知恵のアプリ
うちゅうせんは、まるで、巨大なテーマパークのようでもありました。
温泉あり、プールあり、遊園地あり、レストランあり、ホテルあり、スポーツを楽しめるところあり、映画館あり、ゲームセンターあり、楽器あり、図書館あり、
おとぎ話の世界、いやそれ以上の世界にやってきたようでした。
無数のアプリが、ありとあらゆる楽しみの体験を提供してくれました。
さつきと、うみちゃんと、そらくんの三人は一緒になって、あちこちを楽しみました。
「はああー、うちゅうにやってきてよかった。サイコー!」
と、目の前で繰り広げられる、光のパレードを見上げながら思うわけです。
無重力の空間で、魚のように、鳥のように、さつきたちは縦横無尽に飛び回り、
くらげのように、フワフワとリラックスしてただよいました。
さつきたちは、なにも持たなくても平気だし、その必要はないということがわかっていました。
心に隠し事をする必要もなく、
恥ずかしいということはなにもありませんでした。
全てのことが、完全に信じるに値するのです。
愛されている、愛されている、
完全に愛されている。
なんとなく、この感覚は・・・そう、
赤ちゃんの時、
いや、もっともっと前、生まれる前に、
ママのお腹の中にいた時のような、
温かな感じ。
夢を見るよりもここちよい、うっとりとした気持ちでした。
永遠に、永遠にこんな時間が続けばいいのに。
そう思いました。
うちゅうせんの中には、たくさんのうちゅうじんがいます。
さつきたちは、また、いろんな星から来た別の星のお友達とも仲良くなりました。
しかし、そのなかで、一人だけとてもとても賢い賢いうちゅうじんがいました。
名前は「ヘビ」といいました。
さつきは、アプリというアプリを無料で使いまくり、うちゅうせんの中を豪遊しまくりました。
さつきは、隅から隅までうちゅうせんの中を探検し、すべてのアトラクションを経験しました。
さつきはひとりで、ふらふらと、うちゅうせんの中で、今まで来たことのない場所に来ました。
「んーーーーと、ここら辺が、うちゅうせんの中心部?
あれ?そういえば、うちゅうせんのなかでも、この場所だけは、行ったことがないな。」
騒がしい音も、ヒーリングミュージックも、人の声も、まったく聞こえません。
不気味なくらいの静けさです。
周りには、誰一人としていません。
うちゅうせんの中央にある何か謎めいたその部屋にはカギがかけられていました。
薄暗闇のなかで、淡く宝石のように輝く「それ」は、
さつきの目には、それまでのどんなアトラクションよりも最高のものに思えて仕方がなかったのです。
そこで、さつきは引き返そうと思いましたが、
あの輝きがどうしてもどうしても気になります。
心臓がどきどきして、触れたくてたまりません。
鍵を開けたくてたまりません。
タブレットを見ると、「知恵のアプリ」が光っています。
「やあ、楽しんでいるかい。」
「ひいいっ!」
さつきは、誰もいないと思っていたところに人がいたのを見て、驚いて、しりもちをついてしまいました。
心臓が、ドラムのようにどきどきとなっています。
ヘビは、さつきが一人きりになった時を見計らって声をかけたのでした。
「ごめんごめん、驚かすつもりはなかった。」
さつきは、そのヘビといううちゅうじんを一目見た時、得体のしれない違和感を感じたのですが、
「どんな人とでも仲良くしなきゃいけない」
「この人から嫌われたらいやだな」
という気持ちから、応じてしまいます。
「う・・・うん、ここは本当に最高ね。
欲しいものはなんでもある。」
「そうか。
そのアプリのおかげなのだね。」
「うん。」
「そのアプリは、すべて使ってはいけないものなのかい?」
「すべて、使っていけないというわけじゃないよ。
うん。あ、でも、『知恵のアプリ』だけは、絶対に使うなって、言われた。
とんでもないことになるから。」
「へえ。なるほど。なるほどね。」
ヘビは、あれこれとさつきを誘惑することを考えていたのです。
このヘビ、実は、「闇のうちゅう」から来たうちゅうじんでした。
もともとは、「うちゅうの源」に一番近い、「光」を運ぶ偉い偉いうちゅうじんであったのです。
ところが、とりわけ、ちきゅうじんのことがある日大嫌いになったのです。
なぜかというと、「源」の存在は、ちきゅうじんを彼らよりも大切なものとして生み出し、大切に扱ったからです。
ビー玉のように小さい星に住むあんなばい菌のような生命体を大切にして、うちゅうを自由にかけめぐり、空間も時間もこえた偉大なこのうちゅうじんを気にかけてくれない悔しさはどれほどのものであったことでしょう。
悔しくて悔しくて、ヘビは「闇のうちゅう」にどっしりと多くのブラックホールを従えてとぐろを巻いて居座ることにしました。
それでも、ちきゅうじんや表のうちゅうに直接手出しはできませんから、
うちゅう人の姿を取って、誰かに巧みな話術で話しかけたり、
うまくいけば、誰かの心に入り込むことすらできるのです。
直接、何もできない代わりに、ヘビは人の中に入り込んで、人を破滅に追いやります。
小学生の時のにいちゃんも、学校の先生も、
国をめちゃくちゃにしたトラヒーも、その敵対者も、ちきゅうじんみんながこの「ヘビ」にやられそうになっていたのです。
「うむ。たしかに、どのアプリも使ってはいけないとはいわれなかった。
そして、知恵のアプリだけは使うなと言われた、と。
では、うちゅうせんの≪中心部にある≫アプリは使っちゃいけないと、言われたのかい?」
さつきの頭の中に、ヘビの声が響きます。
「やりたいことはやれるときにやっておくべきだよ。
今、このタイミングでこの場所に来たということは、何か深い意味があるということ。
これは、逃してはならないチャンスだ!
今を逃したら、もう二度とチャンスは戻ってこないよ。
さつきちゃん、あなただけが、何のとりえもない平凡な留学生じゃないか。
他のみんなに差をつけるためには、ここはやはり、勇気を出して取るべきなんじゃない?
勝利の女神は前髪しかないんだよ。」




