表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
dholes   作者: 雪城ぴゅあ
1/1

人形師の魔女のアトリエ

世界は平和。

だけど、私の住む世界は寂しい世界だ。

彼氏も居ない。

頼れる友達も居ない。

年齢イコール彼氏いない歴。

そうして今に至る。


何年か、社会人として働いて、今の会社にもそろそろ慣れて来た頃だ。


けれど、相変わらず彼氏は居ない。

家に帰っても、寂しくて、一人でテレビを見たり、お酒を飲んだりしていた。

そんな日々を過ごす私。

目を覚ましたら、顔を洗い、会社に行く。

帰ってきたら、途中で買ったコンビニ弁当を食べる。

食べたらお風呂に入り、適当な時間になったら、眠る。

休日は、学生時代の様に遊べる友達も居なくて、折角の休日をだらだらと特にすることもなく、テレビを見たり、お菓子を食べたり、ネットで買い物をしたりなどして、引き篭もって過ごしてしまう。

友達などは、益々居なくなっていく…。

結婚したり、みんな彼氏を作ったり、幸せそうだ。

SNSを開いても、彼氏と旅行に出かけた〜とか、そんなのばかりだった。

だから、私はそれを見たりしながら、彼氏も居らず、一人、毎週のようにこんな生活を繰り返していた。


いいな。羨ましいなとか、思いながらそんな風に過ごして居た。


職場には男性は少なく、ほぼ既婚者。独身であっても、大体は彼女が居るし、付き合える対象ではなかった。


私は、いつになったら、一人から解放されるんだろう?


とか、何とか思いながら、資料をファイルにまとめたり、コピーしたりなどの雑務をこなしていた。


「お疲れ様です」と言いながら、ニコニコ作り笑いを浮かべながら、人形の様に、机の上に珈琲を置く。

多分、今の私は、仕事をこなすだけが生き甲斐のようなもの。


そうでなければ、私の生きる意味は何処にあるというのだろう。


特別に趣味があるわけでもなく、休日は予定もない。

ただ、空いた時間をいかに潰すかということばかり考えている。


つまらない女なのかもしれない…。


帰り道、スーパーに寄って、お惣菜を適当に買い物かごに入れた。

野菜でも何でも、お酒のつまみにはなるでしょう…

最近では、食べる物にも拘りが無くなって来ていた。

とりあえず、食べられれば何でもいいや程度になっている。


だって、どうせ一人だから、料理しても余るだけだし。

誰が食べてくれるわけでもないし…


うん、これでいいの。


捻くれてきてるのが分かる。

以前は、レシピ本を見ながら、料理とか頑張ってた。


いい女になるんだ〜って。

いつか、彼氏を作って食べて貰うんだって。


だけど、現実はそんなに甘くなかった。


顔も悪くはないし、スタイルは普通。

だけど、出会いがない。

職場の男性には、既に彼女が居て、付き合える対象じゃない。

だから…、私は変わらず一人なんだ。

いつまで、一人で居たらいいのかな。

彼氏は出来るのかな。

不安な気持ちばかりが募っていく…

周りはみんな彼氏を作ったり、結婚したりで幸せになっていく。

一人だけ、閉鎖空間に取り残されるみたいな感覚。


(現実を見ないフリしながら生きるしか…ないのかな)


一人、落ち込みながら、夕暮れ時の道を歩いていた。


「はぁ…」


大きな溜息をつく。

(私、大丈夫なのかな…)


ふと顔を上げると、洋館みたいな建物が現れた。


(…こんなお店、あったっけ?)


いや、知らない。

なかったはず…

気づかなかっただけ?

でも、外観はアンティークでおしゃれな感じのお店だった。


(入ってみようかな…)


折角、おしゃれなお店と巡り会えたんだし、入って少し見るくらいならいいよね?


私は、勇気を出して店内へと、足を踏み入れた。


「来たわね、お客様。

はじめてのお客様って言ってもいいわ。

まだ、誰も入れた事はなかったの。

だけど、貴方はちょうどいいわ」


ゴスロリを着た店員が出てくる。

見た目は魔女って感じだった。


「あの、貴方は?」

「ふふ、嬉しいわ。

お客様が来てくれて、然も貴方は私が探していたお客様に相応しい。

だって…

兎に角不幸そうで、悲しげな顔してるもの。」

「あ、あの…」


っていうか、なんか今、物凄く失礼なこと言われた気がするんだけど…


「あら、いけないわ。

質問に答えてあげなくちゃね?

私はね、このお店の店長のようなもの。

人間界では、そうなんでしょう?」

「人間界では?」

「ええ、私はね、人形を作る魔女なの。」

「魔女…?」

「そうよ、つまりね、人形を作って売る魔女ってところ。

まぁ、まだまだ完成品とまではいかないのだけれど…」


店内には、多くの人形が並んでいる。

どれも男性の人形だった。

顔立ちは整っていて、イケメンと言えるだろう。

小さな紫色のテーブルの上に、ボタンや花の形をした飾り、布の切れ端やら、色々な材料が無造作に置かれていた。


「机が汚くて申し訳ないわ…

さっきまで、作業中だったのよ。」

「そうだったんですね…

いきなり来てすみません」

「いやね。謝らないでちょうだい…

私としては嬉しいのよ、初めてのお客様なんだから」


店主は、魔女だというけれど、本当なのだろうか?

それとも冗談?


「あの…!

魔女っていうのは、本当…」

「ねぇ!貴方、イケメンは好き?」

話を遮り、イケメンが好きかと尋ねられた。

そして、そのまま返事は聞かずに店の奥へと消えてしまった。

どうやら、人の話は聞かない人らしい。

だが、質問はしてくる…というスタンス?

店主は、ある人形を抱えて、此方に戻って来た。


「あ、えっと…嫌いではないです」

「何だか、煮え切らない返事に聞こえるわね。

まぁ、別にいいのだけれど?」


相当、大きな人形だし、持ち運ぶのは大変だろう。

(実際の人間と同じくらいの高さもあるし、大変だよね…)


以外に力持ちなんだなぁ。

見た目は華奢な身体なのに、驚いた。


「今、華奢な身体なのに力持ち…とか思ったんじゃない?」

「えっ⁉︎」


(心が読めるの?)


「読めるの〜っていうよりも、魔女だからよね。

普通の会話みたいに分かるものよ。

さて、貴方にこの子を勧めようと思うのだけれど、どうかしら?」

「この子…?」

「私が抱えている子よ。

イケメンでしょ?

貴方も気にいると思うのだけれど」


うっかり、スルーしちゃったけれど、魔女が魔女って教えてもいいの?


「まず、商品について話をする前に、貴方は私に対して興味津々みたいね。

いいわよ、まずは私について話してあげるわ。

私ったら、美人だし、スタイルはいいし、綺麗だからモテモテなのよね。

貴方が私に興味を持つのも、仕方ないのかもしれないわ。」


ふふっと笑って、自信満々な表情で、自身の頰に手を添える魔女…


「さっきも言ったけれど、私はね、魔女。

寂しい想いをしている女性の前に現れる、人形師の魔女が私よ。

そして、貴方の足元にいるのが…」

足元?

足元を見ると、いつの間にか黒猫が居た。

(いつの間に⁉︎)

「ふふ、驚いているわね。

私の使い魔よ。

漸く、信じて貰えたかしら?」

本当に魔女らしい…

魔女に黒猫は、定番だよね。

「名前はなんていうのですか?」

「リーチェ。

りーちゃんって呼ばれてるわ」

「りーちゃん…」

「そんな猫よりも、こっちの人形の方がいいでしょう?って痛!」


りーちゃんが、魔女の手を引っ掻いた。

そんな猫という言葉が気に入らなかったらしい。


「ちょっと、リーチェ⁉︎」

りーちゃんを叱るが、りーちゃんは知らん振りしている。


「可愛い雌猫ですね、りーちゃん。」

「雌猫じゃないわよ、リーチェはオスよ。」

「へ?」

りーちゃんに威嚇されてしまった。

まさかのオスだったなんて、りーちゃんと呼ばれているなら、メスなんだとばかり…


「所で、本題。

今は、この人形を千円で貸しているの。

どうかしら?」

「千円で?」

「そうよ」

一万円でも足りないくらいだと思う。

庶民の私なんかが手を出せないくらいの値段が付きそうなものだ。


けれど、千円なの?


「あの、どうして千円で?」

凄く立派な人形だし、材料費も高そう。

瞳だって本物みたいに見える。


「今は、未完成品が並んでるのよ…

けれど、不良品な訳じゃない。

ただね、試してくれる人を探していたのよ。」

「試す人?」

「そうよ。

試さなくちゃ効力がどの様に発揮されるか確認が出来ないもの。

私の人形は、絶対に人を幸せに出来る。

そういう人形だし、力があるわ。

けれど、いつ切れるか分からないの。

だから試さなくちゃならないのよ」

「サンプルみたいな感じですか?

モニター的な…」

「そんな感じよ。

今はまだデータが無い状態。

人間との生活が始まるとデータが私の所に届くシステムなのよ。

序でに教えてもいいわ。

魔女はね、其々にお店を持ってるの。」


(そうなんだ…)


魔女とか、使い魔とか言われて、既にパンクしそうなんだけどね。

そもそも、現実に魔女が実在しているなんて。


「不思議な事が沢山起きて、付いていけないって顔してるわね?

そういうの嫌いじゃないわよ、魔女だからこそ、人を驚かせるのもお仕事だもの。

魔法の大道芸でも一発見せたい所だけど、それをするのはまたの機会にするわ。」


大道芸⁉︎

結構、お茶目な魔女らしい。


「お茶会でもする?

って、そんな話でもなかったわね。

久々にヒトとお喋りできて嬉しかったからつい…」


魔女は、頰を赤らめながら態とらしく、咳払いした。


「それでね、私の人形なんだけど、レンタルって感じなの。

理由は、糸が切れたみたいに切れる可能性が有るからよ。

いつにそうなるかも分からないの」

「なるほど…」


レンタル人形って事らしい。


「という訳で…、

今はお試し期間で価格は千円で、安く提供しているの?どうかしら?

貴方には、私の人形がぴったりな気がするのだけれど…」

「千円なら、買います!」

「ありがとう、だけど一つだけ忘れないで欲しいわ。

この子の命の糸はいつ切れるか分からないの…

そこで、レンタルはおしまい。

だからこその千円でのレンタルだという事を忘れないで…」

「はい。」


千円で貸して貰えるなら、試してみたいと思い、私は契約をした。


「最後の説明をするわ。

一度切れた命の糸は、人形師の魔女でも、紡げない。

つまり、切れたらこの子は2度と…」

「大丈夫です、人形だって理解していますから。」

「貴方…あまり信じていないようね。

本当よ?本当なんだから!

生きてるの、私の人形は!」

魔女は、プクッと頰を膨らませて可愛く怒る。


「貴方が家に帰ったら、この子を贈るわね。」

「はい!」

「それと、このお店の名前はdholes。

ただ、普通には来れないお店。

今日は偶々開店していただけなの。

何かあれば、私は察知出来るから、店を開けるかもしれない…

その日までのお別れ。

また会いましょう?」


魔女のお店で、私は生きているとされる人形を購入した。

その人形を購入した店名は、dholes。

魔女が店主で、その魔法で作られた人形を売る館である。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ