2.昇格試験 (2019/7/21)
エミリアさんが連れて来た場所は、ギルドに隣接している広い場所だった。中には、少ないが人がいる。
「ここはギルドの訓練場よ。ここで試験を行うわ」
そう言って隅の方に置いてあった樽の中から槍と剣を取り出した。
「これは、訓練用の武器で刃を潰してあるからこれを使ってやるわ」
エミリアさんがそんな説明をしているとき、後ろから誰かが入って来た。
「ギルマス!?」
「どうしたゾルト?」
そう言って入って来たのは、先ほどの3人組だ。するとエミリアさんは、一瞬嫌そうな顔をしたが直ぐに先ほどと変わらない表情した。そんなエミリアさんの様子をみてやっぱり面倒臭い人なのか……。と思い何事もないといいな……。とそんな期待をしていた。
「あら、珍しいわね? ルノジス達がこの訓練場に来るなんて?」
エミリアさんの言葉にはやや棘を感じる。一体この人達はエミリアさんと何があったのかな? と思いながら、やっぱり面倒に巻き込まれるのね……。と思った。
「なんとなく来てみただけだ。ギルマスこそどうしてここに?」
「……これから昇格試験を行うのよ」
エミリアさんはあまり言いたくはなさそうに言うとルノジス? という人が少し驚いたように私をみてからエミリアさんをみる。
「こんな時間からか? しかもギルマスがやるっていうことはDランクのか?」
「……違うわよ。Dランクの昇格試験ならばこんな時間から始めることは、ほぼないわよ」
するとルノジスは怪しい笑みを一瞬浮かべた。なんか嫌な予感しかしない……。
「Hランクが試験を受けると言うわけですか……、そんなやつのためにギルマスが試験をやるか?」
「仕事よ」
何だかよく分からないけどエミリアさんの機嫌が悪くなっているような……。というかなぜこんなことになっているの? ただ試験するだけなのに……。と思いながら勝手に突っかかってきた彼等のことをみていた。みた感じ、鍛えてはいなさそう。どちらかって言うと力任せにいろいろやって来たようなタイプに見える。まぁ、こんなことをするくらいだから不思議だとは思わないけど。
「そうか。なら、俺がこの見習いの相手をしてやろう。さっさとやろうぜ? そこの餓鬼?」
とこちらに視線を向けてきた。背筋がゾクっとする嫌な視線を感じる。
「はぁ」
と困りながらそう言ったが返事をしてしまってから気付いたけど、この場で返事をするのは、よくなかったと思ったがもう遅い。
「じゃあ早速やろうぜ?」
「ちょっと待ちなさい」
「なんだ? ギルマス?」
そう言って少し勝ち誇ったような顔をしている。
「あなたが勝手に決めないでくれる?」
とエミリアさんの眉が少しピクピクしていた。どうやら凄くイライラしているみたいだ。まぁ、好き勝手にこの人達がやるからだと思うけど、私もうっかり返事をするなんて迂闊なことをしたかも……。
「いいじゃねぇか。どうせ誰かが戦うだろ? それにそこの餓鬼もやるって言ったじゃねぇか?」
あ~あ、やっぱりそうなるのか……。軽く戦闘して終わらせようと思ったのに……。
「それは、反応に困っていただけでしょ?」
「どんなことがあろうと返事をしたらやるに決まっているだろ?」
「……はぁ~、分かったわよ。ちゃんと手加減しなさいよ?」
「ふんっ」
と言ってルノジスという人は、剣を取った。どうやらエミリアさんが渋々折れたようだ。ほんと不本意そうだが……。というかなんでギルドマスターの意見を無視するの? ギルドマスターはここのギルドで一番偉い人なんじゃないの? と思ったが今は、試合に集中すべきかと思い意識を切り替えることにした。するとエミリアさんがこっちに来て槍を渡してきた。
「なんかごめんね? こんなことになって……」
「いいえ、大丈夫です」
「危なかったら私が止めるから試合に集中してね? というかあいつをボッコボコにしていいわよ?」
「それは……。試合をしてみてから考えます」
流石に最後のセリフに対してどう答えようかと少し困った。あの発言は、凄くマジっぽそうだったし……。まぁ、エミリアさんがそう言っているから別にやっちゃってもいいってことだよね?
まぁ、とにかくエミリアさんとルノジス達と凄く仲が悪いということが分かった。そんなことを思いながらエミリアさんから槍を受け取ろうとしているとルノジスからこんなことを言い出した。
「おめぇが持っている武器を使え。慣れている方がいいだろ?」
と口先では、少しでもいい動きができるよう自分の武器を使えばいいと言っているが目をとてもギラギラさせながら言っているから明らかに何かしようと考えているとしか思えない……。と言うかこの人隠す気全然ないよね?
「何かあったら困るから訓練用にしておきなさい」
「はぁ? 餓鬼の攻撃なんか当たるわけねぇだろ? そんなこと気にする必要ねぇからさっさと構えろ」
エミリアさんは、ルノジスに注意をするが当の本人は、聞く耳を持たずにさっさと始めようとした。
「何かあってもギルド側は、責任を持たないわよ?」
「ふんっ、別に構わん。どうせ何もできずに終わるからなぁ?」
それは、この試合で何かすると言う宣言なのでは? とそんなことを思ったがもともとやる気のようだし気にしても仕方ないと思い自分の武器を持つ。
「手加減はしなさいよ」
「ふんっ」
とエミリアさんは、諦めながら再度注意を入れたがルノジスは聞く耳を持たない。そんなことがありながら剣を構えて来たので私も、5mぐらい離れた場所で構えた。