1.絡まれる? (2019/9/8)
それから3日後の朝。今日は、久しぶりに依頼を受けようと思い、冒険者ギルドに向かうことにした。それまで何をしていたのかというと野営道具を揃えたり、宿を10日分延長したり、森で魔物を斃したりして過ごしていた。そのためギルドに行って依頼を受けたりはしていなかったから久しぶりに何か依頼を受けようかな? と思った。
そうして今、ギルドにいるわけだが……。
「おい、お前」
と先ほどから何度も声を掛けられている。最初は人違いなのかと思って気にしていなかったのだが、明らかに私に声を掛けているようで、チラッと声がした方をみるといかにも悪ガキそうな感じの男の子がそこにいた。明らかに面倒事だよなぁ~。と思いながら聞こえていない振りをして去ろうとした。
「おい! 聞いてぇんのか!」
すると後ろから掴もうとしてきたので躱す。するとその男の子は、手は空振り転びそうになっていた。
「お! とっと……。てめぇ!? 気付いているならこっちを向きやがれ!」
なぜ知らない人の言うことを聞かないといけないの? と若干イライラしながらもさっさとこの場を去ろうとしていると男の子が私の前へやって来て、腕を組みながら私を見下ろしてきた。
「……逃げるんじゃねぇ」
「邪魔」
「はぁ? てめぇ、新人だろ? 先輩冒険者にどういう口の利き方をしてぇんだ? 分かってぇんのか? あぁ!?」
こいつ何、言っているの? そもそも知り合いでもないのに……。
「そんな人、私にはいません」
「冒険者は先輩の言うことは何でも聞いて当たり前なんだよ。それなのに口答え何かしやがって。……だが俺は心が広い男だからそんなお前でも俺達のパーティに入れてやる。感謝しろ!」
と明らかに上から目線でそう言ってきた。誰がお前みたいなやつがいるパーティに入るか! と大声で叫びたかった。
「結構です!」
そう断って私はさっさとその場を離れた。因みに男の子は、というと呆然としていた。もしかしたら断られると思っていなくて固まっているのかもしれないけど……。
まぁ、そんな奴は、放っておいて依頼の掲示板を見に行く。何かいい依頼はないかな? と思いながら探していると、とある依頼が目に入った。
街周辺の森の調査依頼 報酬は、最大で銀貨5枚。
街周辺の森の調査にしては、依頼料が高い気がするけど、よく街の周辺で狩りをしているからついでにできそうだと思いその依頼を受けようと思いその依頼書を剥がして受付へと向かう。
エレナさんがいるカウンターに並び、順番が回って来ると先ほど選んだ依頼を渡すとエレナさんが処理をしてからこんなことを言って来た。
「レーナさん、森の様子が近頃おかしいので気をつけてくださいね?」
「分かった」
エレナさんが注意するくらいだから森の様子がおかしいのだと思う。でも、私がこの街に来てから変わっていると感じたことがないため、どんなことに気をつければいいのか分からないからできる限り周囲に気をつけながら探索をしようと思いながらギルドを後にした。
ギルドを出た後はそのまま森へと向かい、森の中でゴブリンやウルフを狩っていた。ただ、以前来たときよりもゴブリンを多く狩っている気がする。
「森の調査依頼があるからなのかいつもよりもゴブリンの遭遇率が随分高いかも?」
そんなことを思っていると他のパーティが近くにいるようで戦闘音が聞こえてくる。
「あんまり近くにいると何かあるかもしれないからとりあえずこの場は離れようかな?」
そう思ってその人達から離れるように歩き出した。
それから狩りをしながら森の中を歩いていると昼頃になったので昼食を取っていると近くの茂みがカサカサと揺れた。
もしかしてゴブリン? そう思って魔法で確認をしてみるがいつもと違う反応が返って来た。
「(? 何? とりあえず4つ反応あるけど……)」
そう思っていると茂みの向こうから小さな女の子が顔を出してきた。茶髪のセミロングヘアで服は、結構よれよれな感じだ。すると私と視線が合った。
「あ」
彼女が声を漏らすと後ろからガサガサと3人が出てきた。男の子が2人と女の子が1人だ。みんな先ほどの女の子よりも大きい。服は、使用感は、あるが先ほどの女の子みたいによれよれではなさそうな感じの子達だ。
そのうちの男の子の1人が最初に茂みから顔を出した女の子に近づくといきなり女の子を殴った。
「きゃあ!」
女の子は悲鳴をあげながら地面に倒れた。え? 同じパーティメンバーのはずなのにどうしてそんなことを!?
「何勝手に声出してやがる? さっきまで話すなと言っていたのによぉ!」
と言って女の子に蹴りを入れた。すると女の子は、小さく悲鳴を上げながら顔を青くしていた。
「そ、その、ごめんなさい」
と言って起き上がり頭を下げた。
「それだけか?」
「そうだ! そうだ!」
「ユアのくせに生意気ねぇ? ちょっと教育が必要じゃない?」
女の子がそう言うと頭を下げていた女の子の頭を足で踏みつけた。すると他の子達がいろんなところを殴り女の子は地面に転がる。すると今度は3人がかりで蹴り出した。
いきなりのことで驚いて呆然と眺めてしまったがこのまま放置をしてはいけないと思った。これでは、ただの弱い者いじめだ。
そもそもこの子達は同じパーティメンバーじゃないの? と思ったがユアという女の子の身が危ないと思い。止めに入る。
「あなた達、少し声を出したからと言ってその子にそんなことする必要ないでしょ!」
そういうとみんなが蹴るのをやめて一斉にこっちを見るとなぜか驚いた顔をしていた。その内の1人の男の子を見たとき何だか見覚えがあるような……? と思ったけど思い出せなかったので気のせいだと思うことにした。
「な、何だ。お前には、関係ないだろ! パーティの問題だからな!」
え、本当なの? 彼女は本当にあの子達と一緒にパーティを組んでいるの? いや、まさか……、ね? どうせ、今日だけ組んだパーティなのだと思った。
「どうせ、今日組んだばかりのパーティでしょ?」
そう言うと真っ先に殴っていた男の子が「フッ」と鼻で笑って来た。まさにそう思っていたからその反応が凄くムカつく。
「今日組んだばかりのパーティじゃねぇんよ。もう3年は経っているからなぁ! どちらかっていうとベテランのパーティと言ってもいいんじゃねぇ?」
「そうよ! そうに、決まっているわ! 活動始めて結構経っているから。それに、私達Eランクのパーティなのよ?」
「もうそろそろDランクに上がれると言われているけどな? まぁ、上がれない理由は、そこの女のせいだが……」
ともう1人の男の子が忌々しそうにユアを見ながらそう言った。こんなチームワークの欠片も感じられないパーティがEランクというのにも驚きだがDランクになれるかもしれないということは、流石に嘘でしょ? こんなパーティがDランクになったらギルドの評価基準がおかしいに違いない。ただ、変な所での連携だけは、上手いのかもしれない。とそんなことを思った。まぁ、流石にそんなことはないと思うけど……。
私が彼等のパーティに呆れていると女の子が私を見て怪しい笑みを浮かべた。
嫌な予感しかしない……。
「あなた、干し肉を食べているわね? 私に寄越しなさい」
こいつ何言っているの? 私が買って食べている物をなぜ渡さないといけない?
「嫌よ」
「はぁ? あんた何言ってぇんの? 私の言ったこと、わ・か・る? さっさと寄越しなさい!」
何なのこいつ? 意味が分からない。相手をするだけでも頭が痛い……。とそんなことを思っていると慌てた声で私達のやり取りを止めに来た人がいた。
「ちゃ、ちゃんと食べ物持ってきているから」
そう話していたのは先ほどまで蹴られていた女の子、確かユアだったかな? がそう言って持ってきたと思われる干し肉を出してきた。
そうしたら先ほどまで何か言ってきた女の子が「チッ」って舌打ちしてその干し肉を引っ手繰るように取ると近くの石の上に座って食べ出した。すると他の男達も同じように干し肉を取っていくけど4つあったはずの干し肉が彼女の手元から全部消えていた。
「ちょっと彼女「いいから」」
彼等に彼女の食べ物のことについて言おうとしたらユアが声を被せて遮ってきた。




