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七つの悪と深紅の姫Ⅱ

「動き出したぞ」


 視界に入るマリーを捉えた三人の後ろを追いかけていく。

 シャーリーは獣化し、背中に守護を乗せ夜の街を駆けていく。

 視界に広がる光景に息を飲む守護だが、視線の先、千里眼で捉えているマリー。

 十字架に磔られた小柄なマリーはもがいてるも、身動きが取れずにいた。


『予想以上に強いですわね……私があんな簡単に捕まるなんて、思いもしませんでしたわ』


「本当に強いよ…………あの三人は」


 守護の後ろ、守護の首に捕まるように子供のマリーは深刻な表情を浮かべていた。


『麗夜の作戦通りになりましたわね』


「あぁ、想定した通りに作戦が動いてありがたいもんだ。このままアイツらを追いかけるぞ」


 闇夜の建物を飛び越え、一定の距離を離した状態で追跡をする。


『分身で状況把握なんて、考えたわね』


「マリーと同等の力がある分身なら、そう簡単にバレることもないだろ。それに、分身も解いたら、記憶も共有できるなら諜報活動にもってこいの能力だろ」


『ものは使いようってことね』


 考え耽るように氷華は顎に手を当てる。


『頭のキレがスゴイですわ』


「褒めるなら、作戦が成功してから褒めろよ。ここからが本番なんだからな」


『意外とまんざらでもないくせに、麗夜』


「だから、わざわざ要らないことを言うな!!」


 燈に指摘され、顔を赤くしながら怒る麗夜に声を出さずに笑う六人。


「私たちなら失敗しないよ、絶対に」


 優しく微笑みかける礼火の瞳は赤く、虹彩は細く、背中からは翼を羽ばたかせる。

 その光景に心の隅で暗くなる亮人がいる。


「あぁ、俺たちなら絶対に失敗なんかしねぇよ。いや、させねぇよ」


 力強く口にする麗夜の背後には一瞬だけ爆炎が放たれる。


「マリーのお父さんを助けるよ、みんな」


 静かに口にする亮人は氷刀を日本腰に納める。


「僕も…………助ける」


 マリーへと振り向く守護は笑みを浮かべた。

 それぞれの気持ちが一つの目的に向けられる。


『みんな、ありがとう』


 マリーへ笑いかける六人は再び、三人へと視線を集中させる。

 あっという間に過ぎていく時間は追跡を始めて、三十分が経過し、麗夜が手に入れた通り川崎の工場内へと入っていった。


  ♂     ×     ?


「カーティス様……捕まえてきました」


 連れてこられる道中、何度もガスマスクが放つ液体を浴び、皮膚が所々溶けているマリーが十字架に磔られていた。意気消沈という印象を与えるマリーの目の前。

 左目に十字架が描かれた眼帯をつけている男、クレイグ・カーティスは甲高い足音を立てながら静かな工場内を歩いてくる。

 一歩一歩、音を反響させるかのように歩く風貌と高い身長のカーティスは手はマリーの左腕を掴む。そして、一瞬にしてマリーの左腕は塵となった。

 マリーの叫び声が反響する工場内。


『貴方のこと…………忘れた事ないですわ』


「あぁ、私もお前の事を忘れたことなど一度もないよ。十年ぶりだな、ヴァンパイアの姫」


 想像を絶する痛みに耐えながら、徐々に再生するマリーの腕。爛れていた左腕は元どおりになる。


「お前が最後の一匹だ。お前が死ねば、私は家族に会える」


 右目の奥底、青色の瞳の奥に感じる悲しみは一瞬にして怒りに変わる。


「お前たちは生きてはいけない存在なんだ。人を殺す怪物は私たちが殺し、幸せを取り戻す」


 握られるマリーの左腕からはヒビが入るような異様な音を立てられる。


『私が…………貴方に何かしました?』


 嘲笑うように視線を向けるマリー。

 次の瞬間には左腕から奏でられた鈍い音と共にマリーは苦痛の表情を浮かべた。


「…………お前たち、ヴァンパイアが言うのか」


 再び握られた左腕は赤黒い炎により燃やされていく。

 麗夜の炎とはまた違った赤黒い炎に熱さはない。ただ、消滅していく腕は痛覚だけを刺激するように消えていく。

 マリーの叫び声は再び工場内を反響していく。

 憎悪を具現化したような赤黒い炎にカーティスの瞳の感情はマリーに恐怖を再び思い出させる。


「今度は…………逃さない。ヴァンパイアの能力は理解している。いつでも逃げられるのだろう?」


 マリーの瞳を覗き込むカーティスの右目は全てを恐怖で支配するかのように、マリーの息を詰まらせる。

 呼吸をするだけでも、殺されると思わせる恐怖が目の前に立ち塞がっている感覚にマリーは襲われる。

 単純な恐怖。

 これまでも死ぬかもしれないと言う場面は幾つも経験してきたマリーだが、それらを有象無象に感じさせてしまうだけの威圧感をカーティスは放っている。


「私もあれから反省したんだ…………中途半端な事をしてしまったが故に計画の遂行に時間をようしてしまった」


 マリーから離れ、踵を返すカーティスは道を作るように頭を垂れている三人の元へとゆっくりと歩を進める。


『いつまで遊んでいるつもりだ…………早くヴァンパイアを殺して、計画を終わらせろ。家族に会いたいんじゃないのか?』


「あぁ、家族には必ず会う。ただ、このヴァンパイアの姫にも家族と会う時間を作ってやろうと思ってな…………」


 そう口にしたカーティスはマリーへと再び振り向くと不気味な笑みを浮かべた。

 地面へと翳す右手はカーティスの影を揺らめかせ、地面からは一人の男が力なく倒れた状態で浮かび上がってくる。

 長髪に威圧感を感じさせる顔立ちにマリーは見覚えがある。ただ、目の前にいる彼の姿は以前と比べ見窄みすぼらしい姿に成り果てていた。服の隙間から見える筋肉は張りがなくなり、骨が浮き出る程に痩せ細った体は、すでに立ち上がることが出来ないほどに非力なものになっていた。

 開かれた瞳も生気を感じられない。


「久しぶりに再開する娘はどうだ…………bezdnaベズドナ

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