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選ぶ者・選ばれる者ⅩⅤ

「でも、これからどうするんだ? こっちから罠を仕掛けるにしても、安直すぎないか? 俺が集めた情報も東京にカーティスがいるっていうことと、アジトらしい場所が川崎の工業地帯にあるってことだけだ」


『アジトまで見つけてるなんて…………あなたの諜報網はどうなってるのかしらね』


「色々とツテがあるんだよ」


『ふ〜ん、そういうことにしておきますわ』


「でも、ボスが日本にきてるってことは、マリーを確実に殺しにきてると思う。多分…………ケルベロスも一緒に」


 横目に見るマリーの表情は険しく、下唇を噛み締める箇所からは血が流れる。


『……………………』


 心から溢れる怒りを抑えるかのように力一杯噛み締めるマリー。ただ、差し伸べられた守護の手が彼女の手を触れると、力は緩む。心配そうに見つめる守護の瞳にマリーは、


『大丈夫ですわよ、続けて』


 と口にした。


「多分だけど、幹部の三人もきてる。一人はもともといたけど、最後だからマリーの事は逃がすつもりがない」


「その幹部たちの能力はわかってるのか?」


「わかってる限りだと、液体みたいになるガスマスクの男と洗脳を使うかもしれない女。それと、怪力の男。正確な情報じゃないけど…………信じてもらえると嬉しい」


「嘘はついてないって信じてやる。仲間だとはまだ思ってないけどな」


『私も麗夜と同じで、あなたの事はまだ信じてません。けど…………さっきのマリーさんへの言葉は信じます』


『私もまだ、あんたのことよく分からないから信じられはしないけど、マリーの事を大切に思ってるのは信じられるわよ』


『シャーリーもっ!! お兄ちゃんの友達なら信じるっ!!』


『シャーリーはすぐに人を信じないっ!!』


 和やかな雰囲気のリビングには自然と笑みが広がっていた。

 さっきまでの殺気が漂っていた場所とは思えないほどに、空気は変わっていた。


「今日は守護もきたって事でご馳走にしようか」


「そうだね、守護君は好きな食べ物とかあるの?」


「ごめん、特に好きっていうのはないんだ」


『なら、私が好きなものにしてもらいますわ』


「うん、僕もその方が嬉しいな」


 守護はマリーへ笑みを浮かべる。

 そこにいるのは、昔のNo.4でも組織に組していた守護でもなかった。そこにいるのは最城守護という一人の青年だった。

 無邪気に笑い、自分で物事を決めることができる青年がいたのだ。


『やっと自然と笑えてますわね』


「僕が笑ってる?」


『気づいてなかったですの? 呆れますわね』


「ご、ごめん」


『だから、簡単に謝らないことですわ。私の横にいるって言ったんですわよね?』


「うん…………マリーの側にいたい」


『頑張りなさい? 私は厳しいですから』


「はいはい、そこの二人はいちゃつかないでねぇ〜。はいっ、ご飯できたよっ!!」


『いちゃついてなんかいませんわよっ!!』


「はいはい、わかりましたよぉ〜」


「礼火はそうやって意地悪しない。みんなで食べようか」


 次々に亮人が運んでくる料理の数々はいつもとは違い、豪勢なものだった。


「こうやって新しい仲間も出来た事だし、今はみんなで楽しもう」


『お兄ちゃんの料理大好きっ!! お兄ちゃんのことも大好きだよっ!!』


『私だって亮人のことが好きよ? 今日は久々に…………やっぱり何でもないわ』


 顔から煙が出るのではないかと思うほどに顔を赤くする氷華。打って変わるように、シャーリーは小柄な体を密着させるようにくっつき、顔を見上げる。

 綺麗な金色の瞳は何かを期待するかのようにキラキラと輝き、徐々に近づく顔は亮人の唇へと接近していく。


「だーめっ!! 亮人は私の彼氏なんだからねっ!!」


『それは今だけだから、私が本妻になって子供も産ませてもらうわよ?』


『お兄ちゃんの奧さんには私がなるのっ!!』


 顔を見合わせるように睨み合う三人を後にし、亮人は全員に料理を配る。


「三人は置いておいて、ご飯食べようか」


 いまだに睨み合う三人はお互いに言い合いを続ける。その光景を見ながら、五人は声を出して笑う。

 さっきまで警戒していた全員が食事を囲み、笑っていた。

 麗夜は守護の些細な反応を弄るように笑い、マリーも悪戯をする。困惑する守護だが、自然と笑みを浮かべていた。

 他愛もない食事が楽しめる場に変化する。

 まるで宴かのように賑やかになる食卓を眺める亮人は静かに席を離れ、外の空気を吸う。

 空に広がる輝く星々たち。

 まるで亮人を見守るかのように煌めく星々に笑顔を向ける。


「一時はどうなるかと思ったけど…………楽しいな」


『楽しいようで何よりですわ』


「マリー……………………」


 後ろへ振り返れば、子供姿に変化したマリーが段差を一段一段飛ぶように降りてくる。無邪気な姿と動きは天真爛漫な礼火のような印象を持たせる。


『私の我儘に付き合ってもらって感謝しますわ。お父様たちの仇をこれで取れますわ』


「仇って…………まだ死んだわけじゃないんだから、信じよう」


『えぇ…………信じてますわよ。ただ、覚悟はしておかないと戦えなくなったら無駄ですわ』


 子供姿のマリーの鋭い眼差しは真剣に亮人へと向けられる。ただ、揺らぎのない瞳の奥に感じられる殺意だけは隠せていない。


「相手をどうするかは、マリーに任せるよ。俺も礼火たちを守れれば、それでいいから…………」


『思った通りですわね…………』


「何が?」


 笑みを浮かべる亮人だが、マリーと同じように瞳の奧から覗き込む黒いものは、マリーに引き摺り込むかのような錯覚を与える。

 マリーに感じさせた強力な錯覚。


『いえ、やっぱり何でもないですわ。私はご飯食べに戻りますわ』


 錯覚を忘れるかのように、マリーは家の中へとそそくさと戻っていった。彼女の小さな背中は少しだけだが、震えるかのように見えた。


「何だったんだ?」


 小首をかしげる亮人は再び、空を見つめた。


『亮人ぉぉおお、早くこっちに戻って来なさいよぉぉぉ』


『お姉ちゃん!? お酒飲んで酔っ払ってるの?』


『うるしゃぁぁぁぁあぁああい!! 私が何をにょんだって関係ないでひょがぁぁ』


「シャーリーっ!! 氷華を押さえないと大変だから手伝ってっ!!」


『わっ、わかったよ!!』


 家の中から響き渡る阿鼻叫喚の声。

 想像するだけで楽しそうな空気に玄関を開けた亮人は微笑んでいた。


  ♂     ×     ?


『まったく…………今回は私が見守っててあげないとダメかもしれないなぁ』


 亮人宅の屋根上。

 そこで寛いでいた者は下から響き渡る声を聞けば、欠伸をしながら空を見上げる。


『ちゃんと見届けますよ……あなたの子供を守るのが私の仕事ですから』


 そう口にした者は一瞬にして姿を眩まし、光り輝く星々だけがそこにはあった。


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