襲撃者XⅣ
その時の亮人はただ嬉しかったのだ。自分にもやっと家族が出来たんだ。ただその思いだけで嬉しかったのだ。
だから、亮人は氷華たちを見守る為に眠るのを遅くしていた。
「でも、それって逆に亮人はこうも考えてなかった?」
礼火は亮人の顔を見つめると、少しだけ間を開けるようにして口にする。
―――――失いたくないって。
それを聞いた亮人は俯いた。それは図星だったから。
亮人は嬉しいのとは裏腹に、居なくなったら嫌だ……そんな感情を知らないうちに抱いていたのだ。だからこそ、それは過度なストレスになって心の奥底で隠れていたのだ。彼女達を守るために、でもそれと一緒に自分を守る為に。
二つの想いがあって、それを守る為にする行為は重かった。彼女達をなに不自由なく家で過ごさせる為に朝から昼食も作り、そして昔までは独り分だった料理を今日まで四人分も作っていたのだ。掃除をする頻度だって増えた。普段の亮人のする仕事の範疇を途中から超えた部分もあったりする。
そんな生活が一ヶ月。それも不満を言う事も無く、ただみんなの為に……そんな気持ちで亮人は頑張っていたのだ。
「確かに俺は失いたくないって思った……やっと出来た家族なんだ……急に誰かが居なくなったりでもしたら、俺……嫌だから……」
俯いていた顔を礼火の方へと向けて口にした亮人に、
「そんな心配ばっかりしなくていいんだよ。あの二人なら絶対に亮人から離れないし、私だって……その、離れるつもりはないし……」
最後の方は小声で亮人には聞こえなかったが礼火の頬は赤く染まり、亮人同様に俯いた。
ただ、礼火のその言葉だけでも亮人は少しだけ救われた気がする。
暗くなっていた表情は多少だが明るくなり、その瞳にも光を取り戻しつつある。
「亮人は思い出に拘り過ぎなんだよ。思い出はこれからだってたくさん作れるんだよ? 形は無くなっても思い出は思い出。それは実際に起こったことなんだから、無くなるわけじゃない。これからだってあの二人と思い出、作って行くんでしょ?」
頬はまだ赤いままでいる礼火だが、亮人へと向けた笑顔はとても可愛らしい。まるで亮人の心に光り差す太陽のように。
「亮人だって時々は皆を頼りにしてよ。私たちは仮でも家族……なんでしょ?」
笑顔を向けた礼火はその温もりを持った手を亮人の手から離し、ゆっくりとその手は亮人の胸へと触れる。
「こうやって触れるんだよ? これからだって、私達は思い出を体に残していくの。このたくさんの記憶を残せる大切な場所に……」
亮人の胸に触れている礼火の手はまるで熱でもあるかのように熱くて、亮人はそんな手にドキドキと脈を強く打ち始める。
「だから……私達にも甘えて……亮人に甘えるばっかりなのは、私達も嫌なの」
亮人の胸からスルスルと首へと手を伸ばし、そして礼火は自分の顔へと亮人の顔を近づけさせる。
「今度は亮人からして……私たちに甘えて? もう、我慢しないでいいんだよ……」
亮人はその優しくて艶めかしい言葉を口にした礼火を見つめた。
そして、そこには亮人が知っている礼火はいなかった。そこにいたのは、一人の女。まだ誰の物にもなっていない、一人の女がいた。




