そんなことは・・・ぜったいに、ない。」
さつきは、そう言い聞かせようとしましたが、そのイメージはなぜか分かりませんが、
強く脳内を駆け回るのです。
同時に、ふと、「知恵のアプリ」に接続してしまったことが思い起こされました。
「・・・・まさか、あれが・・・悪いこと・・・?」
でも、同時に、こうも思いました。
「いいえ、さつきが正しい。
正しいのはさつきの方なの。
さつきのことをとやかく責めてくる人がいたら・・・悪いのはそっちの方なんだから。」
そんなことを考えているうちに、さつきは自分が何か責められたり裁かれているような気持になって、恐れ始めました。
「さつきは、悪くない・・・。
さつきをいじめるな・・・。
やめて・・・。」
「どうしたの?さつきちゃん?
少し調子が悪いみたいだけど?
何か変わったことでもあった?」
うみちゃんでした。
穏やかで幸せそうな顔をしているうみちゃんをみると、さつきは安心すると同時に、怖くなりました。
こんなことは、今まで感じたことなかったことでした。
「ああ・・・どうしよう。
さつきが、うみちゃんの心を傷つけたり、踏みにじってしまうようなことがあったら・・・。
さつきは、いい子じゃなきゃいけない。
ふさわしい子じゃなければならない・・・。」




