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選ぶ者・選ばれる者ⅩⅠ

デパートで過ごす時間はあっという間だ。

 四人で洋服を選んだり、試しに着てみたりとファッションショーのように入れ替わり立ち替わりで洋服を変えていく。その後も本屋に立ち寄ったり、最後にはスーパーで買い物をすることとなった。


『貴方も亮人の家でご飯食べて行きなさい、分かった?』


 彼女の言葉に亮人や礼火は驚きを隠せない。

 家にはシャーリーや氷華、麗夜達がいる。

 一般人の守護を自宅に招き入れること自体が想定外だった。


「……………………いいの?」


 彼の単純な質問に亮人達は顔を見合わせ、返事に戸惑った。


『いいですわよ…………私がいいと言ってるんですから』


「いや、俺達が決める事だけど、どう思う?」


「う〜ん、電話して決めたらいいんじゃない?」


「そうだな、ちょっと電話して聞いてみるから待ってて」


 携帯から家へと電話をかければ、数コールで電話は繋がる。


『もしもし、亮人? どうかしたの?』


「ちょっと相談があって、家に友達を呼びたいんだけど、大丈夫かな?」


『ちょっと待って、シャーリーにも相談してみるから。ふぁぁぁああ、シャーリー、亮人から電話なんだけど〜』


 寝起きなのか、電話越しに聞こえる欠伸の音にシャーリーを呼ぶ声。そして、ドドドと急いでいるかのような足音が聞こえれば、


『もしもし、お兄ちゃん!? どうしたの』


『ちょっ、無理やり受話器を取らないでよ』


『ごめんごめん、お姉ちゃん。それでお兄ちゃんどうしたの?』


「家に友達を呼びたいんだけど、いいかなって」


『お兄ちゃんが呼びたかったら、いいんじゃないの? お姉ちゃんは?』


『私もシャーリーと同じよ。亮人には友達を大切にして欲しいから』


「わかった、ありがとう。もう少ししたら帰るからよろしく」


『はーい』


『気をつけて帰って来なさいよ?』


「大丈夫、マリーも礼火もいるから。それじゃまたあとで」


 電話を切り、


「ご飯食べていって大丈夫だから、守護も家に来てよ」


「…………ありがとう、それと」


 大きく守護は息を吸い、



「妖魔に気を使わせて、ごめん」



 その一言に亮人と礼火の空気は一瞬にして変わる。


「何を…………言ってるんだ?」


「守護君…………いま、なんて言ったの?」


 再び、大きく息を吸う守護は二人へと面と向かい口にした。


「僕は地獄の栄光インフェルノ・グローリーの末端、最城守護…………マリーを殺す為に近寄った最低な友達だよ」


 守護の悲しげな言葉と表情にマリーは物静かに見守る。

 そして、目の前にいる二人の目は見開き、徐々に溢れてくる力に周囲の人は寒気を感じ始める。冷気を漏らし、フロアの一部は凍りつかせる。

 横では礼火の影がゆっくりと守護の方へと伸びていき、足元から首へと影は這う。そして、首元で極小の苦無が突き立てられる。


「少しでも動いたら…………殺さなくちゃいけなくなる」


 両目はマリーのように瞳孔は縦へ細く、瞳も紅く変色する。静かに放たれる殺気は守護を威圧し、近くを通った人たちは息苦しさを覚え、足早に離れていく。


「どういうことか、説明してもらわないといけないな」


『それなら、私からしますわ。亮人の家でご飯でも食べながらね』


 礼火の影を搔き消し、亮人の肩へと手を置居て落ち着かせるマリーは二人の後ろから守護へと近寄る。


『貴方もバカですわね…………言わなくてもよかったですのに』


「でも…………二人を傷つけたくなかった」


『そうですわね…………その気持ち、大切にしなさい。私からもお願いしますわ、少しだけ守護に時間をあげて欲しいですわ』


 守護を庇うように前に立ち塞がり、亮人達へと頭を下げる。

 その光景は礼火がマリーを庇った時のような光景だった。


「………………………………訳があるんだな」


「マリーが頭を下げるなんて、想像も付かなかった」


 敵を庇う味方という異様な光景に亮人と礼火は困惑しつつも、


「マリーがそこまで言うなら、わかったよ」


『ありがとう、亮人。守護は無害だから安心してほしい』


 買い物を終わらせ、帰路に就く四人は朝とは違う雰囲気だった。

 重たい空気が四人へのし掛かる。

 物静かな道を一歩一歩踏み出す足から鳴る音は周囲へ反響するかのように、それぞれの耳へと響く。

 徐々に近づいてくる自宅が視界に入ると同時に、もう一つの問題が生じた。

 亮人達の視界に入る二人組、


『ただいま帰りました。あら、知らない子がいますね』


「やっと帰って来やがったか、亮人。ちょっと話さないといけない事があるんだけどよ…………そいつ、誰だよ」


 麗夜の鋭い視線に隠さない殺気は亮人達も一瞬だが背筋が凍った。

 麗夜の後ろは冬の寒さの中でも蜃気楼ができるほどに熱量が増加する。


「お前ら…………全く気づかなかったのか? そいつから妖魔の匂いがしてるんだけどよっ!!」


 次の瞬間、麗夜の後ろでは爆発が起こり、守護の首元を掴んでいた。


「お前、地獄の栄光インフェルノ・グローリーの仲間だよな? なんで亮人たちと一緒にいるんだ? 教えろ」


『それを丁度教えるところですわ…………家の中に入りますわよ』


「お前、わかってて関わってたのかよ…………」


『ええ、知ってましたわ。家族の仇なのもわかってますけど、それ以上にちょっと彼の事が気になったんですわよ』


「クソッ…………こんなタイミングでかちあうかよ、普通。つくづくタイミングが悪りぃ奴だな、おい」


 守護を乱暴に地面へと投げ捨てれば、家の中へと帰る麗夜。その苛立ちは普段のもの以上で悪態もひどいものとなった。


「いいから、一度家に入れよ。話さないといけないことがあるんだからよ」


 麗夜は振り向くこともせず、家の中へと帰っていく。

 噎せながら立ち上がった守護はマリーに手を引っ張られながら家の中へと入る。


『何かあれば、私が守ってあげますわ』


 マリーに握られている手には力が入り、簡単には振りほどけない。ただ、前で歩いていく彼女の真剣な表情を見ている守護の不安の糸は細くなる。

 家へと足を踏み入れる守護の目の前には驚いている氷華とシャーリーがいた。


『なんかあったの?』


『みんな怖い顔してるよ?』


「お前らのご主人がまた馬鹿をしてるってだけだっ、クソッ!!」


「今回は俺のせいじゃないんだけどな…………」


『今回は私が全部悪い訳ですけど…………ちょっと落ち着いて欲しいものですわね』


 家のリビングへ足を運ぶ各々は口々にする。

 重々しい空気が更に重たくなり、空気の重圧と緊張感が守護を襲う。

 冷や汗に背筋が固まったかのように力む。

 そして、リビングで話し合いが始まった。

 重苦しい空気に第一声を放ったのは麗夜だった。


「まず初めにマリー、どう言うことか色々と事情を話してもらってもいいか? 俺も現状が理解できてないわけだ。その後で、俺の話題に触れてもらう」


 腕組みをし、睨みつける麗夜の視線はマリーを刺すかのように鋭い。

 大きくため息を一つ吐き、マリーは軽口に喋り始めた。


『守護についてですけど、去年の私達の戦闘から見張られていましたのよ。それを知っていたから、私のコウモリを監視で付けて、ずっと泳がせていましたのよ』


「去年のクリスマスからずっと見張られてたの!?」


「だいぶ前から見張られてたんだな、俺たち」


「……………………ごめん」


『今は黙ってなさい、守護。私を見つけた守護はタイミングを合わせるように入学して、亮人達の情報を得ようとした訳ですわ。合ってますわよね?』


「…………合ってる」


『あと、守護の命はずっと私の掌の中ですわ』


 守護へと手をかざすと、彼の影の中から一匹のコウモリがマリーの手へと着地し、牙をむき出す。同時に口からは鋭いレイピアが飛び出した。

 それは簡単に頭を貫くほどの勢いと大きさ、至近距離で撃たれれば確実に頭を穿つことが出来るほどのものだった。


『だから、私は守護を駒にして地獄の栄光インフェルノ・グローリーに誤った情報を送るように指示していましたの』


「どんな内容を送ってたんだ? まぁ、俺の推測だと「亮人はマリーに殺され、マリーも瀕死の状態です」とかだろ?」


『まぁ、本当に頭がいいですわね…………結果は貴方が教えてくれるんでしょう?』


「先読みしすぎだろ…………そうだな、マリーの作戦の結果は良好なんじゃねぇのか? 実際にもう到着してるらしいからな…………地獄の栄光インフェルノ・グローリーの親玉がよ。ッチ、しまらねぇな」


『まぁまぁ、麗夜。そう怒らないの、みんなの為に頑張って手に入れた情報を伝えて褒めて欲しかっただけだもんね』


「うっ、うるせぇよ!! 余計なこと言うな、燈!!」


『もう、可愛いんだから』


 麗夜へ微笑み、頭を撫でる燈は更に麗夜を抱きしめる。


『親バカは放っておいて、麗夜が伝えた通り、相手の親玉が日本に来た訳ですけど、けりを付けるチャンスでもありますわ。相手は私が弱ってると思って襲いにきますわ、そこで罠を張って迎え撃ちますの』


「なら、俺たち全員で相手を倒そう」


『それが終わったら、今度こそ亮人を寝取りにいくわね』


「だっ、ダメだよっ!!  亮人は私の彼氏なんだからっ!!」


『今は、をつけないとダメよ? 今は礼火の彼氏なだけ、今度は私の彼氏兼旦那なんだから』


『お兄ちゃんはシャーリーの旦那さんなんだよっ!! 絶対に負けないもんっ!!』


『もう……締まりませんわね』


「たぶん……これが亮人達なんだよね」


『そうですわよ。そこにこれからは貴方も加わるのですわ』


「僕も加われる……のかな」


『貴方次第ですわよ。今から貴方が私達の仲間になるためにも、信用してもらえるように、組織について伝えてもらいますわ』


 マリーの言葉を皮切りに再び空気は真面目に戻った。

 それから始まった守護の話は彼のこれまでの人生だった。


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