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波乱万丈Ⅷ

この二人を相手にするのは俺的には非常に不味い気がするんだけどなぁ……本当、礼火って空気が読めない時があるよ。

 黙々と食器に載っている料理を口にする亮人と氷華たち二人。


『ごちそうさま……ふんっ』


『………………………お兄ちゃんなんか嫌い』


「……………………………………………」


 どうやっても二人の機嫌を直すことは出来無さそうだ。自分が使った食器はちゃんと台所に持っていく二人だが、チラチラと亮人の事を見てくるその視線には殺気に近いようなものが籠められている。足音も普段よりも大きくなっていて、自分達が怒っていることをアピールしているように見えた。


 もう……俺はどうすればいいの?


 今日は楽しい一日だと思っていた亮人は礼火には悪いと思ってはいるが、この状況を作った張本人として少しだけ嫌いになりそうだった。

 せっかく家族のように接することが出来る彼女たちを見つけた亮人は少なからず、こうして嫌われている状況が悲しい。

 実際に二人が二階に上がって行ったあと、瞳には涙が溜まってきたのだから。


「亮人、ごめんね。お風呂先に使わせて貰っちゃったんだけど…………亮人はどうして泣いてるの?」


 お風呂から上がった礼火が可愛らしいピンク柄の寝間着を着て、亮人の前へと現れるなり、涙を流しそうになっている亮人を心配して近寄ってくる。


「……何でもないよ? 気にしないでくれると俺は助かるから……お願いだからそっとしておいて……」


「わかったけど……私に何か相談できるようだったら、遠慮なく相談してね? 私はいつでも亮人の味方だし、これからもずっと近くにいるから」


 心配そうに見つめてくる礼火は髪をタオルで拭きながらソファへと座り、そのままテレビの電源を点ける。そして、一度だけ亮人へと振り返って微笑んできた。

 礼火も亮人同様にニュース番組しか見ない人種なので、そのまま礼火はニュースに見入ってしまう。それはそれで亮人にとってありがたいことでもある。


「それじゃあ、俺も風呂に入って来るからさ……あとで何か話でもしてから寝よう?」


「わかった……もう亮人の秘密とかは無理やり聞かないから、普通に楽しく話ができると嬉しい」


 シャーリーと同じくらいの体にまだ幼さを残す声と顔。そんな彼女が亮人に振り返って笑顔を見せれば、亮人も同じように微笑み返して風呂へと入る。


「礼火に悪気はないんだ……恨もうって思っても恨めないよ」


 温かいシャワーを頭から浴びていた亮人はリビングでニュースを見ている礼火の笑顔を思い出す。亮人の事を心配している反面、亮人に優しくしていたいといった二つの感情が入り乱れた笑顔。半々の相対する感情を携えた瞳が亮人の事を見つめて来ていたのだ。


「あんな顔見たの初めてかもしれないね……もう十年以上も幼馴染してるのに」


 礼火とは昔からよく遊んだりしていたのだが、普段から笑顔しか見せなかった礼火があんな表情をすることに亮人は驚いた。自分が知らない礼火が目の前にいた。それだけでも、亮人にとって驚く要素としては十分すぎるものだ。

 兄妹のように思っていた亮人にとって、その時の礼火は一人の女として見えていた。可愛らしく、そして優しい女の子に。


「礼火もやっぱり昔とは違うのか……変わってないのはもしかして俺だけなのかな?」


『お兄ちゃんは変わらなくていいよ? 昔も今もずっとそのままのお兄ちゃんで居てくれればシャーリーは十分幸せだから……ね?』


「―――――っ!」


今日は驚きっぱなしの亮人の目の前。脱衣所の扉を開いて入ってきたシャーリーは体にバスタオルを巻いて入ってきたのだ。

 シャワーを浴びている亮人は突然のことに驚いたが、すぐさま腰にタオルを巻いて下半身を隠す。そんな亮人同様に、シャーリーも体にバスタオルを巻いてお風呂場へと足を踏み入れて来ては亮人に近寄り、


「シャっ、シャーリー!? なんで俺がいるのに入って来てるの!?」


『だって、シャーリーが夜に一人でお風呂に入ってたら、あの礼火とかいうお兄ちゃんの友達が怖がるでしょ? だから、お兄ちゃんには悪いけど一緒に入らせて貰うことにしたの。シャーリーにはご褒美としてしか思えないけどね、この状況は』


 シャーリーがそう言えば、亮人を床に座らせてシャンプーをし始める。

 他の人からしてもらうシャンプーは意外にも気持ちがいいもので、亮人はそのままシャーリーに文句を言わずに、ただ頭を洗って貰う。


『お兄ちゃん、痒いところはある?』


「…………うん、今のところはないよ。人にシャンプーをして貰うのってこんなに気持ちいいんだな。初めて知ったよ」


『なら、シャーリーが毎日シャンプーしてあげようか?』


「いや、それは遠慮しておくよ。後々が大変な気がするし……」


 一緒にシャワーを浴びいている状況に疑問は抱いている亮人だが、礼火が来ている今としてはこの状況は仕方がないと思っている。だが、毎日のように頭を洗って貰うことには流石に恐ろしい部分があるのも事実。


 さっきの氷華みたいに誘惑されたら大変だからね……さっきなんか、礼火が来てなかったらそのまま大変なことをしてたんだから……俺は。


 ここで礼火に感謝するべきところが浮かび上がった。

 お風呂から上がったら礼の一つは言っておくことにしようと考え、それとついでに明日の朝ごはんについて考え始める。

 礼火がいる関係で二人には不憫な思いをさせることになる。だから、先に何か得策を考えないといけないのだ。


「今日中に明日のご飯を作っておいた方がいいかな? 明日の朝に食器が沢山あると礼火が不思議に思うだろうし、二人を困らせるわけにはいかないからね」


 シャンプーを流して貰いながら口にしていると、シャーリーは亮人の背中へと体を密着させ、


『本当にお兄ちゃんって優しいね……私達、お兄ちゃんたちみたいに人じゃないのに……なんでそんなに私達に優しくできるの?』


 嫌なことを思い出しているかのような瞳に表情。それらがシャーリーの顔に浮かび上がってきていたのを鏡越しに見つけた亮人。


「シャーリーは俺と会うまでに妖魔を見ることが出来る奴に会ったのか?」


 シャーリーが口にしていることは他の人間に嫌なことをされたから出てきているからだろう。それが分かった亮人は、悲しそうな表情を浮かべているシャーリーの事が心配で仕方がなかった。

 シャワーを頭に被りながら鏡でシャーリーの事を見つめれば、そんな彼女の瞳は自分の体についている大きな傷を見ていて、その傷は亮人に会うまでに傷つけられたものだという事を思い出す。


『シャーリーね……お兄ちゃんに会いに行こうとして空港まで行ったんだけど、空港までの間に一人だけ遇ったの……妖魔の事を見ることが出来る人間に……でも、その人間はお兄ちゃんみたいに優しくなかった……』


 歯軋りを鳴らしたシャーリーは憎い相手を思い出しているせいか、瞳には殺気が宿る。そして、次には身体をわなわなと震わせ始める。


『逃げるシャーリーにあいつは一匹の妖魔を追わせてきたの……それもかなりの上位の妖魔を……それで逃げ切れなくなったから仕方なくその妖魔と戦ったんだけど……結局は左肩に傷を付けられて、この状態。ほら……シャーリーの左肩はここまでしか上がらなくなっちゃったの……』

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