115.帰り道
外に出ると辺りは真っ暗になっていた。少し体をほぐしながら歩いているとあることを思い出した。
「そう言えばユアに報酬を忘れていたわね」
「い、いいよ。怪我を治してもらったから」
と言ってユアは報酬を受け取るのを拒んでいた。確かに怪我を治したけど上手くいく保証とかも無かったから気にしなくてもいいのにと思ったから渡そうとしたが頑なに受け取ろうとしなかったので仕方なく諦めることにした。
「……わかった」
そう言うとユアがようやく安心したような表情を見せた。そこまで拒まなくてもいいのに……。でも、治癒魔法の実験を手伝ってくれたからお礼をしたいなぁ。とそんなことを思っていた。
それからこの前ユアと別れた場所に来た。
「じゃあ私はここで」
「家まで送っていこうか?」
「い、いいよ。レーナちゃんも疲れているだろうしここで」
「私は構わないけど?」
「大丈夫だから……。その今日は、ありがとう」
と言ってユアは細い路地裏へ消えて行った。
「ユアもいろいろあって疲れていると思うけど大丈夫かな……」
とユアが消えて行った路地裏への道を見て悩んでいたが結局気になり私も路地裏へ足を伸ばした。
ユアを見かけなかったら軽く回って帰ろう。そんなことを思いながら歩いていたら路地裏で座り込んでいる人を発見する。その人に近づいていくと、あれ? ユアだよね? そんなことを思いながら後ろから近づき声をかける。
「やっぱり大丈夫じゃなかったの?」
「え? れ、レーナちゃん……」
ユアは後ろを振り返って私を認識すると若干頬を引きつらせながら気まずそうに視線を下げていた。よく見ると汗もかいている。大丈夫なのかな?
「そんなところで座り込んでどうしたの?」
「それは……」
と言って言い淀んでいたユアだったが私がユアから視線を外さないで見ていたら諦めたように話し始めた。
「その、安心して力が抜けたというか……」
まぁ、あれだけのことがあったから分からなくもないけど力が抜けたってことは立てないの?
「もしかして立ち上がれないの?」
そういうとユアがコクリと頷いた。
「そうなの……。場所を教えてくれたら送って行くよ? それとも私の宿に一緒に来る?」
「いや、え、その……」
と言って断ろうとしていたが今の状態を鑑みてそんなこともできないと思ったようで何かを考えているようだった。
「レーナちゃんに迷惑かけるかもしれないけど本当に大丈夫?」
「気にしなくてもいいよ。それでどうするの?」
「その、レーナちゃんの宿に行ってもいいかな?」
軽い気持ちで同じ宿に来る? と聞いたけどユアがそんな選択をすると思っていなくて驚いた。
「ま、不味かった……?」
と不安そうに聞いて来たので慌ててそんなことはないと伝えた。
「そんなことないよ。でも、ユアが私の宿に来るという選択をしたから少し驚いただけ」
「そ、それは……。孤児院には私より年下の子しかいないからこんな状態で帰っても却って心配を掛けちゃうし仕事も増やしちゃうかもしれないと思って……。あ、でも、レーナちゃんにそんな仕事を増やすだけじゃなくてちゃんとお礼もするよ!だからお願いします」
「どっちに転んでも心配されると思うけどね?」
と言いながら苦笑いした。
「そ、そうかも……。それなら、やっぱり私の家まで送ってもらってもいい?」
「私の宿に連れて行くね?」
「え?」
「気にしないから来たら? お姉ちゃんとして元気な姿で居たいのでしょ?」
そう言うとユアが顔を赤くしていた。照れているのかな? そんなことを思いながらユアを背負うことにした。
「ユアを背負おうと思うけどしっかりと掴まれる?」
「た、多分」
「それじゃあ」
と言ってユアを背負った。
「落とさないように気をつけるけど揺れに関しては我慢して欲しいかな?」
「わ、わかった。(……レーナちゃんの背中、温かい)」
「? ユア何か言った?」
「な、何でもない!」
「そう?」
そうして私は宿に向かって歩き出した。




