180.ユアの過去
それからしばらくして村長さんが口を開いた。
「……ユアに辛いことを聞くことになるが両親が亡くなってから孤児院に預けられることになった経緯を聞きたい。教えてもらえないだろうか?」
「は、はい。えっと、お母さんとお父さんが亡くなったあとは、しばらくは家にあるものを食べて過ごしていましたが、食べ物が無くなって近所のおばさんの所に行きました」
「ビアンカの所か?」
するとユアの話を聞いていた村長さんがそう言うとユアが困った顔をしていた。
「えっと、その、名前までは憶えていなくて分かりません。でも、家から一番近いお家に行ったのは覚えています」
「……ビアンカの家だな」
確かにあの家の近くはビアンカの家しかなかったはず。あとは少し離れていたはずだから。と、そんなことを思っているとユアがあいまいな笑みを浮かべながら話を進めた。
「そ、そうですか……。えっと、その人に食べ物を分けて欲しいとお願いしたら物々交換ならいいと言って、家にある小麦を持っていきました。そしたら『どれだけある』と聞かれたので家にたくさんあると言ったら『案内しろ』と言われて小麦が保管されていた倉庫に連れて行ったら、一袋でパン1つと交換してくれると言われました」
「1袋でパン1つってどれくらいの袋の大きさでパン1つもらったの?」
「えっとこれくらいの袋に両手程のパンです」
ユアが言った大きさは10キロのお米くらいの大きさだった。それに対して両手程のパンとか詐欺過ぎない?
「新手の詐欺ね」
私がそう言うとユアが苦笑いしながら頷いた。
「今考えるとそうだね? あの時は小麦の袋でどれだけパンが作れるのか分からなかったから気にも留めなかったの」
もしかして、ビアンカはユアの家が保有していた小麦の量を見て、巻き上げるつもりでそう言ったのかもしれない。しかも、当時5歳の子供じゃあ、分からないことが多いはず。ご飯に困っていたからそういうものだと納得してしまうかもしれない。とそう思った。
「やっぱりあいつらは昔からおかしかったんだなぁ」
と納得していた。あんなことができる人が最初からまともなわけはないか。と思いながらユアに続きを促した。
「えっと、小麦とパンを交換した後は小麦が無くなるまで続いて、無くなったときには孤児院の迎えが来ました」
「……酷い奴らだ」
私がそう呟くとなぜか村長さんが頬を引き攣らせながら同意をしていた。
「そ、そうだな。とりあえず、ユアが村に居る間どういう生活をしているのかはよく分かった。ユアは私に聞きたいこととかはあるか?」
「私が暮らしていた家を見たいです」
「それくらいなら構わないがその、ユアが孤児院に行く原因になった人が家の管理をしていたから様変わりしている可能性があることは理解してもらいたい」
「……分かりました」
「私が連れて行ってあげようか?」
「済まないが頼めるか? 私はこれから少しやることがあるから」
村長さんはそう言ったけど、後半の台詞にはやや怒気が含まれていた。おそらくビアンカの行いや様々な問題について怒りが心頭しているのだろうと思いながら頷いた。
「それじゃあ、家の確認を終えたらまた戻ってきてもらってもいいかな?」
「分かりました」
そう言って私達は村長さんの家を後にした。




