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選ぶ者・選ばれる者Ⅷ

 四人は美容室へと到着すれば、次々に中へと足を踏み入れて行く。

 道中、あみだくじを作り誰が誰のをオーダーするかを決めた。

 結果は、亮人・礼火、マリー・守護となった。

 マリーは亮人のオーダーができず悔しそうだったが、守護に向き直せば不適に笑みを浮かべていた。そんな彼女に肩をビクつかせる守護は不安に心を支配されている。

 そんな四人が入った美容室は物静かでクラシックが流れている美容室の中で横並びになりながら、各々はオーダーを出していく。


「亮人は短めのアップバングでお願いします」


「礼火はレイヤーミディアムっていうんですか? これでお願いします」


 二人は携帯でお互いが似合いそうな髪型をオーダーする。

 お互いがオーダーをするときに目が合い、少しだけ照れ臭そうに頬を掻く姿に店員も頬を緩ませ、カットに掛かる。

 そして、その横には不敵に笑みを浮かべ、八重歯をむき出しにするマリー。


『隣の奴にはこの、ジェットウルフっていうのをやってあげて下さいます?』


「かしこまりました」


 店員の返事と共に始まる守護のヘアーカット。長く伸びていた髪は一気に切られ、前髪で見えていなかった守護の顔を露わにしていく。


「わぁぁお」


「そんな顔してたんだな」


 髪を切ってもらいながら横目で見る亮人達は少し驚いた。

 凛々しい顔立ちに黒い瞳、表情は乏しく黒い瞳はくすんだような印象を与える。動きが乏しい表情は冷淡な印象を強くし、物静かな佇まいがより一層に印象強くする。


『いい顔してるじゃないですの』


「……………………ありがとう」


「お客様っ!! 急に頭を動かさないで下さいっ!!」


「あ…………すみません」


 不適な笑みは消え、守護を横目に見るマリーは口角を上げ、今度は鏡に映る自分へと視線を向けた。


『私はどのようにしてくれるのかしら?』


「少しだけ短くして…………ハーフアップにして下さい」


『案外、まともね』


「まともじゃなかったら…………殺されると思った」


『それも、そうですわね』


 切られていく金髪は少しずつ彼女の雰囲気を変えていく。腰までストレートに伸ばしていた金髪は背中あたりまで切られる。そして、纏められていく髪はマリーの気品さをより際立たせる。

 店員はマリーの変化に目を見張らせた。


「お客様のイメージはお嬢様って感じですね」


『実際にお嬢様ですので』


「そ、そうなんですね」


 思いもよらない返答にどもる店員はカットを終らせる。

 それと同時に守護のカットも終わった。


『私は可愛くなったかしら?』


「…………元々が美人だから、あまり変化はない」


『そういう時は可愛くなったって言っておけば良いのですわ』


「…………なら、可愛くなったと思う」


『そうそう、そう言ってれば良いのですわ。守護はだいぶ明るくなりましたわね』


「…………自分じゃ、わからない」


『顔が見えるだけで全然違いますわよ? 元々いい顔立ちをしているのですから、しっかり顔を見せるようにしなさい』


「…………わかった」


 辿々(たどたど)しい返事と表情だが、凛々しさが感じられる顔つきとのギャップがマリーを微笑ませる。


「ああああっ!! マリーがお嬢様っぽくなってるっ!!」


『そのくだり、もうやったので遠慮しますの』


「どういうこと?」


「実際にお嬢様だよってことでしょ」


『そういうことですわ。二人もだいぶ髪切りましたわね』


「俺はだいぶ切ったね」


 目元が隠れそうな程に伸びていた前髪は大胆に切られ、額が見えるようになった。そして、セットされた髪は爽やかさを強くする。


「私は少し切ったって感じだから、あまり変化はないのかな?」


『少し、大人っぽく見えますわよ』


「ほんとっ!? 大人っぽく見える? いやぁ、前から大人っぽいって言われててね?」


 大人というワードに反応した礼火は一人喋り始めるが誰も気に留めない。


「放っておいて…………いいの?」


「大丈夫大丈夫、少ししたら追いかけてくるから」


『亮人も守護も付いて来なさいっ!! 次に行きますわっ!!』


 お店の入り口を出ていくマリーは再び軽めのスキップをする。

 ゆるふわとスキップをする度に胸は揺れ、髪は靡く。

 亮人たちへと振り向き、後ろで手を組む彼女は前屈みになる。


『私…………今日は楽しいですわ!!』


 頬を赤らめながら嬉しそうにする彼女の表情を見た守護は胸に大きな痛みが走る。

 胸を押さえ、視線を胸へと落とすも何かがあるわけではない。ただ、心臓の鼓動が少しだけ速くなっているような感覚だけは分かる。


「僕も…………楽しい…………」


「楽しんでくれてるようで何よりっ!!」


「うわっ」


 亮人へと飛び掛かる礼火は満面の笑みを亮人の肩で浮かべる。おんぶをしてもらう子供のようにウキウキと楽しさが彼女の周りから伝わる。


『ほらっ、私について来なさいっ!! もっと楽しい事を教えて上げますわよっ!!』


 守護の手を引っ張るマリーの手は柔らかく暖かい。

 彼女の温もりに守護の胸はもう一度、強く脈を打つ。そして、彼女の手を守護は強く握り返す。


『私に着いてくれば、道に迷いませんわっ!!』


 駆け足で引っ張るマリー。


「…………わかった」


 静かに返答する守護だが、その表情は少しずつ形を変えていった。


「守護のやつ、笑ったな」


「笑ってるね…………誘ってよかった」


「少しでも、人らしい生活が送れてるよな…………俺たち」


「大丈夫…………私たちは人だよ。ちゃんと、人として生活できてるから」


 亮人の肩に掛かっている礼火の腕はキュッと力が入る。それは亮人を安心させるように優しい力で。


「ありがとう、礼火…………これからもずっと一緒にいよう」


「うん…………ずっと、一緒だよ」


 肩へと巻かれた腕へと亮人は手を添える。

 お互いの優しさを胸に、亮人達はマリー達へと走り出していった。


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