選ぶ者・選ばれる者Ⅳ
「今度は俺たちの番だな」
「そうだね…………負けてられないな」
全身を青白い炎に身を包む麗夜と周囲に氷の結晶を浮遊させる亮人が対峙する。
「暴走したからか、能力の幅も増えてるんじゃないか? 前はそんなこと、できなかっただろ?」
徐々に亮人を囲う結晶は大きくなり、幾つもの短剣となり矛先は麗夜へと向けられる。
浮遊する刀を一本手にとり、一振りする亮人の表情に迷いはなくなっていた。
「もう、生きる場所は決めたから」
踏み出される足元からは氷柱が生える。それは氷華のような豪快なものではないが、足元を覆う程までには大きくすることができる。
対峙する麗夜は青白い炎を自分から切り離し、独立させた。轟々と燃え盛る炎は少しずつ形を変化させ、一匹のライオンを作り出す。相手を怯えさせることができるほどの咆哮、大きな鬣に鋭い爪を持つ百獣の王は麗夜の横へと鎮座する。
静かに燃える炎のように、そこに佇むライオンは威嚇するように亮人へ視線を向ける。いつでも襲い掛かれるぞ、と言わんばかりに大きな咆哮をあげて。
「こっち側に来るってことだな」
ライオンの鬣を撫でながら、亮人を見遣る。
「みんなと一緒にいる…………その為にも覚悟は決めたから」
「そうか…………」
悲しげな表情を浮かべる亮人だが、すぐさま真剣な眼差しを麗夜へと向ける。
対峙する二人は歩みを進め、麗夜に追従するライオンは徐々に燃え盛る。
「行け」
その一言で戦いは始まった。
♂ × ?
シャーリーの能力を使い、音速に近い状態で走る亮人に同等の速度で応戦する麗夜。ただ、亮人は麗夜へと負傷を負わせることができない。
接敵した際に横槍を入れて来るライオンがいた。
恐ろしい程の熱量を持つライオンは亮人の持つ氷刀や短剣を蒸発させる。そして、触れられるだけで火傷を負う攻撃と合わせるように麗夜は肉弾戦をする。
麗夜の腕を覆うように白い炎は形を作る。それは小手のように当たったとしても物質に阻まれるかのように氷刀が弾かれ、溶かされる。
「もともとが相性が悪いんだよ。それを越えられるくらいに能力を使えよっ!!」
「本当に相性が合わない……」
二対一の状態かつ、能力の熟練度は麗夜が圧倒的だった。
暴走した時のように能力は扱えない。現状の亮人が安定して使える能力には限りがある。
「限界を超えないと死ぬぞっ!!」
轟と響く炎は亮人を包めば、全身からは湯気が立ちこめる。
間一髪のところで氷壁を作り出し、威力を相殺させるも熱風が亮人を襲った。そして、間髪入れずにライオンは咆哮と共に炎を亮人へと放つ。
一直線に放たれる炎は迷うことなく亮人を仕留めに来る。
「くそっ!!」
氷壁に自分を包み込むように氷球を作り出す。それも一番分厚く、溶かされないように。
結果として氷壁は溶かされ、最後の氷球が辛うじて亮人を守った。
「防御としては一級品な能力だなっ!!」
炎を携えた拳で叩き割られると、亮人は地面を数回バウンドしながら体勢を立て直す。
口から出て来る血を吐き出し、視線は麗夜へと向け。
「亮人たちと戦ってる中で俺も強くなってることを忘れるなよ? 俺は亮人に負けたくない。それだけは心から決めてることだからな。変なふうに勝たれるのも癪だからな」
指を鳴らしながら歩みを進める麗夜は出会った時のような表情はなく、笑みを浮かべ、亮人へと飛びかかる。
「俺たちにとっても、亮人……あんたは大切な人だ。だから、あんたを俺たちは守る。だから、俺らはあんたらより弱いことは許されないっ!!」
二本の氷刀で何とか受け流しながら、目の前にいる少年も自分と同じように本気であることを認識する。
「俺だって…………麗夜くんたちも守りたいっ!! だから、負けられないんだよっ!!」
背後から吹き荒れる吹雪。吹き荒れる雪は触れた箇所から一瞬にして凍結させていく。麗夜の片腕が凍結されそうになるも、炎で一瞬にして蒸発させライオンと共に後退する。
「そうそう、そうやって能力の幅を利かせていくんだよ」
汗一つ掻いていない麗夜の表情は嬉々たるものだった。亮人の成長を楽しむように、そして戦い自体を楽しむ彼の性格が、麗夜に笑顔を浮かばせた。それに同調するようにライオンは麗夜へと頬を擦り合わせる。
「行くぞっ!!」
頭を撫でられたライオンは形を崩し、炎となって麗夜へと纏われる。全身を覆う炎は徐々に形を変え、一部はマントのように、一部は王冠へと、その装束はまるで一国の王を彷彿させるものであった。
マントは赤く風に靡けば、火の粉を周りへと四散させる。火の粉が触れた先からは白い炎が音もなく燃え上がり、一瞬にして氷柱を蒸発させた。
さっきとは違う熱量。
触れれば終わってしまうような彼の威厳と力は亮人へとプレッシャーとして伸し掛かる。
まだ勝てない…………
自然とそう考えさせられた亮人の思考。
目の前で佇んでいる年下の少年が亮人を蹂躙する。そうイメージさせるだけのプレッシャーがあった。
両手を腰に置き、亮人へ視線を送る麗夜の背後ではさっきとは異なり爆風が響き渡る。
「俺も本気で行くぞっ!!」
ネガティブなイメージを持たされる亮人だが、その時は自然と笑っていた。
もっと強くなりたい…………。
単純に思える、この気持ちが亮人の心を突き動かす。
「望むところっ!!」
亮人はその場で出せる全身全霊の力を解き放つ。
吹雪く風に含ませる結晶は速度を上げると共にする巨大化して行く。大きな雹、そして氷の短剣が麗夜へと放たれる。
触れただけで凍結させ、切り刻むそれらは麗夜へと放たれる。
当たる寸前で溶かされて行く雹や短剣だが、それは時間と共に変化していった。
麗夜の頬へと掠める小さなカケラが傷を負わせ、血を流させる。
そして、吹雪と共に一瞬にして近づいてきた亮人は大きな大剣を一直線に突き刺す。
麗夜の首へ目掛けて突き立てられる大剣は溶かしきれない。だが、麗夜は亮人へと視線を向けた。
「良くなってる…………一瞬だけ驚いたぞ。だけど、まだ俺は負けられないっ!!」
首筋へと突き立てられた大剣を片手で掴むと蒸発させ、亮人を再び殴りバウンドさせる。そして、間髪入れずに白い炎を放つ。
一直線に放たれた炎は亮人へと直撃し、周囲へと爆風を起こす。その爆風に燈や礼火たち、他の練習組が腕を止めて防御態勢をとるほどのものだった。
『あんたの主人もやりますわね』
『それは当然よ。私の大切な人ですから』
『お兄ちゃんだって…………負けてないんだからっ!!』
『わかってますわよ…………』
三人の会話が終わる頃、同時に亮人達の訓練が終わった。
「前よりも強くなってるぞ」
「それはどうも…………」
亮人を襲っていた炎は氷壁へと当たると同時に、絶対零度に当てられたかのように炎は固まっていた。
その場にいる亮人は全身に力を入れられず、横たわるように這い蹲っている。
「氷華の絶対零度か。これが使えれば、だいぶ能力も強くなるだろうな」
「今回は偶々できただけだよ…………これをいつでもできる……ようにしない、と…………」
最後の力を振り絞り、亮人は意識を失い、麗夜に地上へと担がれていった。