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選ぶ者・選ばれる者Ⅵ

 放課後、亮人たち三人は校門から話しながら下校する。ただ、そこには最城守護も加わり、四人となっていた。


『あなたも一緒に帰りますわよ』


 教室内で無理やりという程に、強引に力一杯引っ張られた最城はマリーの言うことをきくしかなかった。

 昼間の様に、いつでも自分の事を殺せる。

 それを理解しているから抵抗などしない。

 最城の能力自体は微微たるものだ。

 千里眼、いわゆる遠くにある物を見たり、透視ができる程度。身体強化などは出来ない、相手の不意を突いて暗殺をする事を得意としていた。だからこそ、今回は誤算であり失敗だった。

 闇夜の中で掛けられた声に驚き、死を覚悟した。

 だが、見過ごされている事実に恐怖を感じた。

 初めて感じた死の恐怖、圧倒的強者を前にし、いつでも殺されるというプレッシャー。そして、初めて感じた生の実感がそこにあった。

 組織のために育てられた自分が相手に生かしているマリーの所々に含まれている言葉への違和感が最城に疑念を抱かせる。

 帰宅する道中で立ち寄るコンビニ、そこで話す三人の会話は他愛もない話で、妖魔達が話をしている様には見えないほどに。


「髪を切りに行くのは明日でいいよねっ!!」


「はいはい、明日行こうな」


『どんな髪型になるかはお楽しみですわよ』


 不適な笑みを浮かべるマリーに満面の笑みの礼火。

 本当にただ単なる高校生にしか見えないその光景を最城は呆然と見つめる事しかできない。


「明日はよろしく」


 微笑んでくる亮人は警戒など一切していない。まして、マリーに至っては敵でもないと思っているほどに警戒している様には見えない。

 最城が首を切ろうとすれば、切れてしまうのではないかと思えるほどに礼火との会話を弾ませ、油断している。だが、一瞬にして狩られるのは最城だと理解しているからこそ、三人の会話を聞くことに徹する。


「……………………わかった」


 一言、返事をした最城に目の前にいる三人は笑顔で返してくる。

 そんな光景が最城の何かを温かくして行く。


「それと……………………守護まもるでいい」


 不器用に、最城は自分の意志で自分の言葉を紡いだ。

 少しずつ口にする自分の言葉。

 自分が考えて、口にしているという事は認識せず、ただ口にする言葉は弾む様に三人へと伝わる。

 優しく微笑むマリーや嬉しそうににんまりとする礼火、安心したかの様に息を吐きながら、手を差し伸べてくる亮人。


「これからもよろしく、守護」


 これからもよろしく…………か。


 いつまで続くかわからない関係性。

 胸の隅に痛みが走る守護は、その理由がわからない。


「こっちこそ…………よろしく」


 差し伸べられた手を握ると暖かく感じる。

 これまで色んな人を殺してきた手に伝わる感触と温もりが守護の頭の中で印象的なものとなる。

 コンビニで別れた最城は歩みを進める。

 影を見れば、こちらを覗き込むかの様に影は揺らぐ。


「いつも通りに連絡すればいいんだろ?」


『そうですわね…………いつも通りに連絡しなさい』


「わかった」


 振り返り、視線の先で談笑する三人の姿は徐々に消えて行く。

 消えて行く姿を見ていると、さっきまでの温かさは薄れ、冷たくなっていくのが分かる。

 亮人と握手をした手へと視線を落とせば、思い出す。

 暖かな温もりに緊張感が解れる感覚。


「どうなってるんだろう…………」


『変わっていってるのですわ…………少しずつ、ね』


「変わってる…………」


『安心なさい、いずれ分かりますわよ』


 耳元から聞こえるマリーの声に殺気はない。


『明日は絶対に来なさい? 来なかったら、殺しますからね』


 物騒な物言いをするが、それでも今の彼女からは恐怖を感じない。


 馴れ合いをしたからか。


「わかってる…………明日行けばいいんだろ」


『そうですわ…………そしたら、また明日』


「また明日」


 マリーの気配は消え、守護は帰路に就く。

 ただ、その足取りは軽く歩く速度はいつもより速いことに、守護は知らない。


  ♂     ×     ?


『そうですわ…………そしたら、また明日』


「また明日」


 影から覗く守護の姿はこの前の夜とは少し違っていた。


 自分の生きる意味はない…………。


 そう感じさせていた彼の雰囲気は変わった。

 亮人と礼火と関わらせた事でいい変化が起きた。

 隣で話し合う二人。

 これまで下等だと思っていた人間。そんな人間である二人と関わっただけでマリーの考えは変わった。

 楽しめる時間が増え、笑顔が増えた。

 たったこれだけだが、マリーの心を充足させるには十分すぎるものだった。

 目の前にいる彼もマリーと同じ様に変われるものがあるかもしれない。ほんのわずかな気掛かりがマリーを動かした。


 私が他人に優しくするなんて、思いもしませんでしたわ…………。


 亮人たちへと視線を向けるマリーは微笑む。

 心に余裕ができたヴァンパイア、malinovyy tsvet printsessaマリーノヴィ・ツヴェート・プリンツェッサ

 彼女は一人、最城守護という少年を見守ることにした。


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