7.服屋 (2019/7/24)
そうしてついて行った先は、宿からほど近い場所だった。
「ここが服屋だ」
そう言われたお店は、大きな通りに面した小奇麗なお店だった。服屋さんで布の切れ端を貰えばいいと言っていたけど、この良さげなお店で布の切れ端を貰えるのかな……。と思った。まぁ、貰えなくても買えばいいか。
「戻る」
そんなことを考えていたら案内してくれた武器屋の店員さんがそう言って去ろうとしたので私は慌ててお礼を言った。
「あ、案内してくれてありがとうございます」
そう言うとこちらを向いて頷くとそのまま去って行った。
武器屋の店主を見送ってからお店の中に入ると、様々な布や糸、服が置いてあった。隅の方には、裁縫道具まで置いてある。品揃えがよいお店だと思っていると店の奥から人が出てきた。
「いらっしゃい。何を買いに来たのかな?」
そう言ってきたのは、20代半頃ぐらいの女の人だった。少し青っぽい髪色をしていて、その髪は背中辺りまで伸びている。背はそこまで高くはなく160センチ前後だと思う。美しいというよりはどちらかというと可愛らしい感じの女の人だと思った。
「武器を磨くための布が欲しいのですが」
そう言うと女の人は私が背負っている槍を見てから何やら納得したような様子を見せた。
「なるほど。それならこういうのでもいいかな?」
そう言って出てきたのは、小さいサイズのばらばらな布だった。何かの切れ端なのかな? と思った。それなら普通の布を買うよりは安いかも。
「はい。いくらですか?」
「この布なら持っていってもいいわよ」
「えっ? いいの?」
布の切れ端でもそれなりに大きめな布も混ざっているのに持って行ってもいいと言われて驚いて聞き返していた。武器屋の人は服屋で貰えばいいと言っていたけどもしかして、貰えることを知っていたのかな?
「いいわよ。流石にこういうのだと売り物にならないからねぇ。それにたくさん出て処分しているから気にしないで」
そう言って私にたくさんの布を渡してきた。
「あ、ありがとうございます」
そう言って受け取るとアイテムボックスの中にしまう。
「……アイテム袋でも持っているの?」
少し驚いたように店の人にそう聞かれて(あ、しまった……)と思った。でも、アイテムボックスは使わないで生活するのは難しいかも。今までかなり頻度で使っていたから……。そう思い店員さんにアイテム袋? のことを聞いて見るのもありかも。でも、アイテムボックスじゃなくてアイテム袋と聞かれたのが少し気になるけど……。
「……そうですが珍しいですか?」
「そうだねぇ。それなりに珍しいかな? 安い物なら多少値が張るくらいで買えるのもあるけど小さい子が持っていたら危ないかもしれないね」
そう言って心配そうに私を見ていた。珍しいものならこの店員さんの言う通り、私みたいな子が持っていたら危ないかもしれない……。でも、亡き母から貰ったものだから大切に使いたいという想いもある。小さいときに亡くなったからたくさんのことは覚えていないけど、可愛がってもらった記憶はある。私に優しくしてくれたのは、この世界の母と昔いた使用人達だけだったかも……。でも、前世の記憶のこともあるからそこまで悲しいとは思ってはいないから……。
「……なるべく人には見せないように気をつけます。(母親の形見だから……)」
「そうなの……。それは大切にしないとね」
店員さんにそう言われた。もしかして私が呟いたこと聞こえちゃったかな? と思いながらわざわざ聞く必要もないか……。そう思い返事をした。
「はい」
「私は、ローナ。この店の店主よ。何か困ったことがあれば聞きにおいで? 私にできる範囲のことならしてあげるから」
ローナさんはそう言ってくれた。悪い人ではなさそうなので何か困ったことがあれば少し頼ってみるのもいいかもしれないとそんなことを思った。
「私は、レーナです。何か困ったことがあれば聞きに来たいと思います」
「そうするといいよ。他に何か欲しいものとかあれば探すけど何か欲しいものはある?」
とりあえず武器の整備用の布を買いに来ただけだけどそう言われると着替えの服とか下着とかが欲しいかも。
「動きやすい服とか下着とか少し欲しいです」
「じゃあ、こっちよ」
ローナさんはそう言うと私の手を引っ張ってどこかへと連れて行かれた。
そうしてローナさんに連れて行かれた場所は更衣室のような場所だった
「ほら、とりあえずブーツを脱いで上がって」
そう言われたのでブーツを脱いでその部屋へと入る。
「じゃあ早速上着を脱ぎましょう!」
「えっ!? えっ!?」
ローナさんの急な行動に驚いたがあっという間に上着を脱がされてしまった。
「……綺麗な子ね」
ローナさんは上着を脱がすとそんなことを言った。そんなに驚くようなことじゃないと思うけど……。とそんなことを思ったけど、今までの私の記憶を思い出すとフードを被っていたことが多かったかも? と思った。母親が亡くなってからは義母と父親に家の隅へと追いやられたからなるべく目立たないように過ごしていたから外へ出あるくときはフードを被っていたかも……。(外と言っても屋敷の近くにある山の中だけど……)
そういえば自分の容姿とか知らないかも。最初に目が覚めたときは、自分の髪の色を見て驚いていただけだし、母が亡くなる前に着飾ってもらったりしたけど、その時は鏡に映っていた服しか見ていなかったからどんな容姿なのかもわからない。まぁ、容姿なんか気にしても仕方ないか……。
「とりあえずいろいろな服を着てみましょう!」
と何故か凄くテンションの高いローナさんがそう言うとその後、いろいろな服を着させられた。
動きやすい服って言ったのにそうじゃない服まで着させられた。どれくらいの時間そんなことをしていたのかな? 少なくても2時間ぐらい経っていそうだけど。それにいろいろな服に着替えただけなのに疲労が野営してこの街に着いた時よりもあるような気がする……。
「ごめんね? レーナちゃんが可愛くていろいろな服を着させちゃった」
ぐったりしている私を見てローナさんが申し訳なさそうに謝られたことは、分かったけど何を言ったのか耳に入ってこなかったがとりあえず返事をしておいた。
「は、はい…。そのもういいのですか?」
そう言うとローナさんが詫びと言って下着と動きやすい服を一式見繕ってくれた。それからいろいろ着てみて気に入ったものなどを別で購入したら銀貨1枚に御負けしてくれた。こんなに安くてもいいのかと思いローラさんを見ると私の視線に気付いた。
「いいよ、気にしなくても。ちょっと私もやり過ぎちゃったみたいだから」
ローナさんは苦笑いしながらそう言った。まぁ、かなり疲れたけど、安く良いものが手に入れられたから私としてもありがたい。手持ちのお金も豊富とは言いがたいし。
「あ、ありがとうございます」
私はそうお礼を言いながら疲れた……。と思っていた。ゴブリン等と戦っているよりも疲れるローナさんの着せ替えは、本当に何なのだろう? まぁ、魔物との場合は、一回の戦闘時間が短いからそう感じたのかもしれないけど……。そんなことを思いながらローナさんのお店を後にした。
服屋を出た後は、宿に向かった。とりあえず休憩したかったのと昨日泊まって良かったと思った宿の延長のお願いしないと! そう思って宿へと戻った。
宿に着くとラナさんがいたので3日間の延長のお願いをして部屋に戻ると直ぐにベッドで横になった。すると、思っていた以上に疲れたみたいで私はすぐに眠りについていた。
 




