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波乱万丈Ⅱ

「ご馳走様でした」


『『ご馳走様でした』』


 亮人が手を合わせて食事を終えれば、氷華とシャーリーも一緒になって手を合わせて朝食を終える。


「先に昼食を作っておくから、氷華は食器洗ってくれるかな?」


『分かってるわよ。それよりも、昼食が朝ごはんよりも不味かったら許さないんだからね?』

「はいはい、美味しい料理を作りますよ」



 亮人に忠告をするように口にした氷華は亮人たちが使った食器を台所まで持って行き、それをすぐに洗い始め、その隣では亮人が料理を始める。

 その光景は新婚夫婦で、後ろから見ていたシャーリーはねたましそうに見つめていた。

 シャーリーだってお兄ちゃんと一緒に料理とか作りたいもん。

 心の中で呟いたシャーリーは自分も何かできることが無いか聞きに行こうとした時、


「シャーリーはこの野菜の皮を剥いてくれる?」


 と、まるで亮人はシャーリーの心を読んでいたかのように仕事を託したのだ。それにはシャーリーも少し驚いたが、すぐに心から嬉しさが滲み出てきて、


『お兄ちゃん大好きっ!』


 と無理やりに肩を掴んでキッチンへと向いていた亮人をシャーリーの方へと向かせる。

 少しだけ無理に上げた肩が痛んだが、それでも嬉しかったことでそんな痛みを忘れているシャーリーは亮人の唇を自分の唇で塞いだ。


「――――――っ!」


『ちょっ、シャーリーっ! 今は火とか使って危ないからそういうことをしないの。そんなの料理が出来た後にすればいい事でしょ?』


 怒るべき所が違う氷華はそれだけ言えば、黙々と使った食器を洗っていく。

 そんな氷華の隣では未だに唇を塞がれた亮人は目を見開いたままシャーリーを見つめていた。

 本当にいきなりこういうことされても驚く事しか出来ないんだよね……それにシャーリーなんか目に涙なんか浮かべてるから無理に離れられないし。

 キスをしている時間はどれくらいだろうか。おそらくは一分、または二分か。それほどに長いキスを亮人にしていたシャーリーは頬を赤く染め上げて、


『シャーリーはこの野菜の皮を剥けばいいの?』


 と涙を浮かべていた表情とは変わり、嬉しそうに笑みを浮かべては亮人と氷華の間に入り込む。

 その三人の後ろ姿は親子そのものだ。

 たった一日でここまで仲が良くなるのも異常だと思うが、それは亮人が中心だからこういう平和な家でいられる。

 この妖魔の二人が寄せる亮人への信頼は物凄く強く、それでいて揺らぐことはない。

 それは亮人の性格や気遣いがそういう風にさせているのかもしれないが、それ以前に亮人の優しさが昨日のような、いがみ合いをすぐに無くさせることができるのだ。


「本当の家族ってこんな感じなのかな……」


 亮人は横に立っている二人を横目で見て確認すると、無意識のうちにそんなことを口にした。

 亮人には親が居ても、それは親として仕事をしない。ただ、会社の為に仕事をしているだけ。そんな両親のせいか、亮人には家族に対する気持ちが自然と強くなっている。

 だから、こうやって亮人は大切なものには家族のように接している。


『…………………………』


 亮人のそんな呟きを聞いていた氷華は何も口にしない。今の言葉に口添えすることは氷華にはできなかった。亮人の事情を知っているたから。

 亮人が両親に失望していることや両親を嫌っていること。だから、今みたいにしていることが亮人にとって嬉しいことだと氷華には分かった。

 そして、そんな氷華の左隣りで野菜の皮を剥いていたシャーリーは野菜を一度、まな板の上へと置いて亮人の事を優しく抱きしめていた。


「どうかしたの、シャーリー?」


『うぅん、なんでもないよ。ただ、こうしてたいだけ……』


「変なシャーリーだね」


『変でいいもん……お兄ちゃんを一人にはしないよ……』


 最後の方の言葉は亮人には聞こえないように呟いたが、妖魔の氷華にはそんな言葉も耳に届いていた。


 あぁ……この子も亮人のことをちゃんと思ってくれてるんだね……亮人の幸せ者。


 氷華は濡れている手を一度タオルで拭えば、シャーリーの頭を撫でる。それはお姉さんとして頭を撫で、そして、一方で母親のように優しく頭を撫でる。

 そんな静かでありながら心が温まるような光景を朝早くからしている亮人は、自分がここまで思われていることを知らずに二人の昼食を作る。

 亮人の横では氷華とシャーリーが顔を見合わせながら微笑み、そしてそれを知らない亮人は楽しそうにシャーリーが皮とついでに切ってくれた野菜を炒めて、料理を完成させた。


「二人とも俺は学校に行ってくるけど何かあったら、この番号に電話してね?」


 メモ帳に書いた携帯の番号を氷華へと渡した後、亮人は制服に着替えてすぐさま学校へと足を運ぶ。

 玄関を出ようとした時に氷華たちから『行ってらっしゃい』と言って貰えたことに、心を幸せで埋め尽くして学校へと道を歩いて行く。

 その時の足取りは普段の足取りよりも軽くて、今日は良い一日である気がした亮人である。

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