波乱万丈Ⅵ
「それで礼火はどうして、そんな大きな鞄を持って俺の所に来たのかな?」
さっきまで氷華とやる気でいた亮人はシャーリーたちを二階の部屋へと行かせ、玄関にいた礼火をリビングのソファへと座らせたのだ。クロはシャーリーを起こすのと一緒に起きれば、礼火の足元へと行き、頬を礼火の足に擦らせていた。
「あのね……それがお母さんと喧嘩しちゃって、「亮人の家に泊まってくるッ!」って言い残して家から出てきちゃったんだよね……巻き込んでごめんね」
「そういうことね……まぁ、喧嘩なら一週間以内には納まるだろうし何とか匿ってあげるけど……なぁ?」
「ミャァァ……」
亮人の膝へと飛び込んできたクロ。そんなクロに窺うように言葉を濁せば、クロからも言葉を濁したように返事が返ってくる。
実際、亮人としては礼火を家に泊まらせるくらいどうってこともない。ないのだが……亮人の家の居候二人が、礼火の事をどう思うかが心配で仕方がなかった。
シャーリーは昨日、礼火に向かって牙を立てていたのだ。それで今日の夜にこうやって来たことで、シャーリーが目尻をつり上げて睨んでくるのが簡単に想像できてしまう。
氷華も氷華で、さっき礼火を家に上げた時に敵でも見るように礼火を睨んでいた。
だからこそ、この家は礼火にとって安全な場所ではないかもしれない。一番安全なのは多分、礼火の家だ。ここなんかよりは安全だろうし、怒られるだけで済むならまだマシだ。
「亮人……なんでそんな心配そうに私の事を見つめて来るの?」
亮人が頭の中で礼火が襲われないかを心配していると、礼火は「家に泊まらせられない」と言われると思ったのか……泣きそうな表情で見つめてくる。
そんな目で見られたら断れないよ……断るつもりもなかったけど。
「なんでもないよ、今日はうちに泊まって行っていいよ? でも、少しだけ忠告しておきたいことがあるんだけどいいかな?」
念のためにルールを付け加えておかないといけない。亮人は礼火の耳に、
「なるべく俺の近くにいない方がいいよ……殺されかねないから」
と、囁いた。
「――っ、なんで殺されっ!」
礼火が何とも物騒な言葉を普通の声量で口に仕掛けたことで、亮人は礼火の口を手で抑える。
「……そんなことを口にしてると本当に殺されるかもしれないから、気を付けた方がいいよ。俺の家ってなんか憑りついたみたいだから……」