6.ゼロスさん? (2019/9/15)
「もしかしてレーナちゃんは、ユアのことを知っているの?」
と急にエレナさんの目つきが変わっていつも以上に真剣に聞いてきた。
「うん。さっき森で会って……」
「それで?」
「目の前でユアを蹴ったり殴ったりしていました。様子を見ている限りいつも似たようなことをしているように思いました。そんな酷い扱いをしてもギルド側は、何も言わないの?」
そう聞くとエレナさんが困ったような表情をしていた。
「そこまで悪質だとギルドからも何か言わないといけないけど、ちゃんと確認できてさらにギルド職員が目撃しないとなかなか難しいの」
「そうなの」
そうだとするとユアの現状を変えることはとても難しいと思う。どうしよう? でも、エレナさんは、何か知っていそうだよね?
「エレナさんは、そのパーティのことどれくらい知っているの?」
「そ、それは……。そこまで詳しくはないけど、ユアちゃんがいじめられている位は、分かるけどそれ以上は、分からない。だけどあのパーティは、もともとあまりいい噂を聞かないかな?」
「もしかして孤児院の出身だからとか?」
「そう言うことは、ないと思うけど今のパーティじゃなくて前のパーティの時に少しね?」
とエレナさんが少し困った様子を見せながらそう言った。やっぱり彼等に問題があったのか……。
「どんなことがあったの?」
「それは……」
と言ってエレナさんが言い淀んでいた。何か言えない理由でもあるのかな?
「言えない理由でもあるの?」
「教えたい気持ちもあるけど、ギルドの規則に引っ掛かるかも知れなくて……」
そこで引っ掛かるのか……。確かに他のパーティについて聞いてなんでも答えたら問題になりそうかも? でも、さっき話したことは、いいのだろうか?
「でも、少し話していたよ?」
「それは、個人的に思っていることなので問題ありません」
流石にその辺のことは、考えて話していたのか。どうやって聞こうかな? 冒険者に知り合いとかいないし……。そんなことを思っていると後の方から人の気配がして振り向くと大きな男の人が受付の方に向かって歩いて来た。厳つい顔をしたその男性は、私と目が合いこっちに向かって歩いてきた。するとエレナさんは、その男性のことを知っているようで声を掛けた。
「ゼロスさん?」
「よぉ! エレナの嬢ちゃん久しぶりだな」
「お久しぶりです。今日、戻って来たところですか?」
「あぁ、ところでこの嬢ちゃんと何を話していた?」
「それは……」
と言ってエレナさんは先程、話していたことをその男性に話し始めた。
「なるほど。それで嬢ちゃんがそのことが気になっていると」
その男性はエレナさんの話が終わるとそう言って私のことをまじまじと見て来た。話の内容を聞いているときにその男性の様子を窺っていたけど、悪い人では、なさそう。ただ直感的にこの人は、強いと思っただけ。この男性は何者なの?
「どうした嬢ちゃん? 考え事か?」
「何でもない」
「それで知りたいのか?」
「え?」
もしかして教えてもらえるの? と思ったがこの人のことを良く知らないのに大丈夫なのかな? と思った。
「? どうした」
「……エレナさんこのおじさんはどんな人なの?」
「お、おじさん……」
と先程話しかけていた人が何か呟いて落ち込んでいた。どうしてかは、分からないけどとりあえずどういう人なのかエレナさんに聞いたのだがエレナさんも目を白黒させながら私とその男性を見ていた。しばらくして私の視線に気付いてコホンっと咳払いをしてから話し出した。
「レーナさんは、彼を見るのは、初めてでしたね。この人はこの街のBランク冒険者のゼロスさんです。レーナさんも何か困ったことがあれば彼に聞くといいですよ? この街でもトップクラスの冒険者ですから」
なるほど、ゼロスさんがBランクということなら強いと思ったのも納得。
「それならゼロスさんに教えてもらおうかな?」
「お、おう、別に構わんぞ。どこで話す?」
「……個室以外の場所なら」
「それなら、あそこのテーブルで話そう」
と言ってゼロスさんの視線の先にあった場所は、ギルド内にある酒場の端の席。そこならいいかも。そう思ってそのテーブルへと移動した。
テーブルに座ってからゼロスさんから聞いた話だと、ユアと組む前のパーティメンバーとは、それなりに仲良くやっていたということを聞いた。でも、冒険者の仕事に慣れてきた頃からちょいちょい問題を起こすようになって、パーティメンバーとの関係が悪化したらしい。なんでも問題を起こした相手は、一般市民だったらしくてそのパーティメンバーが謝りに行ったり、怪我をさせたら治療費を払ったりしていたため、彼等の報酬を減らしていたということだ。でも、それだけでは足りなくてパーティの予算を切り崩していたらしい。
そんなことが何度も続いて、何度も怒ったりしたらしいが反省が見られずに相手が悪いと言い出していたそうだ。そんなときに彼等が自分たちの報酬が少ないことに気付いて揉めた。一方、彼等は自分が起こした不祥事なのに自分たちの報酬が少ないことはおかしいと言って凄く揉めて、少なかった報酬を受け取ろうとしたけど、受け取れず彼等そのままパーティを抜けたらしい。
その後は、女の子を連れて……と後は、ユアから聞いたような内容だった。
ユアと組む前のパーティメンバーの人達は、その後すぐDランクとなり現在は、Cランクになっているらしい。でも、そのパーティは後から入ったメンバーが問題を起こしているらしくて、初期メンバーが手を焼いているとか何とか……。
と私が聞きたかった内容と彼等の現状についても聞くことができた。その、初期のメンバーは悪い人では、ないみたいだけど人を見る目は、ないということがよく分かった。
「まぁ、こんなもんでいいか?」
「うん。おじさんありがとう」
「お、おう……。それじゃあ俺は、帰るが何か困ったことがあったら聞きに来な。俺にできることなら力を貸してやる」
そう言ってゼロスさんは、帰って行った。よく分からないけど落ち込んでいたような気がしたのだが気のせいかな? とそんなことを思った椅子に深く腰を掛けながらこれからどうしようかと考えていた。
「私にできることか……」
そう思っていろいろ考えてみたがいい案が思いつかない。下手に首を突っ込んで今の関係をさらに悪化させたら意味もないしなぁ……。
「今の私じゃ困っているときの手助けぐらいしかできないか……。まぁ、何もしないよりは、手助けをしてあげた方がいいかな?」
そう思って何かいい方法を思いついたらユアのことを考えよう。そんなことを思いながら私はギルドを後にして宿へと戻った。




