1.前世 (2019/7/20)
目を覚ました私は見慣れない山の中にいた。
「え? ここどこ?」
さっきまで学校にいたような……? そう不思議に思って辺りを見渡した時、銀色の髪が視界に入った。
「え?」
見間違いかと思って自分の髪を前に流すように掬って確認をするとそこにあったのは銀色の髪の毛だった。
「あれ? ……」
どういうこと? そう考えていると先程まで何をしていて、何があったのかを思い出した。
最初に前の世界での話をしよう。
私の名前は佐伯麗奈という名前で佐伯家の長女として生まれた。これと言って特に問題もない元気な女の子だ。私が生まれて3年ほど経った頃に妹の優奈が生まれた。妹も私と同様に元気な女の子。まぁ、ごくごく普通の一般家庭だと思う。食べ物には特に困らず、欲しいものがあれば買ってもらえたりもするそんな家庭で育ってきた。
そうして成長するにつれ幼稚園、小学校と友達を作って遊んだり、妹の相手をしたり、家族で出かけたりと楽しい日々を過ごしていた。そんな日々があることがきっかけによって終わりを告げるということも知らずに……。
最初のきっかけは、私が5年生の頃、学校にとある転校生がやって来た。その男の子は、他の女子達が騒ぐくらいにかっこいい感じの男の子らしい。と言っても私は、そうだとは思わなかったけど……。
そんな彼は直ぐに周囲に溶け込み、運動神経がいいこともあってスポーツをしている時には黄色い声援がよくとんでいた。彼が運動している姿をみて『あの男の子が好き』という女の子達が増えていた。
そんなある日、掃除の関係で校舎の裏に行くと妹がその彼と一緒にいる所を発見した。私は物陰に隠れながら何をしているのかな? と思ってその様子をみているとなんと彼が私の妹に告白をしていたのだ。その現場をみて私は驚いていたが、妹は彼のことが別に好きでもないようで断っていた。だけど彼は諦めが悪く、頼み込んでいたけど、妹は断ってその場を去って行った。彼は、肩を落としていたが、しばらくするとその場を去った。
私は帰宅してから妹にそのことを聞くと、恥ずかしそうにしていたが『彼のことは、好きじゃないから。私はあんな男子よりお姉ちゃんの方が大好きだよ』と言った。照れくさいことを妹に言われたけど、私はその言葉を言われて嬉しかった。
それから一月ぐらい経った頃、妹から相談を受けた。何とあの彼があの告白以降、毎日のように妹に言い寄って来て困っているとのことだ。諦めの悪そうな男の子だとは思っていたけどそんなことをしていたのか……。とそんなことを思い妹の為にいつも会うと言っていた場所に次の日、妹と一緒に向かった。すると妹が言っていた通りそこには彼がいた。
すると彼は私を無視して妹の傍に行くと『この前のことを考え直して欲しい』とか『俺の気持ちに応えて欲しい』とか言っていた。その言葉を聞いて私は若干引いていたが彼が妹の手を握ろうとしたとき、私は彼が妹の手に触れる前に叩き落とした。
すると彼が私の方に視線を向けて『お前は関係ないだろ? 邪魔をするな!』とこちらを睨むように言って来たが私はなるべく冷静を装いながら『妹が毎回言い寄って来て困っていると言っているからやめて欲しい』と言ったが、『お前が勝手にそう思っているだけだろ? 引っ込んでいろ!』と言って聞く耳を持たず、私のことを無視して妹に話かけていた。そんな似たようなやりとりを何度か続けていると、たまたま先生が私達のことに気付いて仲裁してその場は何とか収まった。その後、先生を交えて話をしている時、先生が『優奈さんは彼のことをどう思っているの?』と聞いた際に妹は私に隠れるようにしながら『ストーカーみたいで嫌いです。できれば二度と関わりたくないです』とはっきりと言った。その言葉を聞いた彼の間抜け面をみて多少気持ちがすっきりした。
それから妹からは彼の話を聞かなくなった。その代わりに彼のことが好きな女の子達が、何故か私に文句を言って来るようになったが、一時的なものだと思っていつも通りに過ごしていた。
そうして6年生の夏休み明けに彼が転校したのだ。個人的には嬉しいことだったが、彼のことが好きな女の子達は、凄く寂しそうにしていた。多分この辺りからだと思う。いじめが始まったのは……。
最初は、彼が転校したのは私のせいだと暴言を言われていただけだったが、中学校に入った辺りから次第にいじめへとエスカレートしていった。しかも、同じ小学校じゃない子も一緒になっていじめに参加してくるようになった。暴言から嫌がらせ、嫌がらせから私のものが無くなって……。最終的には、殴られたり、トイレに閉じ込められたり、水を掛けられたりした。もう学校に行くのは嫌だとか思いながらも、家族に心配をかけたくないと思って学校に通っていた。
それから1年生の2学期も終わり頃、私がいじめられている現場に先生が出くわして、いろいろ対処してくれた。先生からそのことを聞いた両親が、心配して急いで帰ってきたことは、今でも覚えている。それからいろいろあってすぐに遠い場所に転校することになった。3学期から転校先の学校に通うそんな予定だった。でも、私は転校先の学校に行く前に体調を崩して入院をした。思った以上に精神的に来ていたみたいで長期間の入院生活をすることになった。
入院生活と言ってもほとんどベッドにいるだけで、暇な時間が多かった。特にやることもなくボケーっとしていたり、勉強したりして過ごしていた。そんな日々を過ごしていたときに、妹が『お姉ちゃん一緒にゲームしない?』と言ってゲームを持ってきた。特にやることのなかった私は、妹が持ってきたゲームをやることにした。
妹が持ってきたゲームは、数カ月ほど前に発売されたのになかなか手に入らないファンタジー系の最新VRゲーム『ファンタジー・アート・オンライン』通称FAOというゲームだ。
その手のゲームをやったことがなかった私にとっては、どういったゲームなのか分からなかったけど、いざやってみると面白くて、暇なときはずっとやるようになっていた。それにゲーム内通貨で小説や漫画とかを買って読めたのが良かった。ゲーム内通貨でかなりの額が必要だったが、両親にお願いしなくても欲しいものが読めるといった環境がより一層、そのゲームに熱中にさせた。魔物を倒したり、武器とかを作ったり、小物や服作り、料理をしておいしい食べ物を作ったりと様々だ。後から知ったことも多かったけど、ほとんど現実と変わらない手順でそう言ったものを作れたため、いろいろなことを知ることもできた。そのお陰もあって入院生活がとても楽しく過ごした。
入院生活が楽しいって言うのも変なのかもしれないけど……。
それから退院できたのは、3年生の後半。とはいっても中学校には通う気になれず通わなかった。近くの高校には、余裕で受かるほど勉強ができていたから、受験勉強はあまりしないでゲームをして遊ぶ日々を過ごしていた。
そして予定通り、近くの高校を無事に合格して入学をした。今度は、何もないことを願って……。
入学して1週間は、特に何事もなく過ごしていた。一応、人ともちゃんと会話ができている。まだ友達と呼べそうな人はいないけど、問題なく過ごせそう。そんなことを思った日の帰り道のことだった。
横断歩道の信号が赤になったので、青になるまで待っていると近くにいた人の叫び声が聞こえた。何だろう? そう思って後ろを振り返ると車が私の方に突っ込んできて私の意識がなくなった。