表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

炊飯器

作者: 如月日向

母が死んだ。

それは突然のことだった。


そんな日が来るとは考えたこともなかった。

通夜、葬式、やることは山ほどあった。

瞬く間に時間が過ぎていった。

全てが終わる頃になってようやく、悲しいという気持ちを感じていなかったことに気付くほどだった。


それからの生活は今までと、さほど違うものでもなかった。

いつもと同じ時間に起き、いつもと同じ電車に乗り、いつもと同じ場所に向かう。

そして……疲れてヘトヘトになり家に帰る。

母が死ぬ前と何も変わらない日常。




その日はたまたま早く家に帰れた。

といっても何かすることがあったわけではない。

本当にたまたまだ。

時間を持て余していると、ふとしばらく使っていない炊飯器が目に入った。

たまには使ってみようか。


そう思い、久しぶりに米の袋を開けた。

米を研ぎ炊飯器にセット。

慣れない操作に戸惑いつつも予約時間を設定。

これで明日の朝には炊けるはずだ。

微かな達成感を感じつつ眠りについた。






ピー! という電子音で目を覚ました。

一瞬何かと思ったが、すぐに炊飯器の音だと気づいた。

寝ぼけ眼をこすりながら起き上がり、台所へ。

冷蔵庫を開け、おかずになりそうなものを見繕った。

それからお椀としゃもじを持って炊飯器へ。


そして、おもむろに炊飯器の蓋を開けた。

むわっと水蒸気が立ちのぼり、炊きたてのお米の香りが鼻腔をくすぐる。


「お母さん」


母が死んだ。

その後に初めて流した涙だった。

炊飯器を買いました。

おいしいご飯が炊けています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ